蜷川幸雄さんが初演出される歌舞伎です。原作はシェイクスピアの『十二夜』。尾上菊之助さんが主膳之助(しゅぜんのすけ=セバスチャン)と琵琶姫(びわひめ=ヴァイオラ)の2役を演じられます。
串田和美さんや野田秀樹さん演出の歌舞伎(コクーン歌舞伎)に比べると普通の歌舞伎に近かったですね。4時間半(休憩2度を含む)はちょっとつらかったですが、美しいものを見せていただきました。
あらすじはこちら。有名な作品ですし、ストーリーを知ってから観に行かれても問題ないと思います(チケットは売り切れですが、幕見のシステムがありますのでどうぞ歌舞伎座にお問い合わせください)。
とにかく尾上菊之助さんに見とれました。きれいな声ですよね~。女役、男に変装した女役、そして男役の計3役を演じられたことになると思いますが、どれも違う演技をされていて(当然といえば当然ですが)、衣裳を早替えして登場した瞬間の立ち姿、そして第一声にときめきました。「あぁ、今度はこの役ね!」って。菊之助さんはストレート・プレイ『若き日のゴッホ』で初めて拝見したんですが、期待通りの美青年でいらっしゃいました。菊之助さんの追っかけはしたいかも(笑)。
普通の歌舞伎と明らかに違ったのは舞台装置と音楽かしら。演技と衣裳に遊びが多く、セリフが現代語に近くて分かりやすいのもある気がします(普段から歌舞伎をよく観ているわけじゃないのですが、そう感じました)。
シェイクスピア作品では私、道化が出てくるシーンで退屈しちゃうことが多いんです。残念ながら今回もまたそうでした。尾上菊五郎さん演じる丸尾坊太夫(まるお・ぼうたゆう=マルヴォーリオ)が織笛姫(おりぶえひめ=オリヴィア)への恋心をネタに思い切りからかわれる流れは、全体的に展開がゆっくりだったように思います。市川亀治郎さん演じる織笛姫の侍女の麻阿(まあ=マライア)は、セリフの速さや声色の変化、そして突然の意外な動きで笑いをガンガン取っていましたね。素敵でした。
たぶんこの作品の特徴として私の記憶に残るのは、主役の尾上菊之助さんと奇抜な舞台美術、そしてバロック音楽が流れる中で語られる、思い通りにならない切ない恋、の3つだと思います。「思う相手に思われず思わぬ相手に思われる恋のロンドが展開する」と筋書きにありますように、けなげな恋心の交差に胸キュンしちゃうのです。
男装して獅子丸(ししまる=シザーリオ)と名乗っている琵琶姫(尾上菊之助)は、大篠左大臣(おおしのさだいじん=オーシーノ公爵)にひそかに恋をしています。その一途な眼差しとけなげな身振りがカワイイ!
しかしながら左大臣(中村信二郎)は美しい織笛姫(中村時蔵)に片思いをしており、獅子丸は左大臣に織笛姫への恋文を届けるよう命じられます。実際に会ってみると確かに美人で、けれども気位の高い織笛姫に、獅子丸はちょっぴり嫉妬しつつ怒りもこみ上げてきて、「あなたは残酷だ!」などと正直に気持ちをぶつけてしまいます。恋する乙女の感情は押さえられず、ついつい口から体から出てしまうんですよね。でも獅子丸は絶対に品位を落とさないんです。それが美しい!
獅子丸に一目ボレしてしまった織笛姫(中村時蔵)は、所作はもちろんのこと、わがままっぷりがプリンセスらしくて良かったです。歌舞伎役者さんは王族・貴族などを無理なく演じられますよね。演劇の役者さんでそれが出来る人って少ないと思います。
シェイクスピア作品では道化にあたる捨助(すてすけ=フェステ)を尾上菊五郎さんが演じられていたことに、筋書を読んでから気がつきました。誰なのかな~って呑気に思ってたんですよね・・・情けない(涙)。丸尾坊太夫と2役だったんですね。人間国宝・・・そうなのか・・・・すごい。
ここからネタバレします。
テレビや雑誌などで既に紹介されていますが、舞台美術に鏡を使っているんです。一番初めに幕が開いた途端、観客の目の前に広がるのは巨大な鏡。観客は自分たちが座っている観客席をババン!と見せ付けられるのです。大竹しのぶ・唐沢寿明主演の『マクベス』でもこの鏡が使われていましたが、すごく感動したんですよね。この鏡は前から光を当てると鏡になるけれど、後ろから当たると透けるので、マジックのような面白い演出が見られます。
あと、座席が2階の上手側後方だったので花道がほとんど見えなかったんですが(なのに10,500円なのねぇ、悲し)、鏡のおかげで花道を歩く役者さんが正面から見えたのが嬉しかった(笑)。
先日『まちがいの狂言』を観たばかりだったので、双子の兄弟(『十二夜』の場合は兄妹)が出てきて取り違えられるシェイクスピアのコメディーが続きました。実はこの『十二夜』の後に観たのがこどものためのシェイクスピアカンパニー『尺には尺を』だったんですよね~(笑)。どれも全部面白かったです。
出演=市川左團次/中村時蔵/坂東秀調/中村信二郎/市川亀治郎/坂東亀三郎/尾上松也/尾上菊之助/河原崎権十郎/市川團蔵/市川段四郎/尾上菊五郎 ほか
作=W. シェイクスピア 訳=小田島雄志 脚本=今井豊茂 演出=蜷川幸雄 装置=金井勇一郎 照明=原田保 演出助手=浅香哲哉 作曲=杵屋巳太郎 作調=望月長左久 竹本作曲=野澤松也 音楽=笠松泰洋 声楽指導=山本義人 音響=田中剛ニ 振付=藤間豊之助 立師=尾上菊十郎 坂東橘太郎
1等席14,700円 2等席 10,500円 3階A席 4,200円 3階B席 2,520円 一階桟敷席 16,800円 43ステージ
公式:http://www.shochiku.co.jp/play/index_kabukiza_0507.html
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