山の手事情社は安田雅弘さんが構成・演出される劇団です。昨年は20周年記念で3作品連続上演をされました。本拠地は東京ですが、他地域や海外でも大いに活動されています。
満員の初日に伺いました・・・と思ったら、東京公演は完売しているんですね。
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を演劇化するということで、宇宙とか汽車とかを安易に想像していたのですが、全体から伝わってきたのは深い森、そしてそこに住む妖精たちというイメージでした。
いつもながらの凝りに凝った衣裳、芸術的オブジェのような美術、そして役者さんの身体能力に圧倒されながらの観劇になりました。でも、ピカっと光を放って残像が何度もよみがえるようなシーンや、ズシンと心に響く音響や、アッと驚くような照明効果など、いつもの山の手事情社の公演では何度もやってくる、生の舞台作品ならではのときめきが今回は少なかった気がします。
ここからネタバレします。
衣裳はさまざまな素材の生地が幾重にも重なって、体が倍ぐらいの大きさに見えるような大掛かりなもので、印象としてはシェイクスピアの『夏の夜の夢』に出てくる妖精王のオーベロンとその妻タイテーニアが着ているような感じかな。豪華絢爛なつくりでした。色や素材、装飾はそれぞれに違うのですが、それを出演者全員が着ているのには驚きました。こんな衣裳を全部作ったのかと思うと、ほんとスゴイです。ただ、観ている途中で感じてきたんですが、全員が同じようなフォルムの衣裳じゃなくても良かったんじゃないかしら。だんだんと誰が誰なんだかわからなくなってきちゃったんですよね。
舞台には、中央から下手にかけて、鋭利な銀色(?)の四角い枠でかこまれた箱のような空間があり、銀河鉄道の列車を表していました。上手には赤い布でふっくらと覆われた階段があり、その布の下に小さな照明がたくさん仕込まれていて、それがピカピカと点滅するのが可愛らしかったです。床には、衣裳と非常によく似た(役者が転がっていても埋もれてわからないぐらいの)布や、その他いろんなものが敷き詰められており、もこもこと全体に広がっていました。これが私には森のイメージにつながったようです。
セリフについては、宮沢賢治らしい丁寧でほんわかしたような言葉まわしが、心地よく流れました。でもだんだんと、どの役者さんがしゃべってもなぜか同じようなテンポで流れているように感じました。
一つ一つの要素を見てみればそれぞれがとても凝っていて、力が注がれているのがわかるのですが、全体を見ると、飛び出たり、グっとへっこんだりするところがなく、少し単調だったような気がします。もしかするとそれもすべて演出意図かもしれないので、私に響かなかっただけかもしれません。宮沢賢治のこと全然知らないしねぇ。
赤い衣裳を着た男女が語り部のように圧倒的に多くのセリフを話し続けるのですが、女(内藤千恵子)が『銀河鉄道の夜』の主人公のジョバンニとカムパネルラを一人で演じ、両方のセリフをしゃべります。男(山本芳郎)は「文章」という役で、セリフ以外の部分をしゃべります。女がセリフを言っている時、「文章」役の男がそれを聞く動作をしますので、セリフは女一人で話すけれど、目に見える存在としてはジョバンニとカムパネルラが両方居る状態になるのです。そのコンビネーションが面白かったです。
オープニングは列車の「シュッシュッ、シュッシュッ」という音を大人数で声に出すのがかっこ良かったです。そろそろお話が始るのかな~と思ったところで、床に転がっていた役者(山田宏平)が立ち上がり、一人で岩手県の寒中水泳の話を始めます。一体なんのこっちゃ??と思っていたら、その話の中からジョバンニ、カムパネルラ、『銀河鉄道の夜』などのキーワードがダジャレで出てきたんです。これには笑っちゃったな~。そう、こういう出っ張ったシーンがもっと欲しかったですね、私としては。
≪利賀、東京≫
構成・演出=安田雅弘 原作=宮沢賢治
出演:=山本芳郎・倉品淳子・内藤千恵子・浦弘毅・大久保美智子・水寄真弓・太田真理子・山田宏平・川村岳・斉木和洋・山口笑美・岩淵吉能・野々下孝・森谷悦子・久保村牧子・鴫島隆文・名久井守・野口卓磨・本名貴子・横田七生・植田麻里絵・中村智子・後藤かつら・根本美希
舞台美術=関口裕二(balance,inc.) 照明:木藤歩(balance,inc.) 音響=斎見浩平
舞台監督=本弘 舞台衣装=寒河江真紀(lame☆trap) 宣伝美術=福島治 演出助手=小笠原くみこ 制作=福冨はつみ 製作=有限会社アップタウンプロダクション UPTOWN Production Ltd.
当日4,500円 前売4,000円 学割3,000円
山の手事情社:http://www.yamanote-j.org/