REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2005年06月04日

ブラジル『偽装』06/01-06下北沢OFF OFFシアター

 ブラジリー・アン・山田さんが作・演出する企画ユニット ブラジルの最新作は、なんと二人芝居の2本立て。3編の二人芝居で一つの作品になっており、一つが『偽装』、もう一つが『辻褄』です。その2作品が交互上演されています。『偽装』と『辻褄』は完全に独立した内容なので、両方観た方がストーリーが深くわかるというのではありません。単純に計算すると6本の二人芝居を書いたことになりますね。
 まずは『偽装』を観てまいりました。

 サスペンスタッチの緊張感溢れる1時間30分でした。どの話も、登場人物2人がどんな関係で、それぞれがどういう人間なのかは最初はわからないようになっており、互いに探り合いながら言葉を交わしていくうちに、徐々に素性があらわにされていくので、観客はいやおうなしに話に引き込まれていきます。また、3話がつながったストーリーなので、第1話に出ていた2人の世界が、2話、3話と進むにつれ補完されていくのが凄く面白いです。

 2人芝居は脚本はもちろんですが、役者さんの力量が問われますよね。特にこの作品はギャグやキャラクター勝負ではなく、お話のバックグラウンドと人物像、そして2人の関係性ににスポットが当てられているので、見ごたえのある真剣勝負の演劇でした。笑いもほとんどなかったですね。

 第3話の完成度が非常に高かったです。手に汗握る対話でした。出演者は辰巳智秋さんと桜子さん。辰巳さんはブラジル所属の唯一の俳優で、色んな劇団に客演してご活躍されています。体型も含めて強烈な個性の持ち主ですが、演技も巧い!これからグリング、KAKUTAに客演されます。相手役の桜子さんも演技がしっかりしていて、辰巳さんとの間にコミュニケーションがきちんと生まれていました。燐としたセクシーな佇まいにも見とれました。どこかで観たことのある女優さんなのですが、思い出せないなぁ。『ニセS高原から』の三浦演出版に出演されるんですね。

 ここからネタバレします。

 舞台は真っ白な壁に囲まれた小さな四角い部屋。白いテーブルと白い椅子が2脚。モダンで清潔なイメージ。

 第1話:夫婦(出演:冠仁・市村美恵)
 ずぶぬれで夫が帰宅する。テーブルの上には空になったビール缶が1本。妻はテーブルに突っ伏して寝ていたが、夫を快く迎える。夫は妻に酒を飲むなと注意する。妻は夫になぜ濡れているのかと聞く。夫はコンビニで傘を盗まれたから、大雨の中を濡れて帰ってきたという。話している内に、夫には性犯罪の前科があることがわかってくる。雨の中、コンビニで見かけた女子高生を追いかけて、暗い空き地に連れ込み暴行したのではないかという疑問が沸く。夫の言動があやふやなので、どこまでが本当なのかわからない。妻は酒が飲みたいと連呼して・・・。

 うーん、どうも2人が夫婦に見えなかったんですよね。関係としては実際のところ冷え切っているのですが、昔はラブラブだったんでしょうし、もうちょっとお互いを深く知っている者同士であることを表した方が良いのではないでしょうか。
 夫は実はインポテンツで、女を暴行している時、もしくは女が暴行されるのを見ている時にだけそれ(インポテンツ)が治るという、つまり彼にはそういう性癖があるというエピソードは刺激的で説得力があって良かったです。
 一箇所ものすごく笑えたところがあったんです。残念ながらセリフは覚えてないんですが、あの呼吸ってすごくブラジルらしい、独特の魅力だと思います。シリアスな作品でしたが、もっとああいうブッ飛んだ瞬間があればさらに良くなったのではないかと思います。

 第2話:女友達(出演:平澤晃奈・高橋優子)
 一人暮らしの若い女の部屋に昔の女友達が突然訪ねてきた。北海道で看護士をやっていたが仕事にあぶれたので実家に帰ってきたと言うが、どうやらわざわざ訪ねてきた理由は他にあるらしい。

 女同士の腹の探り合い、醜いですね~。女同士の罵り合い、激しいですね~。2人のコンビネーションがうまくいったりうまくいかなかったり、演技にはところどころ穴がありました。でも、ミーハー気分もありつつ超楽しく拝見しました。女心をよく見抜いたセリフの応酬です。「月1回でもいいから優しくされたい(抱かれたい)」と言うカワイイ女の子(高橋優子)には、不思議にリアリティーがあり、気を引くために「見知らぬ男に暴行された」と嘘をつくタイプに見えました。

 第3話:取り調べ室(出演:辰巳智秋・桜子)
 取り調べ室に疲れきった刑事が一人。そこに見るからにキャリア・ウーマンな女が入ってくる。女はその刑事を取調べに来た捜査官だった。捜査官は刑事のいい加減な仕事振りを指摘し、刑事は彼女に向かってどんどんと話し続ける。自分の仕事、家庭、そして幼い頃のことを。そして捜査官は刑事に「私のことを覚えていませんか?」とたずねた。

 ものすごく面白かった!こういうのを演技の醍醐味って言うんだと思います。机の上のランプを効果的に使っていましたね。このシーンが観られただけでもこの二人芝居企画には満足ですね。
 ひとつだけ難を言えば、捜査官が第1話に出てくる“夫”の姉だったというのはちょっと弱いかな、と。第2話の看護士も彼の妹でしたよね。もうちょっとドロドロしてたり殺気立ってたりする関係の方が面白いんじゃないかと思いました。

作・演出:ブラジリィー・アン・山田
照明:シバタユキエ 音響:玖島博喜(TEAM URI-Bo) 舞台監督:鈴木たろう 宣伝美術:川本裕之 制作:恒川稔英・ブラジル事務局
『偽装』出演:辰巳智秋 桜子 冠仁(Attic Theater) 市村美恵(水性音楽) 高橋優子(チーム下剋上) 平澤晃奈
*2作品を交互上演。1作品は3つのふたり芝居で構成されている。
前売り2300円 当日2500円 ★<初日&平日マチネ割引>前売当日ともに2000円 共通チケット3600円
ブラジル:http://www.medianetjapan.com/10/drama_art/brazil/
ブラジリィー・アン・山田の活動日記「汁だし」:http://brazilyamada.ameblo.jp/

Posted by shinobu at 2005年06月04日 00:30 | TrackBack (0)