2004年度の朝日舞台芸術賞を受賞されたばかりの長塚圭史さん率いる、阿佐ヶ谷スパイダースの新作です。NHKトップランナーにも先日出演されたばかりでしたよね。
私は2000年ごろから阿佐スパを拝見しているのですが、この作品に一番感動しました。
前売りは完売ですが、当日券は毎回数十枚発行されます。今日も補助席は空いている箇所がありました。休憩無しの2時間30分。長塚さんの本気と出会えます。
山本(吉田鋼太郎)は妻の愛子(伊勢志摩)を連れて、東京からとある山奥の一軒家に引っ越してきた。自分の浮気のせいで精神を病んでしまった愛子の療養のためだ。家に着くと、知らない女(小島聖)が勝手に家に入ってイスに座っていた。彼女の夫(長塚圭史)が迎えに来てとりあえず帰ったが、夜中にまた現れた。女は携帯電話をえさに愛子を呼び寄せて、地面に穴を掘るよう依頼する。その穴から、第二次世界大戦で戦死した日本兵のゾンビ(山内圭哉、中山祐一朗、伊達暁)が出てきたのだ。
戦争を描く舞台作品というと、戦中日本をご存知の井上ひさしさんの作品を上演するこまつ座のスタンスもありますが、今一番人気といっても過言でない若手劇団がエンターテインメント作品の中で戦争についての率直な考えを描いていることに、まず大きな価値があると思います。
劇中では戦死日本兵と現代日本人が対話しますし、日本が敗戦したことを知った日本兵ゾンビ3人も、三人三様の本音を話しあいます。戦中、戦後で急激に変化した日本の政策・教育によって、すっかり分断されていた日本人同士の心が、時代を超えて交流するのです。観客と作品の作り手、観客同士の間でも間違いなく深いコミュニケーションが生まれているでしょう。生の舞台作品だからこそ実現できたことではないでしょうか。
ここからネタバレします。
チラシビジュアルを一目見てもわかりますが、ホラーです。グロテスクなゾンビが出てきますので、スプラッター(血がとび散ったり、内臓がぶら下がったり、残酷描写の多い)映画みたいなシーンがたくさんあります。仕掛けが凄くて舌を巻きます。『ウィー・トーマス』同様にB級映画っぽい笑いになりますので、それはそれで阿佐ヶ谷スパイダースの醍醐味といえると思います。
山本と愛子の悲しいすれ違いや、戦死した婚約者(立花伍長:中山祐一朗)をずっと待ち続けている幽霊サヤ(小島聖)と、サヤを愛していた夫(眞:長塚圭史)の三角関係など、恋愛ドラマにも濃い味わいがあります。
この物語だけに当てはまる設定(幽霊とゾンビの違い等)が少し強引でわかりづらいかもしれないですが、私はあまり気に留めずにいました。身体に降り注がれるこの作品のまっすぐなパワーを、そのままに浴びることに専念しました。
吉田鋼太郎さん。最初、うろたえる姿があまりに似つかわしくなくてちょっと戸惑いましたね、吉田さんはいつも荘厳たる立ち姿の俳優さんなので(笑)。でも、徐々に現代の不幸な中年男に同情できるようになってきて、ラストの表情には私も涙しました。
長塚圭史さん。赤い目で出てきた時は本気で怖かったです。やっぱり役者、長塚さんの大ファンですね、私は。出てくるたびに長塚さんだけを見つめてしまいます。何か違うオーラが出ている気がするんです。
当日パンフレットが2,000円で販売されており、なんと戯曲『悪魔の唄』が全編収録されています。パンフ冒頭の制作代表の伊藤達哉さんの文章に心動かされました。私も同じ世代だからかもしれません。戦争を扱うことのリスクを承知の上でこの作品を作られ、戯曲を掲載していることからもその覚悟がわかります。
下記、ラストシーンで特に私の心に残ったセリフです。パンフより引用します。
立花伍長「・・・たくさんの仲間がそうやって執念深く待つ女たちを守るため戦って命を落とした。俺の周りには皇国日本のためでなく、愛する者のために死んだ奴等ばかりだったよ。平山もそうだ。」
山本壱朗「・・・君もそうなのか・」
立花伍長「・・・いや、俺は違う。ただ今は、そんなただの戦争好きみたいな奴の身代わりとなって死んだ奴等の為に死にたい。そう思っている。」
山本壱朗「・・・。」
立花伍長「あんたは日本が好きか?」
山本壱朗「・・・まあ平和な日本は好きだ。過ごしやすいし。」
立花伍長「俺も日本が好きだ。意志の強い国だ。」
山本壱朗「・・・。」
立花伍長「目標はノーフォーク。」
鏡石二等兵「え? ワシントンではないのですか?」
立花伍長「予定変更だ。ワシントンには民間人が多すぎる。無抵抗の者を殺しても民族の恥だ。ノーフォークには米軍最大の海軍基地があると貴様言っていたろう?」
言及ブログ↓
踊る芝居好きのダメ人間日記 (阿佐スパといえばこの方!)
《東京公演後→大阪・札幌・仙台・名古屋・福岡・広島》
出演:吉田鋼太郎 山内圭哉 小島聖 伊勢志摩 池田鉄洋 中山祐一朗 伊達暁 長塚圭史
舞台美術:加藤ちか 照明:佐藤啓 音響;:加藤温 山本能久 衣装:木村猛志(衣匠也) ヘアメイク:綿貫尚美 演出助手:山田美紀 舞台監督:福澤諭志+至福団
宣伝美術:Coa Graphics(藤枝憲 高橋有紀子 河野舞) web:山川裕康 制作助手:山岡まゆみ 辻未央 西川悦代 大野志穂子 制作:伊藤達哉 岡麻生子 製作:阿佐ヶ谷スパイダース
主催:(社)日本劇団協議会 創作劇奨励公演/TOKYO FM
公演サイト:http://www.spiders.jp/as/performance/akumanouta.asp