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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年02月03日

Oi-SCALE '05concept灰色3部作 1/3『model-gun モデルガン(Cプログラム)』01/29-02/06シアターブラッツ

 林灰二さんが作・演出・デザインなどトータルに手がけているオイスケールの新作は、1つの脚本に全く違うキャストが出演するA、B、Cの3バージョン公演です。結末もそれぞれ違うそうです。
 私はCプログラムを初めに拝見したのですが、AもBも観たくなりました。今週末の予定を大幅に変更しなければ・・・(汗)。なんと、一度観てその半券を持って行けば他バージョンは500円で観られます(当日券扱い)。千秋楽に近づくにつれてどんどんと混んでくるのは違いないですね。ご予約はお早めに!(って、自分に言い聞かせている・・・)

 2人の若い男が合コン帰りの深夜に、酔っ払って通りを歩いている。中谷(林灰二)はすっかり泥酔し、ゲロを吐きつつ管を巻いている。比較的しっかりしている新田(仁志園泰博)は彼女の吉美を呼ぼうと携帯から電話をしようとしていた。そこに運悪く警官が2人(川崎賢一と野村貴志)通りがかった。職務質問を受けるのだが、中谷は悪態をつく。そういえばサイレンの音も多く聞こえるし、どうやら今夜は何か事件があったらしい。
 交番まで連れて行かれた2人は調書にサインし、持ち物検査もするハメに。素直に言うことを聞けばすぐに家に返してくれるのに、中谷は反抗してポケットの中身を見せようとしない。もしかして中谷は今夜の事件に何か関係があるのか?
 定食屋の出前持ちの若者2人(斉藤岳夫とヒマラヤ軒)と幻のような女(平田暁子)もやんわりと登場し、謎はますます深まっていく。

 ストーリーにも引き込まれましたが、舞台と照明が非常にうまく使われていて、そちらに心奪われました。シアターブラッツはただでさえ奥行きが普通よりも大きいのに、舞台を客席側にさらにせり出して作っており、手前と真ん中、そして奥と、演技スペースを深く確保していました。
 真っ暗闇にぼんやりと浮かび上がってくる美しいドレスを着た女、とか、懐中電灯を足元に照らしながらふらふら、ゆらゆらと、一人分の足取りだけが歩み寄ってくる、とか。照明で暗さを際立たせたシーンがかっこ良かったです。
 舞台にはほぼ何もなく、シーンごとに机やイス、扉が出てくる程度。いつものオイスケールの舞台に比べるとずいぶんシンプルに押さえてありましたが、何もない空間自体が、演出によって効果的な美術になっていました。

 中谷が酔っ払いながら自分の気持ちを垂れ流すようにしゃべり続けるのですが、いわゆる「社会に対する反抗」とレッテルを貼られそうな言葉たちでした。でも、飾り気のない素直で正直な気持ちが語られる中で、私自身の心の根っこの方にある「あれがしたい」「これが嫌い」「あれが欲しい」というわがままな衝動に、光を当てることが出来ました。
 私たちは当たり前、常識とされていることや、それに反するがゆえに異端、非行、犯罪とされていることを、あまりに素直に受け入れすぎていると思います。もちろん、ただわがままでいることは決して良いことではないです。でも、「果たしてそれは本当か?」と自分に問いかける姿勢を忘れてはいけないんですね。

 私は脚本・演出の林さんが出演するCプログラムから拝見したのですが、A→B→Cの順番で観るとよりわかりやすいようです。Cプログラムの結末が一番難解だということらしいんですが、私は面白かったです。

 ここからネタバレします。
 
 中谷が怪しい、と誰もが思う前半ですが、徐々に正気のはずの新田の発言がおかしくなってきて、中谷だけでなく新田も、若い女性を襲った犯人である可能性が出てきます。
 Cプログラムでは、一目ぼれした女の子(平田暁子)に吉美という名前を勝手につけ、ストーカー行為をしていた新田が、彼女なしでは生きられないと思いつめるようになり、とうとう鉄パイプで彼女に殴りかかってしまった、というのが真相でした(他バージョンはまだ観ていないのでどう違うかはわかりません)。

 一番最後は、血まみれになった新田が鉄パイプを持って交番に飛び込んでくるシーンで終わるのですが、吉美が迎えに来たのも幻想、交番に居たことも幻想、中谷という友人がいたことさえも幻想だったことがわかる仕組みになっています。おそらく新田が交番に飛び込んだその一瞬間に新田が見た夢こそ、このお話の全てだったのではないでしょうか。

 開演してすぐ、新田と中谷が道路でだらだらとしている時に、客席から不穏な人物が走りこんできて鉄パイプを新田に渡します。警官に囲まれた時、新田はそれを放り捨てるのですが、中谷が拾ってきて新田に返します。そして、交番で一人でいる時には謎の出前持ちの若者に、血まみれになった鉄パイプを渡されるんです。『ヒミズ』でも“バケモノ”がいつも主人口の住田(村田充)に金属バットを渡していました。
 人間が暴力を振るう時って、決してその本人だけが原因だとは決められないのです。それは誘惑に負けたせいでもあるでしょうし、何らかの抗いがたい重圧のせいでもあるのです。
 もちろん戦争がいけないように、暴力もいけません。私たちはそれに立ち向かう勇気を持つと同時に、自らがそれを起こす原因になってしまっていないかと自分自身に問う必要があると思います。

脚本・演出・写真・デザイン:林灰二
《Aプログラム》清水慎太郎/小林篤/トモヒカン/清成慎太朗/清水徹也(クロム舎) /高橋唯子(projectサマカトポロジー)/渡辺詩子
《Bプログラム》星耕介/町田水城(はえぎわ)/中野博文/吉河童夢/中村太陽 /ドロレスヘンダーソン/フルサワミオ
《Cプログラム》仁志園泰博/林灰二/川崎賢一/野村貴志/斉藤岳夫/ヒマラヤ軒/平田暁子
美術:仁平祐也 音楽・音響効果:ナガセナイフ 舞台監督 ego-eco 照明:中山仁((株)ライトスタッフ) 衣装制作:森光あきこ 演出助手:中村太陽 映像:木村樹 小道具:NYチーズケーキ 宣伝美術:清水慎太郎 演出部:高橋唯子 吉川童夢 ヒマラヤ軒 齋藤岳夫 制作 僕AREA←Spectators[B.A.S.]
オイスケール:http://www.oi-scale.com/
オイスケール内:http://www.oi-scale.com/model-gun/model_fs.html

Posted by shinobu at 2005年02月03日 01:07 | TrackBack (0)