トリコ・Aプロデュースは京都を中心に活動する山口茜さんの一人ユニットです。山口さんが作・演出・出演されます。
『潔白少女、募集します』というかなり目を、心を惹きつけるタイトルですが、ストーリーは「お芝居をしない劇団の話」でした。観る前に読んだパンフレットにこう書かれていて滅入りました。演劇で演劇の話、しかも劇団をテーマにするのはきついんですよね。でも物語が特に重要なわけではなく、演出が見所の作品でした。
東京芸術劇場小ホール1は壁が黒くて天井が高く、もともとがかなりかっこいい空間です。今作品でも劇場設備をそのまま生かして見せる形の舞台美術でした。ステージは真ん中ではっきり2つに分けられ、およそ正方形の舞台が左右に並んで2つある状態です。両方の舞台上にイス、窓、木、机(片方はデスク)があり、白樺の幹のようにまだらに白く塗られています。黒い空間に白い家具が映えます。
床板を金属の足で持ち上げて舞台を作っているため、持ち上げている金属の柱が露出しています。Ort-d.d + こふく劇場『so bad year』を観て感じたのと同じように、そのステージ下の空間に照明を当てるのがすごくきれいです。
デジログからあなろぐに作品についての詳しい解説と講評が書かれています。そうなんですよね、物語よりも演出に重点が置かれている作品でした。
bird's-eye viewに似ているというのは盲点だったな~。一人の人物を複数の役者が演じたり、少しずつ時間がずれながら2箇所で同時進行したり、群舞をしたり、衣裳も可愛らしいし、たしかに似てる!ただ、トリコ・Aには浮遊感が全然なかったです。地面に足がびったり、腰まで埋まるぐらいの(笑)安定感がありました。そして暗い。おとなしい。bird's-eye viewはどこにも属さない不安定な存在で、明るく活発です。具体的な構成や振付の方法が似ていても、出来上がる空間世界はこんなにも違うんですね。
作品として全体的にどうだったかというと、どうしてもストーリーに魅力が感じられなかったため1時間30分は長かったです。これだけチャレンジングな演出をされるのなら、別に脚本まで書かなくてもいいんじゃないかなって思いました。音楽の使い方や、セリフの語り方、ずっと2重になった物語など、面白いと思った演出も沢山ありました。
《ポスト・パフォーマンス・トーク》
終演後にポスト・パフォーマンス・トークがありました。Ort-d.dの倉迫康史さんが主宰の山口さんに質問します。山口さん、可愛いらしくて素朴で正直な方でした。舞台にいる時よりも可愛く見えたのはちょっとどうかと思うんですが(笑)、芯の強い、京女でした。
やはり倉迫さんも「演劇をテーマにするのはリスキーですよね?」と問われていて、それに対する山口さんのお返事は「劇団の話だと思って観てもらえなくてもいいです。他のものに自由に置き換えてもらえたら。例えば政策を作らない政治家とか、セックスをしない夫婦とか、子供を生まない私、とか。」でした。なるほど、そう取ろうと思えば取れなくもないですが、私には細かいところがリアルすぎてちょっとムリだったかな。
その他、山口さんがおっしゃったこと↓ (完全に正確では在りません)
「戯曲重視のお芝居について。戯曲と戦うのは思っているよりも大変だと思う。」
「今ある演劇には興味がなくて。もっと新しいものに出会いたい。」
「演出は、自分を客観視できるし、作品を客観視できるのが面白い。」
「戯曲を書くのも好きだけれど、演出をもっとやりたい」
来年には大阪で日本の近代文学を演出することが決まっているそうです。東京には今年の12月にこまばアゴラ劇場に来てくれます。
作・演出:山口茜
舞台監督: 清水忠文 舞台美術: 五木見名子(GEKKEN staffroom) 照明: 池辺茜 (GEKKEN staffroom) 音響: 椎名晃嗣 衣装: アコ 制作: 掛川弘一(telop-plot)
出演: 内田和成/鈴木正悟/竹原孝昭/石田陽介(graggio)/ 藤原大介(劇団飛び道具)/岩田由紀/筒井加寿子/森衣里/ 山口茜
精華演劇祭オープニング2 参加公演
東京国際芸術祭2005リージョナルシアター・シリーズ
トリコ・Aプロデュース:http://toriko.chips.jp/
東京国際芸術祭2005内:http://tif.anj.or.jp/program/tori.php