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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年02月12日

サイスタジオ主催・Happy Hunting Ground『Visions of Tokyo』02/10-27サイスタジオ小茂根B

 reset-Nの夏井孝裕さんの脚本を文学座所属の演出家、俳優が上演。『Visions of Tokyo』はreset-Nのシアタートラム初進出作品でした。

 サイスタジオって有楽町線小竹向原から歩いてすぐなんですね。可愛らしいカフェや雑貨屋さんと同じビルの2階なので、開演前にウィンドウショッピングしてゆっくりお茶しちゃいました♪

 劇場の壁がほとんど露出したままの殺風景な舞台には、積み上げられた土嚢(どのう)の山が一つ。その場所(部屋?)を訪れる男、男、男。静かで恐ろしい4人芝居です。

 reset-Nによる初演(2002年1月)に比べると、全体的に軽いタッチで作られているように思いました。登場人物の一人一人があまり気持ちの上で交わらないで、それぞれが自分の世界を保ったまま、その中で葛藤している状態で、観客に対しても現実世界に対しても、ちょっと距離を感じさせる仕上がり具合だったのではないでしょうか。一人一人についてはなるほどなぁと納得だし、素敵だなぁと思ったりできたのですが、作品全体のパワーとしては想像していたよりは弱かったように思います。
 でも、やはり脚本が素晴らしいので見ごたえはあります。今月末までです。

 ここからネタバレします。

 放射性物質(プルトニウム等)を土嚢の下に隠していた2人の研究員(クラモト:高橋克明、フジタ:細貝弘二)は、彼らなりに悩んだ結果、致し方なくプルトニウムを持ち出したという解釈に取れました。初演では冷徹無比、人殺しなんて朝飯前&四六時中OKのような人物だったクラモトですが、今作では人間味のある人物でしたね。クラモトの部下のフジタ(細貝弘二)も、自分のミスのせいで地下50mのコンサートホールに危険物質を隠すハメになったけれど、必死で安全処理をしようとする善意の若者でした。
 最初はちょっとしたきっかけでしかなかったのであろうクラモトの欲が、雪ダルマ式に大きな野望となり、部下のフジタを巻き込んで猛スピードで闇へと突っ走り、決して消えない罪へとなっていった様子が目に見えるようでした。そこは初演とかなり違う印象で面白かったです。

 放射性物質の扱いについての演出に少し疑問を感じました。例えばラストでジュラルミンケースの蓋を開けて、5kgと5kgのプルトニウム同士を近づけていたようなのですが、照明が光っていただけで爆発等は起こりませんでした。たしか2つを近づけると「東京が吹っ飛ぶ」と言っていた気がするんですが・・・。また、蓋を開けるだけで「いや~な死に方をする」のでしたら、彼らと同じ空間(客席)に居た私も「あぁ、その蓋を開けないで!私は“いや~な死に方”をしたくない!」って思いたかったですね。蓋を開けるシーン、プルトニウムを近づけるシーンの両方が、サラっとしすぎていたんじゃないでしょうか。
 ※脚本家の夏井さんからご指摘をいただきました。プルトニウムそのものは爆発せず、臨界反応を起こして強烈に放射線を出すそうです。「壊滅」という台詞が使われていたようで、私のうろ覚えでした。ごめんなさい。

 2人の研究員と、ホルン奏者の女の子に恋をしたヴァイオリン奏者のニカイドウ、ずっと自分の死に場所を探していたヤザキ(浅野雅博)という4人が、「死」を目の前にして自分自身について深く考え、行動を起こしていく様には感情移入できましたし、発する言葉にもそれぞれのにリアリティがありました。でも、この作品は登場人物一人一人についての群像劇に納まるものではない気がしている私にとっては、ちょっと物足りなかったかもしれません。
 4人の俳優と40名ほどの観客、そしてプルトニウムという圧倒的な破壊力を持った決死の危険物質が同時に存在する空間で、人間、地球、命、という大きなテーマを感じたかったです。プルトニウムが入った禁断の箱を開ける瞬間、恐怖と歓喜が入り混じった、言葉では表現できないような高揚した感覚をヤザキは身体で感じたと思うのですが、観客の私もそれを共有したかったですね。

作:夏井孝裕2作品連続公演『Visions of Tokyo』,『knob』
※『knob』は1999年に第四回劇作家協会新人戯曲賞を受賞。
【出演】Happy Hunting Ground(ハッピーハンティンググランド)
「knob -ノブ- 」:加納朋之・古川悦史・川辺邦弘・亀田佳明・斉藤裕一・征矢かおる・添田園子
「Visions of Tokyo -ヴィジョンズ・オブ・トーキョー-」:高橋克明・浅野雅博・石橋徹郎・細貝弘二
「動物園物語より」(ポケットシアター) : 古川悦史・助川嘉隆
作 夏井孝裕 エドワード・オールビー「動物園物語より」  演出:高橋正徳 美術:乗峯雅寛 照明:中山奈美 企画・制作:吉田 悦子・Happy Hunting Ground 主催:サイスタジオ 協力:文学座企画事業部 サイ(株)スタジオ事業部
公演サイト:http://www.saistudio.net/html/studio_performance_vol14.html

Posted by shinobu at 2005年02月12日 01:19 | TrackBack (0)