なかにし礼さんの実のお母様がモデルになった自伝的小説の舞台化です。ラジオドラマ化、テレビドラマ化、映画化されたロングセラー小説なんですね。なかにしさんご自身による戯曲執筆で、鵜山仁さんの演出です。今年の文学座の目玉公演と見えて、旅公演の日程もすごいですね。
あらすじはこちらでどうぞ。
レトロモダンなイラストのチラシに完全にだまされたなぁ(笑)。まさかこんなに直球ど真ん中の大河ドラマとは思いませんでした。でも観てよかったですけどね。
1910年頃。満州国へ行ったら大儲け!と国家に踊らされて異国へと渡り、苦労はしつつも豊かで幸せな10余年を過ごしたが、敗戦したとたん国家にゴミのように捨て去られて、命からがら日本へと引き揚げて来られたのは終戦から1年後の夏だったという、非業の運命にさらされた日本人の姿が描かれます。
「国家は何があっても責任を持って国民を守ってくれる」というのは幻想だということを、肝に銘じなければいけないと思いました。でも国家をバカにする気持ちなんて全くないんですよ、私は今の日本にとても感謝しています。ただ、考えなしに国家に甘えたり、依存してはいけないと強く確認しました。自分の頭できちんと考えて、自分のことは自分が責任を持って生きていかなければいけませんね。
こういうことを自覚できただけでも、この作品を創って上演してくださった方々に感謝したいです。なかにしさんの自伝的作品であることも大切ですよね。戦争の記憶は、こうやって何度も何度も繰り返し確認し、後世に伝えていかなければならないと思います。
演出はスタンダードでスマート。普通の新劇のスタイルというか、全く問題ないし、特に奇抜なシーンもなく、全体的に無難な感じ。満州国、ハルビン、小樽、引き揚げ船の中、列車の中、ホテルの中など場面がどんどん変わるのですが、転換の度にちょっともたついているようでした。今日は初日でしたしこれから改善されるでしょうね。
ヒロインの平淑恵さんはキラキラ輝く肝っ玉母さんでした。かっちょえーです、いつもながら。でも、恋におぼれる悪女ではなかったですね。鐘下辰男さん演出『サド侯爵夫人』@新国立劇場でのサン・フォン伯爵夫人役で見せてくださったゾクっとするほどの妖艶さを、ここでも遠慮なく発揮していただきたかったです。
ここからネタバレします。
波子(平淑恵)はかなり快活で大胆な女性で、結婚すれば出世間違いなしの軍人・大杉(大滝寛)のプロポーズを蹴って、熱心に愛の告白をしてきた馬車ひきの勇太郎(石田圭祐)と結婚します。大杉の助けを得て2人は満州で酒造会社を成功させますが、波子は再会した大杉と一夜を共にしてしまうし、家に出入りしていた商社マン(実はスパイ)の氷室(長谷川博己)にも心を寄せており、嫉妬のあまり氷室の恋人のロシア人家庭教師を「スパイだ」と密告してしまいます(その結果、ロシア人女性は氷室の手にかかって殺されました)。でも、波子がそんな激しい恋心を持っている女に見えなかったんですよね。
また、長谷川博己さんと平淑恵さんが恋に落ちるっていうのは・・・いただけないですね。どうしようもないことなんですが、実年齢が離れ過ぎです。30代後半以上の男優さんだったら問題なかったんじゃないかしら。そりゃー長谷川さんは大人気ですし、彼がこんな大役に抜擢されてファンとしては嬉しいんですけど(笑)、ラブシーンとかキスシーンとかが嘘っぽいのは悲しいです。
大杉を演じられた大滝寛さん。満州国人民を助けに行くと言って玉砕していく時の、一人長ゼリフには泣かされました。
長男役でアコーディオン演奏を披露された石橋徹郎さんは、日本軍人とロシア軍人をほぼ交互に演じられていて驚きました(笑)。ものすごい形相が、かっこ良かったです。
≪東京、高知、須崎、高松、丸亀、徳島、阿南、鳴門、松山、今治、桐蔭、姫路、神戸、京都、彦根、和歌山、泉南、紀北、岸貝、大阪≫
出演=南一恵/平淑恵/立石まゆみ/草野万葉/上田桃子/塾一久/石田圭祐/石川武/大滝寛/今村俊一/鈴木弘秋/石橋徹郎/川辺邦弘/長谷川博己/尾崎愛/松垣陽子/川口潤(子役ダブルキャスト)/塩川真人(子役ダブルキャスト)※私が観たのは川口潤さん。
作=なかにし礼 演出=鵜山仁 装置=倉本政典 照明=金英秀 衣裳=宮本宣子 音楽=甲斐正人 音響効果=望月勲 舞台監督=黒木仁 演出補=今村由香 制作=矢部修治 川上裕子 票券=松田みず穂 宣伝画=鶴田一郎 宣伝美術=近藤一弥
[全席指定] 一般5,500円 学生3,800円(劇団扱いのみ)
文学座内:http://www.bungakuza.com/redmoon/index.html
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