イノセントスフィアは西森英行さんが作・演出される劇団です。所属役者さんの数も結構多いですね。今作は西森さんが20代前半の頃に書かれた戯曲の再演だそうです。
※執筆完了しました(2005/10/03追記)。
≪あらすじ≫ ※少々詳しいですが、読んでからご覧になっても問題ないと思います。
数々の猟奇的殺人罪で死刑を宣告されていた囚人が刑務所を脱獄した。彼の名は多襄丸怜ニ(三浦知之)、別名“CAIN(カイン)”。殺人現場に必ず血文字でそのアルファベットを残していくのでそう呼ばれていた。逃走中のCAINはある大病院にたどり着き、偶然にも幼なじみの中沢医師(倉方規安)と出くわす。そして中沢を脅してまんまと自分をかくまわせる。
CAINが脱獄したことは世間で大きな事件となっていた。その騒動に目をつけたある学生グループが、CAINを名乗って犯行声明をネット上に撒き散らすなどして、人々を煽っていく。そしてCAINを名乗った便乗殺人が次々と起こっていき・・・。
≪ここまで≫
セリフがよく聞こえなかったことが主な原因で、お話の意味があまり理解できていませんでした(観劇後に関係者に話を聞いて発覚)。とても残念・・・舞台装置と劇場との相性の問題なのか、声が客席の方へと届きづらい状態だったようです。初日で役者さんの演技が硬かったからなのかもしれませんが。
前半はインターネットと直接結びついた現代社会の熱狂の暗部を、サスペンス風にスピーディーに展開させていきます。刑務所、病院、警察、学校などに次々と素早く転換するのがかっこ良かった。かっこ良いと言えば、舞台を緞帳のように覆う大きなスクリーンいっぱいに映し出される、オープニング映像も素晴らしかったです。役者紹介もいつもより短時間にまとまっていました。映像担当は冨田中理さん(SelfimageProdukts)。
美術はステージ中央に大きなスロープがあるだけのシンプルなもので、色は灰色。両袖と舞台奥にも幕はなく、隠すべきところは黒いパネルが建てられており、劇場の濃い灰色の壁がかなり露出している状態です。
役者さんの衣裳デザインはそれぞれ違いますが、色が白で統一されています。なので空間全体の印象としては黒と白のモノトーンでした。
ある事件が起こってから事態は急変し、ガラリと世界が変わります。
ここからネタバレします。
≪あらすじ 続き≫
CAINと間違えて中沢医師を追いかける警察。中沢は子供の頃に遊んだことのある古い防空壕に逃げ込んだ。追ってきた警察と学生たちも続いてその中に入った途端、岩盤が崩れて全員が生きたまま閉じ込められてしまう。
≪ここまで≫
大きなスロープになっていた板が客席側から上に持ち上げられて、防空壕のセットへと大転換します。ここから一気に暗闇の密室へと世界が収縮し、観ている方の息が詰まるような絶望的な空間になります。
徐々に正気を失っていく登場人物たち。狂気のせいで内輪もめが殺人へとエスカレートしていく様は醜悪です。でも、できればそこで「もっとヤレ!」「全員殺しちゃえ!」という野蛮な気持ちが私自身の中から沸きあがってきて欲しかったです。観客が撲殺シーンに興奮するってことがあるんですよね(例:reset-N『knob』など)。それが生まれていれば、起死回生の大逆転が起きて数人が脱出を果たし、外の光へとスローモーションで向かっていくシーンがもっと美しくなったのではないかと思います。また、現実世界へと戻ってからのエピローグとの差異もくっきりと表れて、人間の醜さ・美しさが浮き上がったのではないでしょうか。
全編を通じて、病院で起こる不慮の殺人やえん罪、次々と起こる無責任な便乗殺人、防空壕の中での殺し合いなど、人間が自ら起こす恐ろしい事件を描いていましたが、そんな人間達を優しく、憂いながら見守る視点が常に存在しているように感じました。このように、イノセントスフィアの作品が世界に対して誠実に、真面目に向き合っていて、そして対立ではなく世界の味方の立場であることが、私は好きなのです。
ただ、今作品についてはそういった思いやりや憂いは抑え目にした方が良かったのではないかと思いました。私的な主張・感情を排除して、徹底した残虐な世界を描き、問題提起と少しの救いを結末に示すことで、観客が自分自身の中から感情や疑問を生み出すことが容易になる気がします。
森戸宏明さん(動物電気)。女医の橋野(黒川深雪)に横恋慕する田頭医師役。いわゆるイヤ~な悪役ですが、少しコミカルな面も加えつつきっちりと演じていらっしゃいました。森戸さんの声だけは文句なく聞こえたんですよね。やっぱり役者さんの技術の問題なのかなぁ。
※私が理解していなかったことについて
殺人犯のCAINこと多襄丸怜ニ(三浦知之)が中沢医師(倉方規安)の前に現れましたが、それらはすべて中沢自身の妄想だったということを、私はわかっていませんでした。防空壕で業田警部(日高勝郎)が暴露する、「CAINはすでに死んでいた」というセリフが聞こえなかったのが主な原因です。でも一緒に観ていた知り合いはちゃんとそれがわかっていたので、私だけが勝手に「CAINは生きてる」と強く思い込んでいたんですね。
そういえば、CAINが中沢の見ている幻であるということを示す演出もちゃんとあったのです。なのに私は「CAINが便乗犯と一緒にどこかで殺戮を繰り返しているんだ」と信じていました。・・・CAIN(多襄丸)役の三浦知之さん、良かったですしね。画像と組み合わせられた役者紹介の時、ビビッと震えが来るぐらい怖かったし。また、「現代社会を脅かす残虐な殺人犯が存在していて欲しい」という不謹慎な希望が、私の中にあったのかもしれません。
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