東京デザインセンターのガレリアホールというと、ク・ナウカの『サロメ』をはじめ、何度か演劇公演で観に行ったことがありますが、ポかリン記憶舎が使うなら絶対行かなきゃ!な、クールな空間です。
ものに命が宿って人の心と響きあい、言葉や意味が介在しない光に満ちた世界が立ち現れます。東京公演は本日6/6(月)まで。
私は“もの”には命が宿っていると考えている人間です。見つめたり触ったりした時にそれを愛したり憎んだりしたら、その瞬間に命が吹き込まれると思うし、また、道端に転がっているコンクリート片や鮮やかな緑に萌える街路樹にも、目に入った時にそれらには心があると感じます。当然ながら絵画やオブジェ、音楽、書物などの芸術作品やお料理など、人間が作った“もの”には全て、作った人の心が宿っているとも信じています。
今作品では、人の心が宿った“もの”が発するオーラを目で見て肌で感じ、その“もの”と人とが一緒になって新たに生み出される世界に触れることができました。
受付はいつもの通り和服美人が品良く迎えてくれます。整理番号順に入場して地下へと降りたら、そこは前衛芸術作品を展示するきれいなギャラリーでした。高い天井と優しいアールがきいた白い壁につつまれた、おしゃれで静かな空間です。
席についてから開演するまでのしばらくの間、客席では誰も声を出しませんでした。木製の大きなオブジェが2つ展示され、和服を着た女性が2人ただそこに立っているだけで、あまりにその空間は完成していました。声を出したり音を発することで、誰もその空間を壊したくなかったのだと思います。作り手と観客が一緒に作り出した世界にこの身を漂わせ、お芝居が始る前から私は幸せでした。
ストーリーは後半でちょっと詰め込みすぎな感はありますが、現れない天才アーティストと彼の作品と、それらを取り巻く人々の想いが空間いっぱいに満ち満ちて、ほんの小さな音や色の変化にも心を震わせられ、胸を熱くさせられるお芝居でした。
ここからネタバレします。
舞台は新進造形美術家の星野の展覧会初日を明日に控えた美術館。星野の後輩の森(日下部そう・男)と林(市川梢・女)は、照明デザインを担当している星野の同僚の椎名(三村聡)の指揮の下、尊敬する大先輩である星野の作品を、大切に扱いながら搬入・設置していた。
星野を取材するためにケーブルテレビ局のレポーター(中島美紀)が訪れ、4人で談笑しながら星野の帰りを待っていると、椎名の携帯が鳴った。星野が交通事故に合い、病院に運ばれたというのだ。
椎名の意向で星野の事故のことは隠しとおすことになり、展覧会は星野が不在のまま開催された。
登場しない主人公の星野の分身として、彼が作った鯨の形をした大きなオブジェが舞台中央に置かれています。人々はそのオブジェを見て、触って、もう会えない星野と対話します。出てくる人たちがみな星野のことを話すので星野の人物像が徐々にはっきりとしてくるのですが、特に同僚の椎名が話したことに端的に表されていたように思います。「自分が波打ち際で遊んでいる間に、星野は何度も潜っては作り、潜っては作りしてきた(セリフは正確では在りません)」。
一人一人の在り方や心情がとても細やかに伝わってきて、涙が溢れてしまう瞬間が何度もあったのですが、心に一番響いたシーンは、星野が植物人間状態になってしまってから2週間たった頃、林(市川梢)が星野の作品に触れたり、ほおずりしたり、上に乗って寝転んだりしながら「(星野に)会いたい」と胸から搾り出すような声を漏らしたところです。特に音響や照明に変化もないシンプルなシーンでしたが、私はオブジェに宿った星野を感じ、そこに林の思いが注がれて、オブジェが一瞬息づいたように見えました。
終盤になってなぜか登場人物が続々と増えます。元恋人が海外からはるばる現れたり、タイミングよく彼の作品を永久に展示しようとする財団の人間がやってきたり、そこまでしなくてもなぁと思いました。星野の母親が現れたところでお話は終わって欲しかったです。もっと言えば、スタッフ3人とピザ配達の少年、テレビ局のレポーターの5人芝居でも良かったのではないでしょうか。そこまででも十分に世界は生まれ、完成していたと思います。
でも後から登場した役者さん達も魅力的だったんですけどね。特に財団に勤める市村役の山内健司さん(青年団)は、天才アーティストの星野マサルの作品と出会って自分の人生が変わってしまったことが、演技からはっきりとわかりました。ここに登場する人物全員がそうなんですよね。星野との出会いが命に触れて、自分の世界が全く違うものに変化してしまった人たちの集まりだと思います。
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on Wednesdays
100字レヴュー
作・演出=明神慈
出演=田上智那/中島美紀/日下部そう/三村聡(山の手事情社)/市川梢/桜井昭子/山内健司(青年団)
音楽=木並和彦 舞台美術=杉山至×突貫屋 舞台美術=寅川英司×突貫屋 照明=木藤歩(balance.Inc) 音響=尾林真理 演出助手=冨士原直也 櫛田麻友美 写真=松本典子 AD=松本賭至 衣裳=フラボン 製作=ポかリン記憶舎 フラボン 主催=高知県立美術館(高知県文化財団)
前売り3000円 当日3500円 学生2500円(要学生証) 和服割引:2500円
≪東京、高知≫
ポかリン記憶舎:http://www.pocarine.org/
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