渋谷駅東口から徒歩5分ぐらいの明治通り沿いにある、ギャラリー“LE DECO(ル・デコ)”で行われる演劇公演です。公演期間中は正午から夕方6時まで“時間堂カフェ”もオープンされます。
青年団リンク・髙山植物園の髙山さなえさんの脚本を、時間堂の黒澤世莉さんが演出されるということで、高山さんの作品も時間堂も初見なので一石二鳥だな~と、お得な気分でプレビューにお邪魔してきました。
会場はLE DECOの1階です。コンクリートのちょっと崩れた壁や天井は白く塗られて露出しています。夕方でしたから全面ガラスのギャラリー入り口から太陽の光が入っており、全体的に明るい空間でした。入り口からまっすぐ奥に進むと、中央には木綿のちょっと黄ばんだ白色の布が広く敷かれていて、その両サイドにイスが並べられていました。どうやら細長い舞台になるようです。
天井からは、針金と糸、そして透明プラスチックの薄い板で作られた、手作りのナチュラルな印象のモビールが5個ほどぶら下がっています。あと、縦に電球が5~6個ならんだ照明も数本。観客誘導係のスタッフさんは白いシャツに黒いスカートなど、モノトーンで、おしゃれなカフェの店員がよく着ているようなデザインのお洋服を着ています。
ダンス・パフォーマンスや朗読劇が似合いそうな空間でしたが、かわいらしい衣裳を着た役者さんがぞくぞくと登場して始まったのは、しっかりした起承転結のある、パンチの効いた鋭いセリフがいっぱいの、ちょっと怖いお芝居でした。
≪あらすじ≫
結婚式場の新郎新婦の控え室。披露宴が終わって次は二次会というところだが、なぜか新婦が動こうとしない。ウェディングドレスを脱ごうとしないのだ。新郎をはじめ新郎新婦の兄や妹たちは新婦に早く着替えるよう促すのだが、いつまで経っても新婦は新郎に甘えたり、わがままを言ったり、謎の落ち着きを見せたまま。
そんなこんなでだらだらとくっちゃべっている内に、この結婚の裏の意外な、恐ろしい事実が明かされていく。
上演時間は1時間強でしたが、最初の45分はつらかったです。だって女の子がブサイクなんだもの!いえ、顔かたちのことじゃないんですよ、衣裳もかわいいし、ヘアメイクも凝ってるし、女優さんもかわいいんですよ。意図的に描かれている“女の子像”がすっごく醜いんです。男に思いっきり露骨に言い寄ったり、汚い言葉遣いで自虐的に男とケンカしたり。見るに堪えない!反対に男の子はクールに装いつつ弱者ぶるから、ちょっと憎たらしいなぁと思いながらも可愛らしくも見えたため、女をわざと汚く描いている脚本および演出に不快な気持ちになりました。
そして45分経った頃に衝撃の事実が明かされます。目が点になりました。そこから15分強は、それまでに描かれていた世界がバタバタと裏に表にひっくり返り続ける、きりもみ状態に陥った飛行機のような展開。・・・恐ろしい脚本でした。
男と女という全く違う生き物の係わり合い(歴史)、そしてこれからも延々と続く“生存”をめぐる戦いを描いていました。
舞台からはけた俳優は全員、中2階のロフトスペースで待機するので、上演時間中ずっと出ずっぱりです。ロフトでおしゃべりをしたり、舞台を覗き込んだり、時には舞台上の人とアイコンタクトもしていました。また、衣裳が抽象的なものだったので、“男 VS 女”という構図がより鮮やかに伝わったと思います。
衣裳がすっごくよく出来ています。色は白黒のモノトーンで、女はうずまき、男は直線をモチーフにしています。カッティングというのかな、お洋服としてもすごく緻密に作られているのがわかりました。ドレスのドレープや体のラインの出かたとか、ほれぼれしましたね。ヘアスタイルもおしゃれでした。
これは本当によくあることなんですけど、役者さんの力が脚本と演出に負けています。演劇ファンだけではなく、ギャラリーの前をふらりと通った会社員など、一般の大人が安心して楽しめる作品を生み出すポテンシャルがあると思いました。だから役者さんにがんばってもらいたいし、時間堂の世界を作ることが出来る役者さんを新たに見つけた方がいい気もします。
普通の劇場ではないところでの公演は、観に来る方も上演する側にとっても予想外のことが起こりがちです。例えば今回は、役者さんがはじめて登場するところでドアを開けたスタッフさん(もしかすると演出家さん)が、床に敷いてあったすだれ(?)で足を滑らせて転びかけたんです(笑)。そうやって起こってしまったトラブルを、ライブならではの空気感を生む要素として利用していけるぐらい、余裕があるといいなと思います。けっこう長期間の公演ですから徐々に豊かな空間になっていくのではないでしょうか。
ここからネタバレします。
実は、新婦の兄と新郎がホモ・セクシュアルの恋人同士だった。さらに新婦の兄は新婦の妹(二女)と近親相姦の関係で、二女は兄の子を身ごもっている。兄には妻がいるのだが、妻が身ごもっているのは新郎の子である。兄は愛する新郎の子供が欲しいため、自分と近い遺伝子を持っている妹(新婦・長女)と結婚させ、新郎の子供を産ませようとしているのだ・・・。
なんてこったい!!不道徳極まりないです。タブーがかわいい服着て行列してる(笑)。
兄の目的は「種の保存」で「生めよ増やせよ」を合言葉に、子供を生む“道具”である女をどんどん身ごもらせます。しかしその恐るべき企みを、兄の妻も、そして新婦も知っていた!!・・・となって急展開です。
男女ともがんばって戦ってましたが、真剣であればあるほど滑稽に見えました。生まれてくる子供を私物化している(できると思っている)のが浅はかだな~と思います。
出演=稲村裕子/川根有子/キムラマナコ/福島千陽/両角葉/久米靖馬(クロカミショウネン18/UNITレンカノ)/小林タクシー(ZOKKY)/根津茂尚
作=髙山さなえ(青年団リンク 髙山植物園) 演出=黒澤世莉 共催=Gallery LE DECO
前売り開始:不明 一般2,000円 高校生以下1,000円
休演日:7/11(月) 全13ステージ 各回40名様限定
劇団:http://www.seriseri.com/jikando/
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