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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年04月16日

青年座『妻と社長と九ちゃん』04/08-17紀伊國屋ホール

 ラッパ屋の鈴木聡さんが青年座に初の書き下ろし。それを宮田慶子さんが演出するという嬉しい公演です。
 いかにも新劇だなぁという演技、演出もありますが、笑えて泣けて(私は泣きすぎかもしれないけど)、超感動!

 《あらすじ》
 舞台は、東京は日暮里にある老舗企業・昭和文具の社長、春日浩太郎(久保幸一)の自宅。肝臓病に倒れた浩太郎の後継に、息子の昭一(横堀悦夫)が選ばれてからというもの、浩太郎はめっぽう機嫌が悪い。
 ガンコでワンマンな昭和の社長、浩太郎の大のお気に入りは、心意気はあるが要領が悪く、デキの悪い団塊の世代を代表するようなオチこぼれサラリーマンの九ちゃん(岩崎ひろし)。友人や他の社員の言うことはいっさい聞かず、用もないのに九ちゃんを自宅に呼び寄せたりしているので、息子の昭一を含む会社の役員達もしぶしぶながら九ちゃんには一目置いている。
 浩太郎は妻が死んだ後1年も経たずにホステスの佐和子(増子倭文江)と結婚した。昭一も長女(那須佐代子)も佐和子のことは認めておらず、浩太郎、佐和子、昭一の3人が同居する家では父と息子の言い争いが絶えない。
 《ここまで》

 ものすごいスピードで劇的に変化し続けている平成と、既に過ぎ去った古きよき、懐かしき昭和が対比されます。

 社長(久保幸一)が経営する昭和文具は、本社グランドで「春の花見、夏の盆踊り、秋の運動会、冬の餅つき」をご近所の皆様に提供してきた会社です。会社というものが今とは違って、ただの経済システムの一つではなく、もっと人々の生活に密着した組織だったんですね。そういえば社員旅行とか、最近は少なくなってるそうです。
 小学校の校庭での盆踊り、町内会の空き地で餅つきなど、私が子供の頃は近所の大人たちにとても大事にしてもらっていました。今、私が住んでいる町もありがたいことに町内会活動がとても盛んで、昔みたいに色んな催し物があるのですが、新しくできた町や、繁華街・ビジネス街になって過疎になった場所では、昔ながらのつながりは必然的に少なくなってきているでしょうね。

 私は文字にすることができる経歴や身分、実績よりも、顔や声、意志の強さなどを感じて人付き合いをするタイプで、人情にほだされやすいし涙もろい人間です(なんか恥ずかしい・・・)。社長や妻の佐知子、九ちゃんに同調する方なんですよね。それでこんなに涙がボロボロ流れたのかしら。いえ、それだけじゃない気がします。私も昭和生まれの昭和育ちです。昭和の良かったところをそのまま「あれは良かったよね」と言ってもらえて、私は嬉しくなったのだと思います。

 作者の鈴木聡さんと演出の宮田慶子さんの緊急対談に、このお芝居が伝えんとしている意味が簡潔に書かれています。下記、対談から抜粋します。

 鈴木「今、情報が多くてチョイスすることが面倒臭い。要するに良いものを残し、これは残さなくていいと、いちいち検証するのがみんな大変な気がしてると思うんですよ。」
 宮田「もう、手におえないですよね。」
 鈴木「だけど、結構そこに重要なものがある気がします。昭和といっても嫌なことはいっぱいあります。だけども良いこともある。良いものは残し、良くないことは変えていくことが大事な気がしますね。
 宮田「そうですよね。凶悪犯罪が増えたり、地震が起きたりと、日本人が自信を無くすことがいっぱいある。そういうこの芝居を通して「日本人はいいじゃん」とちょっと思える。」
 鈴木「今回の芝居の中心になっているのは、会社や家族。妻と社長と九ちゃん3人の共同体があり、これを登場人物皆が持っているということで、すごく勇気づけられ明るく暮らしていける。僕はその楽しい共同体を作るのが実は日本人のすごく得意とする事だと思います。強みだと思うんです。」

 九ちゃんが社長のお葬式で必死に話すセリフが胸に残りました。
 「会社は人間の集まりだ」「色んなヤツがいるから会社なんだ。」
 「いいものは残してもいいじゃないか。何もかも壊して新しくすることないじゃないか。」

 九ちゃんの「九」は憲法第九条の「九」だということが社長の葬式のシーンではっきりとわかります。憲法第九条についてもそうですよね。「戦争を永久に放棄する」のは明白に良いことです。時代・事情がどう変化しようが、良いものは残せばいい。ここで面倒くさがって、流行にのって、怠けてはいけないと思います。

 美術(横田あつみ)は味のある昭和の時代の格式高い一軒家で、舞台転換をする度に小道具で季節の風情を出していたのが素晴らしかったです。玄関の靴箱の上に置いた生け花が毎回変わりましたし、居間のお座布団が冬用から夏用になったり、柱に風鈴がついたり、細かいところまで行き届いた演出でした。

 イヤ~な中年男をやらせれば新劇界一(?)の横堀悦夫さんは、嫌みで意地悪な新・社長役をやはり好演されていました。でも、ちょっとクールすぎた気もします。もうちょっと壊れても、可愛げが出てよかったのではないかと思います。

出演=岩崎ひろし/久保幸一/増子倭文江/横堀悦夫/那須佐代子/田中耕二/加門良/松熊明子/長克巳/山口晃/青羽剛/若林久弥/田島俊弥/川上英四郎/高義治/もたい陽子/緒方淑子/布施幾子
作=鈴木聡 演出=宮田慶子 装置=横田あつみ 照明=中川隆一 音響=高橋巖 衣裳=半田悦子 舞台監督=尾花真 製作=森正敏 佐々木聡一
一般:5,000円
青年座内:http://www.seinenza.com/performance/178/

Posted by shinobu at 2005年04月16日 12:16 | TrackBack (1)