内野聖陽さんと麻実れいさんが出演する井上ひさしさんの書き下ろし新作で、栗山民也さんが演出されます。文句なく今年の大注目公演です。舞台写真はこちら。
私が拝見したのは5/21(土)マチネですので、5/19(木)初日から数えて3ステージ目です。井上さんの脚本の仕上がりが遅かったため(ご本人もプログラムに挟まれたリーフレットに書かれています)、完成度が低いという悲しい結果でした。でも、井上さんの新作がオンタイムで観られる幸せを考えたら、そんなことは小さいことかな、と。
終盤になるにつれてぐんぐん面白くなっていくのは間違いありません。当日券(Z席)のお求め方法はボックスオフィスにお問い合わせください。
時は昭和20年4月。イタリアとドイツが降伏した今、49カ国を相手に戦っている日本にとって中立同盟国であるソビエト連邦は非常に大切な国となっている。そこでソ連の駐日大使館の疎開先として新しく選ばれたのが、箱根の山の上にある名門の箱根強羅ホテルだった。
外務省参事官の加藤(辻萬長)の指揮のもと、ロシア人学校の教師の山田智恵子(麻美れい)や植木係の国枝(内野聖陽)など、ホテルの従業員が集められるのだが、みな叩けば埃が出そうなどこか怪しい人物ばかり。戦争末期の日本人を描きつつ、次から次に珍事件が起こる2日間のお話。
井上ひさしさんのお芝居独特の「ドラマ・ウィズ・ミュージック(音楽付き戯曲)」という演出方法が部分的に成立しておらず、突然踊ったり歌ったりするのが妙な空気を生んでいました。また、具体的にセリフを間違えたりとか(私が観た回では、麻美さんのセリフが飛ばされたように見えるシーンがありました)、麻美さんと内野さんが姉と弟に見えなかったりとか、稽古不足が原因であることが明らかで、それにはただただ残念でした。
「みんな 人間よ」と歌う度に涙がこぼれました。ソビエト人だろうが日本人だろうが、愛国者だろうが非国民だろうが、目はふたつ、鼻と口はひとつずつ、手足は四本。夏は暑くて冬は寒い。
恥ずかしながら私は『花よりタンゴ』を観てはじめて、「接収」という言葉が絶対的な強制力を持ち、国民が国から無条件に私有財産を取り上げられること、突然に命を見捨てられることに怒りを覚えました。私は漠然と「戦争だから仕方がない」と思ってたんですよね、それまでは。「国家が国民を守ったくれたためしはこれまで一度もないんですよ」と井上さんは“通販生活2005年夏号”でおっしゃっています。この劇の中の歌にあります「綿素材のパジャマは気持ちがいい」とか「魚はスルメがいい いつまで噛んでももつよ」とか、そんな日常の小さな幸せを心から大切に思い、そう思う自由を主張し、守っていかなければと思いました。
シリーズ「笑い」の第三段ということで、もちろん笑いがふんだんに散りばめられています。ホテルの従業員を募集してみたら、ほぼ全員が陸軍や海軍のスパイだったのがバレたシーンは大爆笑でした。特に段田安則さんが弱視のフリをして部屋のそこここにぶつかるのが絶品。段田さんをはじめ、大鷹明良さん、酒向芳さん、内野聖陽さんの軍人4人組は素晴らしいコンビでした。軍人同士の確認のための“暗号歌”も笑えました。
舞台装置は堀尾幸男さんの美術と勝柴次朗さんの照明ということで力強く、美しく、古い木の懐かしい香りがしてきそうでした。上手側の壁の上の方に少し曇ったガラス窓がずらりと並んでおり、その窓から差し込む朝日や夕日がきれいでした。
シリーズ「笑い」3
作:井上ひさし 演出:栗山民也
出演:内野聖陽 段田安則 大鷹明良 酒向芳 藤木孝 辻萬長 麻実れい 梅沢昌代 中村美貴 吉田舞 平澤由美
演奏:朴勝哲 佐藤拓馬 佐藤桃 横内正代 杉野裕 船木喜行 山田貴之
音楽:宇野誠一郎 編曲:久米大作 美術:堀尾幸男 照明:勝柴次朗 音響:山本浩一 衣裳:前田文子 歌唱指導:伊藤和美 ステージング:前田清実 ヘアメイク:佐藤裕子 演出助手:北則昭 舞台監督:増田裕幸
S席7,350円 A席5,250円 B席3,150円 Z席=1,500円/当日学生券=50%割引
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s265/s265.html