クロムモリブデンは青木秀樹さんが作・演出される大阪の劇団です。ナンセンスで錯綜した世界に独特のダークな空気が漂います。笑いがかなりコアでマニアック。ハマる人はハマるリズムがあります。
去年の暮れからお正月にかけて王子小劇場で上演された公演を観て大好きになり、今回も期待して初日に伺いました。
チラシビジュアルとタイトルからもわかりますように、テーマはボーグ(防具)。剣道の面も良く出てきます。ストーリーは特になく、次から次にシーンからシーンへと移って行く短編集のスタイル。ただ、登場人物が被ることもあるのでチェーンストーリー的な楽しみもあります。
ロリコン、児童虐待、性犯罪者、家庭内暴力、SM(ご主人様と奴隷)などのかなりハードなモチーフを、時事ネタも含めて皮肉っぽく、だけどあくまでもポップに軽妙に織り交ぜていきます。
黒い黒い、真っ黒な世界で、ヤっちゃいけないことをしちゃう時のドキドキわくわくのスリルと恍惚。こっそりと胸に秘めていた悪意をいたずらにさらけ出して、突然「うっそぴょーん!」と笑い飛ばしてしまうような軽薄さ。そして身体の底からグっと沸いてくるグルーブ感。
きちんと細かいところまで作り上げられた世界です。生っぽく、勢いで見せるネタがほぼないですね。役者さんが作品世界から逸脱しません。大阪の劇団とは思えない作風です(私の経験上ですが)。
音楽がめちゃくちゃクールです。全体的にくもったような響きで、舞台の奥から、床のずっと底からズシンと響いてくるように感じます。暗転中に「くーっ、かぁっこいい!!!」って何度も思って、背中がしびれました。曲名は全然わからなかったですが選曲がサイコー。
たくさんの短編があったので全部は思い出せないですが、短編の全てが面白かったわけではなかったですね。何かが具体的に足りなかったのか、もともと私に合わない作風だったのかはわかりませんが。まあ、何もかも全部ひくるめてクロムモリブデンのイケナイ世界だった、ということでも私は満足です。
ここからネタバレします。
「叩いて、被って、じゃんけんポン」(通称“たたかぶジャポン”)という遊びが全体のメインイメージを担います。机に向かい合って座る2人。机の上には武器(ハリセンなど)と防具(センメンキなど)が置いてある。じゃんけんで勝った方が武器で相手の頭を叩き、負けた方は防具で頭を守ります。素早く相手の頭を叩いた方が勝ち。子供の頃やりましたよね。
ここでは武器を攻め具(せめぐ)と呼び、同音の“責め具”の卑猥なイメージもプラスされ、そこから奴隷、虐待などの材料とうまくつながっていきます。
私が異常に笑い続けてしまったのは出所した性犯罪者を裁く理不尽な裁判シーン。板倉チヒロさん(なぜか半裸)が暴れ出し、誰にも触られていないのに「はなせーっ!はなせーっ!!」って言って、さらに暴れるのが可笑しすぎました。次のシーンになっても一人、笑いが止まらず(苦笑)。ごめんなさい。
今回はオープニング(開演前)の歌がなくて、始まり方が少し静か過ぎた気がします。初日だったからかもしれませんが堅かったですよね。あと、ラストの剣道部青春モノは意味が分かりませんでした。いや、意味はないのでしょうけれど。もっとガガンと無責任な盛り上がりを見せて終わってくれる方が後味が良かったかなと思います。
浅田百合子さん(エビス堂大交響楽団)。センメンキを探して放浪するadidas水色ワンピのガンダム女や、虐待される赤ランドセルに緑ジャージの少女など演じられていましたが、動きのキレが素晴らしい。格闘シーンで足めちゃ上がるし、強い(笑)!
重実百合さん。被写体になるモデルや赤携帯を背負った少女など。めちゃ可愛かったです。小さな身体で童顔で、あの声量!一瞬歌われた歌に聞き惚れました。
橋薔薇之介さん(ニットキャップシアター)。劇団☆新感線の粟根まことさんにすっごく似てますね。
出演=森下亮/金沢涼恵/板倉チヒロ/重実百合/信国輝彦/遠山浩司/浅田百合子(エビス堂大交響楽団)/板橋薔薇之介(ニットキャップシアター)
作・演出=青木秀樹 音響効果=笹木健司 照明=Ingrid Smith 美術=ステファニー(劇光族) 舞台監督=塚本修 演出助手=大沢秋生(ИEUTRAL) 宣伝美術=Indigoworks 宣伝写真=シカタコウキ 衣裳=赤穂美咲 制作=床田光世 金澤裕 野崎恵 パリジャン 企画・製作=office crome
全席指定 前売券 2700円 当日券 3000円/平日マチネ割引など他各種割引あり
クロムモリブデン:http://crome.jp/
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