廃校になった校舎の体育館が劇場に大変身。ミヒャエル・エンデの『サーカス物語』は戯曲なんですね。本の表紙がそのままチラシに使われているなんて素敵!
BACK STAGE REPORTの記事が充実しています。きれいな写真がいっぱいの稽古レポートはこちら。公演ブログには舞台写真がアップされています。
超満員の初日に伺ったのですが、皆さん少し緊張してらっしゃったのか、本調子じゃなかったようで。でも一緒に観に行った小学生は2時間とても楽しんだようでした。
明日14:00の回が千秋楽です。前売りチケットは完売していますが、当日券は開演の1時間前から若干枚数販売されます。詳細はこちら。
≪あらすじ≫
冬。大都市のはずれの工場地帯。いまやテントさえ質に入れてしまったサーカス団は、空き地からの立ち退きを迫られていた。工場の総裁との交渉から帰ったピエロのジョジョ(村島智之)から聞かされたのは、その工場で作る商品の宣伝をするなら、サーカス団を雇ってくれるいう良い知らせ。ただし知恵おくれの少女エリ(市川梢)を除外するのが条件だった。悩む仲間達。期限は明日の夜明けまで。
かわいいエリのために、ジョジョはお話を始める。サーカスのみんなを登場させて・・・。
≪ここまで≫
衣裳もドンドコ着替えるし、パーカッションの生演奏も元気にドンドコ。ジャグリングやディアボロなどの曲芸も役者さんが訓練の成果を見せてくれて、若々しいパワーが溢れていました。ちょっと緊張気味だったけど。
なのに、これが大変残念だったのですが、パーカッションの生演奏にセリフがかき消されてしまい、意味がわからないまま取り残されてしまうことが多々ありました。劇場ではなく体育館ですから、一口に音響効果と言っても一筋縄ではいかなかったのでしょうね。
ここからネタバレします。
原作はそのまま上演すると2時間30分ぐらいにはなるそうで、今作では約30分間の分量がカットされていました。でもセリフもストーリーもほぼ原作どおりだったようです。
知恵おくれの少女エリは大気汚染地域で拾われた。仲間のニックが病気になったのもその公害のせいだった。そしてサーカス団は、その汚染の原因である工場の商品を宣伝するために、今まさに雇われようとしている。しかもエリを捨てることが条件・・・なんと皮肉なんでしょう。
ジョジョがエリや仲間に話したのは、鏡の国に住む不老不死の王女エリ(市川梢)と、明日の国を治める美貌のジョアン王子(石川正義)の、波乱万丈の恋物語。陰惨なオープニングから一転して夢いっぱいのおとぎ話の劇中劇が始まります。永遠の命に別れを告げて王子を追って下界に降りたエリと、大蜘蛛のバケモノのアングラマイン(笠木誠)に騙されて国を追われ、記憶の一切を失ってしまったジョアンが、奇跡的にサーカス団で出会って、互いの愛に気づき、抱き合ってキスするところは涙が出ちゃうほど清らかで美しかった。
明日の国を取り戻すためにアングラマインとサーカス団が闘うシーンでは、胸につきささる名セリフがいっぱい!(でも演奏で聞こえない・・・)
お話がハッピーエンドになり、現実世界はもう明け方。サーカス団がいる場所にトラックやショベルカーなどの建築機械が集結してきて、彼等の周りを破壊していく騒音が鳴り響きます。次第にその中に爆弾が落ちて爆発する音も加えられて、戦争で襲撃される民間人のイメージも付加されます。
まことしやかな大義名分のもとに、かけがえのない人間の命が十把一絡げにされ、阻害され、無視され、捨てられていく。このお話は今の私達の世界を描いたものだとはっきり言えると思います。
『サーカス物語』って、すごい話だったんですね・・・。会場ロピーで原作本が販売されていたので、2,315円だったけど買ってしまいました。装丁が美しすぎる!岩波書店バンザイ!!家に一冊、欲しい本です。超お薦め!
名言の数々を下記に少しだけご紹介いたします。
p192 ジョジョ「おまえはどうやら 自分の知らないものに価値をみとめたくないらしいな。幻想なんてほんとは存在しないって 思ってるんだろ? きたるべき世界は幻想からしか生まれない。みずからつくりだすもののなかでこそ ぼくらは自由なのだ。」
p196 ジョジョ「(中略)いいか 愛と自由とあそびの三つを手に入れたものだけが しんから心おきなくふるまうことができるのだよ。その人はただよいながらおたがいに相手に変身してしまうことだってできる。」
p196 アングラマイン「たいへんだ われとわが身のうちで おのれのみにくく苦しむすがたと対面しなきゃならないなんて。たまらない たまらない! では あたしは自分自身さえも裏切ってしまったんだ! 審判のときだ! 深淵に吸いこまれるー」
イントレで囲まれたシンプルな舞台美術は、照明が効果的に変化して自由自在に場面転換をしていました。王女が住む鏡の国を演出する青と白のキラキラ光るライト(と、鏡?)が可愛らしくてロマンチック。アングラマインに征服された明日の国を、蜘蛛の巣が描かれた黒幕で簡潔に表現していたのもかっこ良かったです。
エリ役の市川梢さん。かわいい!!長いセリフが多いのに、言葉が心から自然と現れてくるように感じられて、全く長さを感じませんでした。
宮光真理子さん。やっぱり目を引く美しさでした。『雪の女王』のゲルダ役とは全く違う、ちょっときつい性格のヴィルマ役で、赤く染めたボブカットが艶やか。
大蜘蛛のバケモノ、アングラマイン役の笠木誠さんは、すごい艶っぽさと迫力でしたね。アントワーヌ・コーベ演出の『見よ、飛行機の高く飛べるを』の先生役と聞いて驚きました。カメレオンみたいに変身するんですねぇ。
★言葉について★
たとえば「知恵おくれ(精神薄弱者)」は今では放送禁止用語になっており、テレビやラジオでは流れませんし、新聞にも書かれません。原作には「知恵おくれ」の他に「めくら」等(同じく放送禁止用語)も出てきており、今作ではそのままセリフで使われています。でも、今の小学生はもう知らないそうです。「知恵おくれって何?」と聞かれて愕然としました。使わない→必要ない→教えない、となって、言葉が日常から抹殺されるんですね。
「知恵おくれのエリ」なら戯曲の語感と合っていますが、「精神薄弱者のエリ」なんて一度聞いても何のことだか想像しづらいのではないでしょうか。放送禁止用語についてあまり深く考えていませんでしたが、こんなにも直接的に言葉の文化に侵食してくるなんて。もっと慎重にならなければと思いました。
にしすがも創造舎演劇上演プロジェクトVol.1
出演=あきやまかおる/綾田將一(reset-N)/伊澤勉/石川正義(ク・ナウカ)/市川梢/沖田みやこ(のこされ劇場≡)/小田さやか/笠木誠/金子由菜/小林紀貴/さとうまりこ/平佐喜子/谷口直子/堂下勝気(怪童堂)/凪景介/三橋麻子(Ort-d.d)/宮光真理子/村上哲也/村島智之/渡辺麻依
作=ミヒャエル・エンデ(岩波書店刊) 訳=矢川澄子 演出=倉迫康史(Ort-d.d) 美術=伊藤雅子 照明=木藤歩(balance,inc) 衣装=竹内陽子 舞台監督=弘光哲也 音響=水村良(AZTEC) アンサンブルディレクション=棚川寛子 歌唱ディレクション=土井都希和 宣伝写真衣装制作・スタイリング=ROCCA WORKS 宣伝写真撮影=萩原靖 協力=T factory (株)ラウダ
9月2日(金)前売開始 全席自由(日時指定・税込)一般3,000円 学生2,000円(当日要学生証提示) こども(3歳以上~小学生)1,000円 親子チケット(一般+こども)3,500円 豊島区民割引 一般2,500円(ANJのHPまたは電話でのみ取扱)(3歳未満のお子様の入場はご遠慮ください)
公式=http://sozosha.anj.or.jp/topics/200508_01.html
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