五反田団は前作『いやむしろわすれて草』で岸田國士戯曲賞の最終選考まで残った前田司郎さんが作・演出する劇団です。
ブランコが2個ぶらさがっているだけの小さな空間。あらゆる事象は突然に起こり、決して逃れることが出来ません。なるほど、神話でした。前作よりも明らかに難解でしたが、私は今回の方が面白いと思いましたし、ずっと好きですね。
ここからネタバレします。観に行かれる方はお読みにならない方がいいと思います。でも、読んでしまってから観に行かれても面白いと思います。あの空気は劇場に行かないとわからないので。
妙なダンスを踊っている男とその先生。「そんなダンスじゃだめ!あなたにはがっかりしたわ」と先生。2人が去った後、舞台に残されたのは記憶(キャベツ)を頭から取り出してしまった男。1人ぼっちになって怖くて泣いていたら、女が現れる。その女曰く2人は夫婦らしい。女の頭の中には虫がいて、脳を食べてしまうから、記憶があいまい。
舞台上手の壁からドンドン!と音がする。男はおびえる。女は言う「大丈夫よ。赤ちゃんが生まれるの。」
客席にはげらげら笑っている人もいたし、ボロボロしくしく泣いている人もいました。全てがあまりに突然で、意外で、自分が感じるままに受け取るしかない状況でした。
半天を着た女の存在がめちゃくちゃ唐突ですごい迫力でした。役名は「神」とあります(パンフレットより)。あれ、神様だったのか。確かに。存在するかどうかもわからないし、えらいのかどうかも、力があるのかどうかもわからないのに、誰もがひれ伏しますよね。
神が作った食パン人間(?)を飲み込んでしまったために、頭に虫が居る女は巨大化します。突然に、無根拠に(笑)。照明も音響も何も変化なく、演技だけで表現するのが面白いです。女はどんどん大きくなって空より高くなり、男は反対に虫けらのように小さくなり、女は広がりすぎて身体が拡散し、透明になって見えなくなります。・・・ありえないんですが、すんなり信じられました。その女を追う男、悲しいなぁ。泣けるなぁ。
女の頭の中に居た虫が女を食べつくしてしまい、女の記憶を全て手に入れて、キャベツ(=男の記憶)の中の虫として現れたのには感心しました。でも「本当は私はもういない(死んでいる)の。あなたの記憶の中の私なの」という展開(セリフ)になったのはあんまりでした。全てが男の想像の世界の出来事だったかのようにも解釈できて、いわば夢オチといいましょうか、私の頭で想像できる範疇におさまってしまったんです。もっと広く、大きく放りっぱなしにしてもらっても良かった気がします(笑)。
《アフタートーク》
演出家と俳優によるアフタートークがありました。作・演出の前田司郎さんと夫役の黒田大輔さん、妻役の渡辺香奈さん、半天を着た女(神)役の中川幸子さんが舞台に出ていらっしゃいました。
前田さんは居酒屋(?)の店員役で少し出演されていて、背の高いひょろっとした、けっこう男前の男性でした。おしゃべりがとても上手で聞き惚れました。主張もするし冗談も言うし、正直に話すし嘘もつくし(笑)、饒舌でしたね。賢い人でした。好奇心も満たされたし目にも優しいし、満足のいくアフタートークでした。※明日3/9(水)もアフタートークがあります。
前田さんがおっしゃったこと↓(私が聞いて書き取ったものですので、完全に正確ではありません)。
「演出は言語的。脚本は感覚的。前作『いやむしろ・・・』では(言語的に)わかりやすいものを作ってみようと心がけた。今回は、感覚でしか解釈できないものを作りたかった。」
「今は言語だけがコミュニケーション手段のように認識されているけれど、昔は言語よりももっと感情に近い言語でコミュニケーションしていたはず。誰か有名な外人が言っていたと思うんだけど『最初(原初?)の人間は詩と歌で会話する』って。」
「たとえばこの作品では、血を流している妹に対して皆すごく冷たい。普通なら血を流している人には『どうしたんですか?』とか言って救急車を呼ぶかもしれない。でも、怪我などはしていなくて、ものすごくヘコんでいる人がいても、別に誰も優しい声をかけたりはしない。見えるものしか信じないというか。科学がいけないのかな?見た目にはわからなくても、ものすごくヘコんでいる人がいたりもする。そんな人に気楽に冗談を話しかけてしまったり。人に接するということは、本質的に残酷なことをはらんでいる。」
「自分は27、8年ずっと五反田で暮しているし、五反田のことで知らないことなどないと思っているけれど、五反田のことを実は1割も知らない。たとえば一緒に暮していても母や父のことを1割も知らないだろう。」
「世界について全然知らないのに知っているようなつもりでいる人間って不思議だ。面白い。でも、知らないまま、知らないことに気づかないまま生きていくのはイヤだなって。」
「ダンスについて。嬉しいと身体が勝手に跳ねたりする。言語が発達する前のタネはダンス、詩、歌なんじゃないか。演劇よりもコンサートの方が感情に直接触れる芸術だと思う。僕は演劇が好きなので・・・(ここからは忘れました。すみません)」
「原初的なものへのあこがれ、もしくは嫉妬かな。だからダンス(ヘンなうごき)を入れるのかもしれない。」
「昔、(眠っている時に見る)夢を見るのが好きだった。夢がいつも神話に似ていたので、神話と自分の夢の親和性を感じた。夢みたいな芝居が作りたいと思っていた。」
「○○人ってバカなんじゃないかなって。あ、いや賢いんですけどね(笑)」
「衣裳はお金をかけずにその役者に合った服(つまり役者の私服)を着てもらう。」
春の団祭り2005参加作品
作・演出:前田司郎
《出演》男:黒田大輔(THE SHAMPOO HAT) 女:渡辺香奈(青年団) 兄:大島怜也(PLUSTIC PLASTICS) 妹:端田新菜(青年団) 先生:望月志津子 神:中川幸子 店員:前田司郎
照明:岩城保 宣伝美術:藤原未央子 イラスト:前田司郎 制作:榎戸源胤・舘野完
五反田団:http://www.uranus.dti.ne.jp/~gotannda/