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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年01月27日

TBS・電通・TOKYO FM『アダム・クーパー 危険な関係』01/22-02/16五反田ゆうぽうと簡易保険ホール・青山劇場

 国際的に活躍する日本でも大人気のバレエ・ダンサー、アダム・クーパーさんが演出・振付・主演されます。豪華キャストに豪華衣裳&美術&生演奏。大人がうっとり堪能できる、刺激的で官能的なダンス・エンターテインメント作品でした。
 終演後に「R指定だよね~」という声も聞こえましたが、はい、その通りだと思います(笑)。R18ぐらいかな。でも本当にこの作品の意味を味わおうとするなら、R25じゃないかしら~ん。

 「この作品を“バレエ”と呼んでほしくない」(パンフより)とご本人がおっしゃるように、確かにバレエという枠に収まる作品ではなかったです。コンテンポラリー・ダンスの振付が多用されていますし、音楽も音響もけっこう冒険が見られます。まるで言葉を話し続けているかのように踊るので、全体として演劇に近いですね。中でも、高らかと美しい声で歌うダンサーには驚きました。彼女(マリリン・カッツ)はピアノを弾いたりもしていましたよね。

 『危険な関係(原題(仏語):Les liaisons Dangereuses)』は1782年にピエール・コデルロス・ラクロによって書かれた書簡体小説です。最近はヨン様主演の映画『スキャンダル』がありました。私は中学生か高校生の時にグレン・クローズ&ジョン・マルコビッチ主演の映画をビデオで見たんですが、意味が分からなかったことを覚えています。今回は痛いほどわかりましたよ~っ。全身全霊、何もかも投げ出してしまう恋情!恍惚!大人だから、燃えれば燃えるほどに悲しいんですよね。

 ヴァルモン子爵(アダム・クーパー)は元・恋人のメルトイユ侯爵夫人(サラ・バロン)と組んで、まるでゲームのように淑女・処女をどんどんと誘惑し、落としていくが、貞淑なトゥールベル夫人(サラ・ウィルドー)に本当に惚れてしまい・・・。

 第1幕はオープニング、登場人物および設定の説明・・・と来て、ちょっと退屈しました。でも、ヴァルモン子爵があどけない少女セシル(ヘレン・ディクソン)を襲うシーンは、あまりの過激さにちょっとビビったものの、そんなスリルにゾクっとするような快感も覚え、また、アダム・クーパーとヘレン・ディクソンのダンス技術の素晴らしさに見とれて、釘付けになりました。
 あの天蓋付きベッドはAMP『白鳥の湖』を思い起こさせます。美術デザインは同じ方(レズ・ブラザーストン)なんですね。ベッドの天井からクルっと回転してアダムが降りてきちゃった時は戦慄でしたよ、あそこまでやられたら観念するしかないかも(笑)。

 休憩20分を挟んで第2幕が始まると、登場人物一人一人の感情の揺らぎが細やかな振付で余すところなく表現され、目が離せなくなりました。
 ヴァルモン子爵の誘惑をかたくなに拒んでいたトゥールベル夫人は、徐々に自分がヴァルモンに惹かれていることに気づき、必死でその感情を抑えようとするけれど、やはり頭に浮かぶのは彼のことばかり・・・という風に、舞台上で彼女一人で葛藤するシーンには胸が熱くなりました。頭ではなく体が彼を求めているという風に表現しているのが大人向けです。理性(貞操観念・社会通念・プライド・倫理観など)と感情(恋心・性欲など)が拮抗する様が、サラ・ウィルドーの麗しい身体によってしとやかに、しかし熱く表現されます。

 かつら(ウィッグ)を取って自らの姿を露わにしたヴァルモン子爵が、トゥールベル夫人の部屋に入ってきてからは、男と女の心と心がぶつかり合い、それが愛になって合わさって、2人の体ごと昇華する様子が、私の目に胸に、直接伝わってきて涙が流れました。

 恋や愛などという言葉では表せないほどの至福の時を得た2人でしたが、ヴァルモン子爵が悪夢から目覚めてふと我に返ったときに、一瞬にしてその天国が音を立てて崩れ落ちます。人間には、愛が怖くなることがあるのです。その慈悲深さに、おおらかさに、自分が押しつぶされてしまう気がするのだと思います。ただそこに身を投げてしまえばいいのですが、人間にはその勇気がないことが多いのです。愛にしても恐怖にしても、映画でジョン・マルコビッチが“beyond my control”と連発していたのを思い出しました。そう、「自分の手におえない」「自分にはどうしようもない」のですね。

 この作品では、ただ「走る」という動きがとても効果的でした。ドンファンの魔の手から逃げようと無心にドタバタと走るセシルには、少女ならではの無垢なか弱さがプラスされました。また、逃げつつもまた手を引かれて、ヴァルモン子爵の胸にギュっと抱き戻されるトゥールベル夫人の、ゆらめきながら舞台を縦横に走る姿からは、セクシーな息遣いが聞こえてきそうでした。

 演劇に慣れ親しんでいる私がバレエを観ていつも思うのは、「声(言葉)がないのになぜこんなにも雄弁なんだろうか」ということです。言葉を発するよりもはっきりと、確実に想いを伝えてくれるんですよね。

 セシルとトゥールベル夫人のことばかり書きましたが、悪玉のメルトイユ侯爵夫人(サラ・バロン)の存在は重大でした。熟女の誘惑って凄みがありますよね(笑)。遊びでしかない肉体関係を表すちょっと暴力的なダンスがかっこ良かったです。何度も着替えてくる衣裳がゴージャスでした。特に真紅のドレスは象徴的。

 ネタバレになるので書きませんが、装置がかなり凝っていて、デザインも重厚でセンスが良いです。ラストは衝撃!

 カーテンコールは2回あったのですが、スタンディング・オベーションしてる方がけっこういらっしゃいましたね。まだ幕が開けてから数日しか経っていないのを考えると、かなり評判がいいのだと思います。私も強く拍手をしました。

《東京→名古屋→長野→神戸→大阪》
演出・振付:アダム・クーパー 共同演出・美術デザイナー:レズ・ブラザーストン 作曲:フィリップ・フィーニー 照明デザイナー:ポール・コンスティブル サウンド・デザイナー:アンディー・ピンク 音楽監督:スティーブン・レイド 
出演:アダム・クーパー、サラ・ウィルドー、マリリン・カッツ、サイモン・クーパー、リシャール・キュルト、ダニエル・デヴィッドソン、ヘレン・ディクソン、ナターシャ・ダトン、バーネビ・イングラム、デーミアン・ジャクソン、ウェンディ・ウッドブリッジ、ヨランダ・ヨーク・エドジェル
招聘:TBS 制作:TBS Adam Cooper Productions Ltd. 主催:TBS・電通・TOKYO FM
チケットスペース内:http://www.ints.co.jp/cooper/adamcooper.htm

Posted by shinobu at 2005年01月27日 00:52 | TrackBack (0)