詩森ろばさんが作・演出される風琴工房の公演です。初シアタートラムということで劇団の代表作の再演なんですね。私はザ・スズナリでの初演を拝見しておりましたので、ある程度の前知識を持っての観劇でした。
初演よりずっとずっと美しく、感動的でした。
※詩森さんのブログで創作過程から終演後のまとめまで、生々しい情報(笑)が読めます。このブログを読むとすっごく観に行きたくなっちゃうんですよね。
≪パンフレットの作者の言葉より部分引用。(役者名)を追加。≫
作品に寄せる言葉を書きはじめる前に、まずは劇構造の説明を。この舞台は死を待つひとりの死刑囚(小高仁)が自分の殺した女たち(松岡洋子と明樹由佳)を幻視する1972年の独房と、父(小高仁)の面影を追って女子大生(宮嶋美子)が彷徨する1985年の仙台の町を行きつ戻りつしながら進みます。なぜ1972年かと言うと、死刑囚が独房で小鳥を飼えたのが1970年代の初頭までだからです。
≪ここまで≫
公演が終了していますのでネタバレします。
死刑執行人・杉野(篠塚祥司)と死刑囚の娘・国見知佳(宮嶋美子)との触れ合いに、開演して間もなく涙が溢れて止まらなくなりました。
自分の父の死(死刑)に直接関わった人物・杉野に会いに来た20歳前後の少女・知佳は、杉野の存在を突き止めた途端、いてもたってもいられなくなって東京から仙台へと飛んできてしまいました。杉野に会った瞬間の知佳のはつらつとした表情。自分がやってしまったことに少しの戸惑いはあるものの、若さならではのみずみずしさがまぶしかったです。
そして数々の死刑囚に刑の執行を伝え、それを実行してきた初老の男・杉野は、立っているだけで重ねた年月が感じられました。知佳が国見の娘だと分かった時の杉野の佇まいは、決しておおげさではなく、かといって無表情でもありません。杉野の中にはっきりと国見の姿があるのが見て取れました。
これらは私が初演を観てストーリーを知っていたから、最初にわかったことなんですけどね。それぐらい、登場人物のバックグラウンドにリアリティがありました。
最初は国見のことについて話すのを断固として拒んだ杉野でしたが、杉野の娘(笹野鈴々音)の助けもあって、とうとう知佳にすべてを話そうと決心します。公園のベンチで杉野が「私がボタンを押して、あなたのお父さんを・・・」と言うくだりには、またまた涙がしぼり出されました。
死刑について考えました。「死んで罪を償うしかない」と判断されるほどの悪事を働いた人であっても、やはりその人の命も、私達と同じ命なんですよね。死刑が執行されると、命はなくなります。命がなくなる、ということは、命があった時とは全く違う世界になるということです。死刑とは、あったものが、なくなる、という絶対的な力を持った行為なのです。また、ひとつの死刑が行われたことによって、死刑になった人の家族・親戚にも死刑執行人にも、大きな大きな影響があります。反対とか賛成とかの具体的な決断にはいたらないですが、死刑というものについて、いろんな思考をめぐらせる機会が得られてよかったです。
こんなに重たいテーマが貫かれたお芝居ですが、恋のうきうきや、クスリとできる笑いも挟みこまれていて、ホっと息がつける瞬間がたくさんありました。特に知佳に横恋慕する先輩(好宮温太郎)は素晴らしいですね。初演では日比大介さん(THE SHAMPOO HAT)が演じられていて、それはそれは魅力的な男性でしたが、好宮さんもコミカルで優しい演技が良かったです。てゆーかね、こういう男ってさ、理想だよね、理想!「絶対いないね、こんなヤツ」と思いながらうらやましく見ておりました(笑)。
舞台装置がすごくきれいでした。2本の白い、大きな道が空間を斜めに交差し、その交差点が死刑囚の独房になっています。生きた鳥が出演していたのも嬉しい驚きでした。
美しい空間でリアルな感情の行き来があり、観客の心に直接ひびく感動的なシーンがあったから、かえって気になったことも多かったです。
全体的に、ことばに寄りかかりすぎじゃないかと思いました。死刑囚、妻、愛人の3人が出ている舞台中央のシーンでは、セリフに演技を当てはめようとしているように見えて、その世界に入ることができませんでした。
例えば死刑執行人・杉野と死刑囚の娘・知佳が見つめ合うシーンでは、ちょっぴり気まずい、だけど率直な心の係わり合いがあり、それだけで十分以上に世界が生まれていました。なので、そんなに感情を言葉で説明しなくてもいいんじゃないかと思いました。
あと、死刑囚の国見のことが全然わからなかったんですよね。職業とかおいたちとか、彼については具体的な情報が全く与えられていませんでした。なぜ2人のいい女から、彼はあれほど愛されたのでしょうか。独房シーンにリアルを感じなかった決定的な理由はこれかもしれません。
死刑が執行される時に登場人物のすべてが集約され、白く、黄色く光る照明の中、ひまわりの束が天井から数個落ちてきて、ぶら~んとぶら下がります。ほぼ観劇日記で「絞首刑をイメージしている」との指摘がありまして、なるほど!と思いましたが、私は言われるまで全然気づきませんでした。あまりきれいじゃないなぁと思ったんですよね。ひまわりが反動で何度も上下にびよよんと行ったり来たりするのとか。初演では舞台奥が一面のひまわりになったように覚えています。
細かいことなんですけど、「冬のひまわり」というセリフがありましたが、その花を持ってきた愛人がサマードレスを着ていたのが気になりました。
大道具の出し入れを役者さんがやっていたのですが、ラストシーンのために全てを舞台袖にしまう必要はなかったんじゃないかしら。特に重たいキッチンを杉野夫妻が移動させるのは、あぶなっかしくて気になりました。物があってもなくても、十分に美しいシーンだったと思います。休むに似たり。にも同じご指摘あり。
死刑囚の妻役の松岡洋子さんは文章の終わり(もしくは句読点があるところ)で、一息つく、というか、息を吸うクセがあるようで、それは次のセリフのための準備に見えました。だから言葉にも演技にもリアルが感じられませんでした。松岡さんは『風琴文庫』で今回の妻役とはほぼ正反対ともいえる役柄を演じてらっしゃいまして、私は終演間際まで妻役が松岡さんだとわからなかったんです。その役作りはすごいと思いました。
死刑執行人役の篠塚祥司さんとその妻役の羽場睦子さんにはすっかり魅せられてしまいました。役柄に近い年齢の、年配の俳優がキャスティングされ、その実力が余すところなく発揮されているというのは、小劇場劇団ではあまり観られないことです。
出演=宮嶋美子(風琴工房)/小高仁(第三エロチカ)/松岡洋子(風琴工房)/篠塚祥司/羽場睦子/笹野鈴々音(風琴工房)/椎葉貴子(風琴工房)/好宮温太郎(タテヨコ企画)/明樹由佳(La Compagnie A-n)
脚本・演出=詩森ろば 音楽=寺田宏 音響=青木タクヘイ(STAGE OFFICE) 照明=関口裕二(balance, Inc. DESIGN) 照明操作=瀬戸あずさ 美術=杉山至(CO-Art's突貫屋) 舞台監督=松下清水/甲賀亮 演出助手=山ノ井史 宣伝美術=岡田邦栄・秋本修 制作=盛岡鞠子 票券管理=大木孝司 スチール写真=浅井紀洋 co-crew=山ノ井史 浅倉洋介 企画製作=ウィンディ・ハープ・オフィス 協賛=社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
全席指定 一般=前売3,200円/当日3,500円 ●学生2,000円(枚数限定、大学生以下、劇団のみ取扱い) ●障碍者割引1,500円(劇団のみ取扱い) ●SePT倶楽部会員割引 3,000円 ●世田谷区民割引 3,100円
公式=http://windyharp.org/zero/
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