鈴木裕美さんが演出される翻訳ものを観るのは『第17捕虜収容所』『おーい、救けてくれ!』『人形の家』『ダム・ウェイター』『マダム・メルヴィル』に続いて6作目になりました。明らかに演出が面白くなってこられています。来月、ジャニーズ事務所の男の子が出演する『エデンの東』も鈴木裕美さん演出ですね。今後も翻訳ものの演出が続くようです。
一組の老夫婦(木内みどりと花王おさむ)が白浜の気持ちの良い海辺で、休日のゆったりとしたランチタイムを過ごしている。夫がリタイアしたため、妻はこれからの2人の生活についてどんどんと新しい提案をするのだが、夫は「自分は休息を取りたい」の一点張り。長年連れ添った夫婦の今まで語られなかった過去が2人っきりの浜辺での会話から次々とあふれ出す。すると、予想だにせぬ物体が登場し・・・。
残念ながら戯曲の面白みを伝えきった演出にはならなかったようです。まず第一幕は老夫婦の会話が約1時間ほど続くのですが、セリフも膨大で、非常に木目細やかな感情表現が必要な二人芝居でした。しかしながら老夫婦役のお二人とも、全てのセリフや間においてきちんと心を尽くして演じきったとは言えない仕上がりでした。さらりと流れてしまうシーンが多かったです。相当難しい戯曲だとは思います。
そして、1幕の終わりに登場したモノが・・・リアルすぎて私は引いちゃいました。
ここからネタバレします。
なんと海から現れたのは全身緑色の巨大トカゲのカップル(小松和重と歌川椎子)。第2幕から人間夫婦とトカゲ夫婦の“未知との遭遇”問答が繰り広げられます。
戯曲に書かれていたのは動物、人類の進化の話だったと思うんです。果たすべき責任を全て果たした老夫婦のこれからの人生について、ポジティブにやりたいことを実現していこうとする妻と、やっかい事はゴメンだと言う夫の二項対立は、海に住み続けるのは平和だけれど、なぜか地上に惹かれて海から陸に上がってみた巨大トカゲが、いきなり「人間」というやっかいな敵と出くわし、また海に戻ろうとしてしまう展開と重なります。
最後に、トカゲの地上進出を手助けしようと申し出た人間夫婦の言葉に乗って、トカゲ男(小松和重)が「じゃぁ、頼む!」と言って舞台中央に座り込んでしまうのが滑稽です。誰かに何かしてもらうのを待っているだけで、自分から未来を切り開いていく努力をしない動物には進化などありえないのです。にやりとするような笑いを含みながら、ちょっと辛らつに動物と人間の差を表現している脚本は面白いと思いましたが、演技や演出でそこがきちんと表されているようには見えなかったですね。
訳: 鳴海四郎 作: エドワード・オールビー 演出: 鈴木裕美
出演: 木内みどり 小松和重 歌川椎子 花王おさむ
美術:川口夏江 照明:中川隆一 音響:井上正弘 コスチューム:高橋岳蔵 ヘアメイク:河村陽子 舞台監督:村田明 安田美和子 演出部:飯塚加邦 演出助手:田村元 宣伝美術:鳥井和昌 宣伝写真:加藤孝 宣伝小道具制作:藤井純子 制作:須藤千代子 村田明美 大槻志保 企画・制作:自転車キンクリーツカンパニー
自転車キンクリーツカンパニー:http://www.jitekin.com/