ブレヒト原作の『肝っ玉おっ母とその子供たち』をイスラエル人の女流演出家ルティ・カネルさんが演出されます。主演は吉田日出子さん。シアターX(カイ)の“2年がかりのブレヒト的ブレヒト演劇祭”の最後を飾る演目です。
こちらのブログと、べた褒めの朝日新聞の劇評(田之倉稔さん)を読んで、当日券で伺いました。
残念ながら私は一度も『肝っ玉おっ母とその子供たち』を観たことがありません。あらすじを読んでいつも観に行くのをやめていました(結末まで必ず書いてあり、それがとても暗いので)。たぶん原作により近い演出の作品を観ていたら、今回のこの作品をもっともっと楽しめただろうと思います。
三十年にわたる宗教戦争時の17世紀ドイツが舞台で、戦争を恨みながらも戦争に食べさせてもらっているという、大きな矛盾のど真ん中で死に物狂いで生きているある家族のお話です。主人公のアンナ・フィアリングは兵隊相手に行商する肝っ玉おばさん。息子2人と言葉が話せない長女の3人の子供がいるのだが・・・この後のあらすじはこちら(2000年の俳優座公演)でどうぞ。
古ぼけて、傷だらけになったトランク鞄を用いて、舞台上に現れるほぼ全てのモノを表現します。壁になったり椅子になったり、小さいものだとビールのジョッキや銃にもなります。舞台には袖幕はなく、役者さんが舞台の上手と下手で待機しているのが露出した状態です。『赤鬼 タイバージョン』や『セツアンの善人』に似ています。
オープニングが超かっこよかった!涙出そうになりました!舞台上にトランクを積み重ねて石垣のようにびっちりと組み立てられた壁がそびえており、生演奏(アコーディオン、ヴァイオリン、テューバ)の音とともに徐々に、しかし突発的にその箱が崩されていきます。舞台中央の天上からぶらさげられたロープに、アンナの家族が持っているトランクをぶら下げ、下から数人でそのトランクをかかえて舞台上をぐるぐると歩き回り、アンネの家族の持つ幌車を表現していました(チラシビジュアルはそのイメージイラストですね)。実際に車が大道具として存在するよりもずっと面白いです。
口がきけない末娘が敵の侵攻を知らせようと、屋根の上にのぼって太鼓を叩くシーンは涙が出ました。ロープで吊り上げられて、銃で撃たれた時には舞台中央で宙ぶらりんになるんです。苦しいよー。
演出全体としては劇評に書かれているほど斬新ではなかったので、当日券で駆け込むほどではなかったなぁと思いました。好みも分かれるとは思います。でも、同作品を上演した他の公演写真(2000年俳優座、2000年レパートリーシアターKAZE)を観る限りでは、この作品は相当に面白かったのかも。2002年コリーヌ劇場@パリは凄そうだなー。
主役の吉田日出子さんがよくセリフを間違われました。カンペを小道具に貼り付けているのも(桟敷だったからもありますが)よく見えてしまい、さびしかったです。でも歌はパワフルでかっこよかった。
真那胡敬二さんと冨岡弘さんもよく間違われていました。吉田さんともどもアドリブが多くて、舞台を楽しんでらっしゃるのがわかりましたが、私はなんだか中ぶらりんな感じがしました。皆さん、自由劇場出身の役者さんですね。
「すごく普通だけど、どこかヘン」というようなセリフが2度繰り返されるのですが、あれはぜひ戯曲を読んで覚えたいと思いました(まだ買ってないけど)。
【当日券対応】
ちょうど劇評が出た日の翌日に伺ったのですが、私は当日券番号18番でした。10番までは補助席が出て、それ以降は桟敷席だと言われました。たぶん25~30人は並んでいたと思います。
舞台と客席の最前列との間に一列ざぶとん席が設けられたのですが、舞台までの距離もゆったりあって、比較的快適に観られるなぁと思ったのもつかの間(笑)。トランクをばんばん振り回したり、ぶつけたり、床に叩きつけたりしますので、埃がわんさか立つのです。鳥の羽を使われた時はもう大変!鼻がむずむず、目がしばしばしはしてしまい、花粉症用のマスクをつけての観劇となりました(苦笑)。でも、座席を急遽作って劇場に入れてくださってありがたかったです。
『肝っ玉おっ母とその子供たち』(千田是也訳)
原作 : ベルトルト・ブレヒト 演出:ルティ・カネル 美術:ロニ・トレン 音楽:ロネン・シャピラ 衣裳:加納豊美 照明:清水義幸 文芸部 : 原牧生 山本健翔 入市翔 翻訳 : 菅生素子 福室 満喜子
出演:石田知生 木室陽一 ケイタケイ ささいけい子 高川裕也 谷川清美 冨岡弘 長畑豊 西巻直人 ハンダイズミ 響巳夏 真那胡敬二 三谷昇 三宅右矩 三宅近成 山本健翔 山本哲也 吉田日出子
演奏:ロネン・シャピラ(アコーディオン) 波田生(ヴァイオリン) 三原田賢一(テューバ)
シアターX:http://www.theaterx.jp