青木豪さんが作・演出されるグリング。青木さんは演劇集団円の次世代の劇作家書下ろしシリーズに取り上げられたり、東京グローブ座の『エデンの東』の脚本も書かれています。
私は今回が初見なんです。いつもチラシがちょっと怖くって足が遠のいちゃってたんですよね(きれいなチラシなんですけどね)。お気に入りの役者さんが出演されるのでやっと観に行きました。
タイトルが『カリフォルニア』でキャッチコピーが「安いホテルとか、安いワインとか、あるいは安い夢とかに、カリフォルニアはつきものだ。これは多分、他人から見たら ただただ安く、当人からしたら死に至るほどの、ある恋愛についての物語。」です。つまり、チラシを見たとしてもお芝居の詳しい内容はよくわからない状態で観劇することになります。
いい意味で裏切られました。「えええええっっ!」とびっくりして息を呑み、そして、甘くて苦い恋の秘め事をドキドキしながら覗き見させていただきました。
これから観に行かれる方は、あらすじ自体がネタバレになりますのでどうぞお気をつけください。
≪あらすじ≫
舞台は小さな整体院。院長の細川(中野英樹)は妻の柊子(藤本喜久子)とランチを食べに行くのが日課だ。というのも、柊子はある事故から体調不良および精神不安定が続いており、家で昼食を作ることが出来ないのだ。
整体院が入っているマンションでは住民や店舗オーナーが集合する幹部会が定期的に開かれており、たまに整体院が会議室として使われる。議題はゴミの分別や違法駐車についてなど。会長の根津(鈴木歩己)以外はあまりやる気がなく、集まっても世間話や噂話だけで終わることもある。
住民以外に整体院に頻繁に訪れるのは、柊子の学生時代からの後輩の亜希(桑原裕子)。柊子と共同でアニメキャラクターが登場する同人誌(漫画)を描いており、暇があればいつでも原稿片手にやってくる。柊子の兄・洋介(杉山文雄)も自転車で転んで捻挫したため、通院を始めた。
ある日、柊子が見知らぬ男と浮気をしているという噂が細川の耳に入ってきて・・・。
≪ここまで≫
マンション住民の井戸端会議や整体院に通う人々のたわいもない日常会話の中に、不倫、ねずみ講、同人誌、リストカットなど、スパイシーなトピックが入り込んできます。一見何事も無さそうな平凡な日々の中に、ずしりと重くて残酷な事実が横たわっており、「それでも、生きていかなければならない」現実が描かれます。
だからといって深刻すぎないし、クスっと笑える優しい空気がずっとありますので、気持ちよく観ていられました。ただ、「そんな過去があったの!?」と異常に驚かされることもしばしば。敢えてさりげない演技をするように演出されているかもしれませんが、観ているだけでももう少し読み取れるような、わかりやすい感情表現があっても良かったのではないかと思いました。
ここからネタバレします。
柊子の不調は子供を事故で亡くしたことに起因しています。柊子が料理をしていて目を話した隙に子供がマンションのベランダから転落死したのです。・・・簡単には立ち直れませんよね。
柊子の浮気の相手というのは「見知らぬ男」ではなく、なんと亜希でした。2人は中学、高校と同じ学校に通っていた先輩・後輩同士で、その頃からレズビアンの関係だったのです。
※柊子と亜希の関係について書いてみますと↓(セリフから私が読み取ったことです。間違ってたらごめんなさい)
2人は中学、高校時代にかけて恋人同士だったが、柊子の方から別れ話を切り出して2人の関係は終わっていた。柊子は細川と結婚し一児を設け、いわゆる普通の家庭を築いたが、亜希の方は柊子への想いを断ち切れず、リストカットを繰り返していた。
そして柊子の子供が事故死してちょうど一周忌の日、亜希の方から柊子に再び連絡を取り、同人誌の共同執筆が始まる。亜希はすっかり立ち直り、他人に迷惑をかけない程度に普通の生活ができるようになる。しかし、柊子の夫である細川に対する嫉妬や憤りはつのっていた。
柊子は我が子を死なせてしまったという自責の念から逃れられず、作品にも病んだ気持ちが現れる。体と心の不調も続いていた。
柊子が(おそらく)数年ぶりに亜希に身体を許す、整体院のベッドでのラブシーンはすごく官能的でした。具体的動作としては包帯で柊子の手をしばって、亜希がそっと柊子の胸元のボタンに手を伸ばす・・・っていうだけなんですけどね、もー私ってば超興奮っ(笑)。大人ですしね~、美女同士ですしね~、そういう見かけだけの要素でも十分魅力満点のシーンですが、演技が良かった!さりげなくて、堂々としてて。ホントに覗き見してるみたいでした(笑)。
桑原裕子さん。細川に本音を言っちゃうシーンの演技が絶品でした。めちゃくちゃハラハラしましたね、「えっまさかっ、もう言っちゃうの?今、言っちゃうの?!」って(笑)。そして柊子にこっぴどくフラれる瞬間、たちまち目に涙が溜まり、泣くのをこらえながらセリフを言うシーンでは、私も泣いちゃったよ(泣くなよ私)。
藤本喜久子さん。『高き彼物』では根っからの“いい人”を演じていらっしゃり、今作でマンション住民同士で話をしている時の演技がその時と同じ雰囲気だったのが残念。でも亜希と二人きりでいる時は大人の女の色気を感じました。窓の外から宙に浮いて細川の方をかすかに振り返る時の、暗い横顔が恐ろしく、美しかったです。もともととても美人な方なんですけどあのシーンがやっぱり心に残ります。
≪言及ブログ≫
こんなものを買った。
※当日パンフレットの青木さんの文章に「流石に11回目(第11回公演なのです)になりますし、今まで通りを続けるってのもどうかなぁ、と思ってしまったのです。」とありました。ポストパフォーマンストークがあり、今回の新しい試みについて話されていました。
【ポストパフォーマンストーク】
司会:なすび
出演者:青木豪 ほか出演者全員
なすびさんがほがらかに話を進めてくださって、楽しい時間がすごせました。裏話的ネタも多かったですが、青木さんがグリングという劇団およびこの作品の内容について、丁寧に詳しく話してくださり、私はグリングがだいぶん好きになりました。
シャーリー・マクレーンとオードリー・ヘップバーン主演の映画「噂の二人」を観て、レズビアンのお話を書くことを思いつかれたそうです。
グリングという名称の由来にはちょっと驚きましたね。もともとはオーストリアにある知的障害者の病院の名称「グギング」をそのまま拝借したそうなんですが、旗揚げ公演の時に劇場さんが間違えて「グリング」と表記してしまったことがきっかけで(何にかは忘れました)そうなったそうです。確かにグリングの方が発音しやすくって私は好きですね、って私の好みなんて関係ないか(笑)。
さて、今回はじめて青木さんがチャレンジされたのは「登場人物を死なせること」だそうです。また、トークの後に関係者から聞いたのですが、今までの公演はすべて一幕もので、暗転を使ったことがないそうです。それはかなり大きな変化ですね。今回は場所は同じですが、暗転を挟んで時間が変化しました。土曜日、10分後、約1年後のように。
出演=藤本喜久子(無名塾)/桑原裕子(KAKUTA)/杉山文雄/鈴木歩己/中野英樹/萩原利映/辰巳智秋(ブラジル)/鬼頭典子(文学座)
作・演出=青木豪 照明=清水利恭 美術=田中敏江 舞台監督=筒井昭喜 効果=島貫聡 音響オペレータ=都築茂一 宣伝美術=高橋歩 宣伝写真=中西隆良 制作=菊池八恵 企画制作=グリング
一般前売り開始日 6/4(土) 前売3,200円・当日3,500円(税込/全席指定)計10ステージ
グリング:http://www.gring.info/
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
★メルマガを発行しております。過去ログはこちら。
毎月1日にお薦めお芝居10本をご紹介し、面白い作品に出会った時には号外も発行いたします。
ぜひご登録ください♪
『今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台』(ID:0000134861)
↓↓↓メールアドレスを入力してボタンを押すと登録・解除できます。