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『カルテット』の作者ハイナー・ミュラーはドイツの作家、演出家、詩人で、今年は没後10周年。今年6月に来日した『アルトゥロ・ウイの興隆』は彼の遺作です。
1時間強の濃厚な2人芝居。難しい戯曲ですね。「大浦さん、千葉さん、ガンバレー!」って思いながらの観劇になりました。
サブタイトルの“世界の終わりの「危険な関係」”にありますように、この戯曲は1782年にピエール・コデルロス・ラクロによって書かれた書簡体小説『危険な関係(原題(仏語):Les liaisons Dangereuses)』をもとに書かれており、2人の出演者が4人(カルテット)を演じます。※関連リンク・・・グレン・クローズ&ジョン・マルコビッチ主演の映画『危険な関係』、ペ・ヨンジュン主演の映画『スキャンダル』
“世界の終わりの”が意味するのは、この作品の時間と場所が「フランス革命前夜のサロン/第三次世界大戦後のシェルター」であること。でもこれは戯曲の冒頭に書かれているだけで、作品中では全く言及されません。
パンフレットは戯曲が全部掲載されて1000円。これはお買い得です。そのパンフレットに載せられた演出の木内宏昌さんの文章にいたく共感・感動いたしました。下記、一部抜粋してご紹介します。ごく一部ですので、ご興味もたれた方はぜひ全文をお読みいただきたいです。
【ハイナー・ミュラーは、資本主義の食い物にされた物語たちを美しい骸骨にすることで、消費社会から開放しようとしたのだろうと、ぼくは思っています。ミュラーが20世紀の終わりに遺した作品たちは、愛の物語でもなく、人生はバラ色だと思わせてくれるものとも違います。物語を食い散らかした都市、その廃墟と瓦礫、立ちこめる戦争の靄(もや)。そんな手ざわりのテキストが数多く見られます。しかしそれらは、人類の絶望や孤独のなかに、言葉の塊によって示された、まだ見ぬ可能性として受け止めることができます。つまり、ぼくにとって『カルテット』の魅力は、それが扱っている『危険な関係』の世界にあるというより、18世紀の物語を消費し続ける現代への、ミュラーの不機嫌の視線に惹かれるのです。】
【・・・。それは「知」と「血」によって紡がれた、「わたしのなかの他人たち」とめぐりあう物語でした。わたしとわたしのなかの他人たち、その関係こそ、ミュラーが発見し編集した「危険な関係」だろうと思うのです。おそらく、ふたりが四人を演じる『カルテット』という作品の、そのタイトルの意味を含めて。】
【・・・。そして今、世界に満ちたさまざまな対立は、ドイツも日本もなく、「わたしのなかの他人」を引き裂き、武器を握らせ、脅威を抱かせ、ひとつになることを虚しい幻想に変えていきます。ぼくたちの現実は、戦後ではなく、とっくに戦前であり、戦中です。「かつて亡霊は過去からやって来た、いまでは未来からやって来る」-未来に待っているのは進歩や発展ではないことを、ハイナー・ミュラーはいち早く言葉にした作家でした。そして同時に、破壊の先にある可能性を示したことが、ミュラーの偉大にして稀有なところだと思います。】
開演前に上記文章を読んで、いやがおうにも期待が高まりました。が、作品自体は期待に応えてくれるクオリティではなかったですね・・・。勝手に期待と想像を大きくしすぎたんですね、私(苦笑)。前知識ゼロだった方が良かったのかな。
ここからネタバレします。
ふたりで4人を演じると言っても、完全に別人を演じるのではありませんでした。実在しているのはヴァルモン(千葉哲也)とメルトゥイユ(大浦みずき)の2人だけ。この2人が3パターンの劇中劇を演じるのです。
ものすごく長くて難解なセリフで綴られた2人芝居です。上演されたことにまず感謝しています。
言葉が面白かった~・・・後から戯曲を読んで驚きました。戯曲には「登場」「退場」しか、ト書きがありません。セリフから全てを作り出したんですね。メルトゥイユがヴァルモンに毒入りワインを手渡すのですが、彼女が毒を入れるのを、天から黒い羽が降ってくることで表しているのが綺麗。
決して下品にならない官能的なシーンには満足でした。でも私の気持ちが高揚するまでは行かず。さらに上に行けるんじゃないかなと思うシーンが多かったです。
大浦さんは言葉をすごく大切にして、意味をしっかり伝えようとするがために、形式にひっぱられて感情があまり伝わって来ませんでした。反対に千葉さんは、心の動きが身体や声にストレートに表れるのですが、言葉は早口で流れがちでした。
ディズニーシーのアトラクションかしらと思うほど、具体的に作り込まれた美術は意外でした。黒々とした岩に囲まれた石の階段。おそらく爆撃で溶けてむごたらしい姿になった太い円柱。階段の上には『危険な関係』の主要登場人物4人のマネキンが並べられており、分かりやすかったです。
『カルテット』-世界の終わりの「危険な関係」
出演=大浦みずき(メルトゥイユ)/千葉哲也(ヴァルモン)
作=ハイナー・ミュラー 演出=木内宏昌 台本=広田敦郎 美術=礒沼陽子 音響=長野朋美 ヘア&メイク=鎌田直樹 舞台監督=増田裕幸・久保勲生
一般¥6300/※レパートリー券¥4200/学生¥3150※「道成寺」をお求めのお客様は「カルテット」をレパートリー割引(¥4200)にて観劇可能。
公式=http://www.tpt.co.jp/top/quartet/index.html
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