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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年10月12日

Bunkamura『天保十二年のシェイクスピア』09/09-10/22Bunkamuraシアターコクーン

 井上ひさしさんの1974年初演の戯曲を蜷川幸雄さんが演出。蜷川さん、井上さんの戯曲を演出するのは始めてのことだそうです。今年No.1の豪華キャスト&スタッフと言えるでしょう。
 いや~~~・・・めっちゃ楽しかった!休憩を含んでほぼ4時間ありましたが(前半2時間、休憩20分、後半1時間40分)、ほんとにアっという間でした。気持ちよかった~っ!舞台写真はこちらこちら

 前売り完売で立見席も完売の公演ですが、若干の当日券(おそらく立見席がほとんど)もあるようです。当日券情報はこちら

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 ≪あらすじ≫ 公式サイトよりそのまま引用。(役者名)を追加。
 時は天保、下総国の清滝村。その村で二軒の旅籠や賭場を経営する〈鰤の十兵衛〉(吉田鋼太郎)は、自分の財産を三人の娘に分け与え気楽な隠居生活をすることを考えていた。そこで三人の娘を呼び出し「この先、自分をどれだけ大切にしてくれるか?」を語らせ、それに応じた財産分与をしようとする。口がうまい長女〈お文〉(高橋惠子)と次女〈お里〉(夏木マリ)に対して、バカがつくほど正直な三女〈お光〉(篠原涼子)。お光はお世辞をうまく言うことができず父の機嫌を損ね、とうとう家を追い出されてしまう。

 こうして、まんまと父の財産を手に入れたお文とお里。しかし強欲な2人はそれだけでは飽き足らず、財産の全てを自分のものにしようと、それぞれの亭主を親分にして骨肉の争いを始める。物騒なはかりごとが渦巻く清滝村。そこに突然現れたのが、無宿者の〈佐渡の三世次〉(唐沢寿明)だ。足は不自由で背中にこぶのある彼は、剣術は得意ではないが策略ならお手の物。両家の争いをうまく利用して、清滝村の親分に成り上がろうとする。また一方では、お文の息子〈きじるしの王次〉(藤原竜也)が父の訃報を聞きつけ清滝村に駆けつけるのだが……。
 ≪ここまで≫

 パンフレットの松岡和子さんの文章に「書き加えたというより、ここまで下ネタに徹するか、という驚きがあります」とありますように、濡れ場や卑猥な言葉の連発でした。私、そういう助平系のは苦手なんですけどね、耐えられました。この作品全体の空気がわいわいがやがやと、とても活力があって楽しそうだったから。演出の蜷川さんが凄いんだと思います。

 井上さんの戯曲はセリフにダジャレや言葉遊びなどが多く盛り込まれていて、たまに会話の途中で客席に向かって独り言を言ったりもしますので、一筋縄ではいかないものがほとんどだと思うのですが、メインの役者さんはその構造をわかりやすく、面白く、しっかりとこなされていました。だから4時間ずっと楽しめたんですね。

 ここからネタバレします。

 シェイクスピアの37作品全部が紹介されているそうで、例をあげると↓
 ・父親(吉田鋼太郎)の財産を3人の娘(高橋惠子・夏木マリ・篠原涼子)に分けるのは『リア王』。
 ・老婆(白石加代子)が男(唐沢寿明)に予言をするのは『マクベス』。
 ・父親(西岡徳馬)を叔父(西岡徳馬)に殺された若者(藤原竜也)がその復讐を誓うのは『ハムレット』。
 ・敵同士の家の若い男女(藤原竜也・篠原涼子)が愛し合うのは『ロミオとジュリエット』。
 ・せむし男(唐沢寿明)が、その夫も妹も殺した女(篠原涼子)を妻にするのは『リチャード三世』。
 ・生き別れになっていた双子(篠原涼子・2役)が運命の偶然で再会するのは『十二夜』と『間違いの喜劇』。
 ・部下(唐沢寿明)から嘘を吹き込まれ、妻(夏木マリ)の貞節を信じられなくなって、妻を殺してしまう夫(勝村政信)は『オセロー』。
 ・墓堀り人夫(木場勝己)がふざけながら真実を語るのは『ハムレット』。
 ・・・というように、シェイクスピアづくし。

 蜷川さん演出の2003年の『ハムレット』と配役が被っているのが面白いですね。ハムレット=藤原竜也、ガートルード=高橋惠子、クローディアス=西岡徳馬など。

 "To be or not to be, that is the question."の日本語訳を何通りも藤原竜也さんが話してくれるのがサイコー!井上さんが近作のために脚本をかなり変更されたそうです。たとえばこのハムレットのセリフでは、松岡和子さんと河野祥一郎さんの訳が追加されているんですね(パンフレットより)。

 関八州の親分衆が出てくるシーンでは、年季の入ったおじ様俳優さん達が思いっきりケレン味のある濃いキャラクターを作り込んでいて、何をやっててもニヤリとしちゃいました。

 「自分が自分を殺すことが無い限り・・・」という老婆(白石加代子)予言がすごいです。代官に出世した三世次(みよじ・唐沢寿明)は、水呑み百姓(三世次の父親の職業)を殺し、自分の姿を映した鏡を破壊した、つまり自分を殺したから滅びます。やっぱりね、これに尽きると思うんですよ。自分自身を自分が殺す=自分を裏切ることこそ、人間が一番やってはいけないことなんですよね。

 役者さんについて、私の中でのNo.1は棺おけ屋の佐吉役の高橋洋さん。棺おけを打ちながらのセリフに感動。浮船太夫(毬谷友子)との悲しすぎるすれ違いの死のシーン(『ロミオとジュリエット』より)は、そこだけが切り抜かれたかのように研ぎ澄まされ、浮かび上がっていました。
 そうそう、毬谷友子さんは冬子役(『ハムレット』のオフィーリア)も演じられており、狂いながら歌い踊るところも美しかったです。

 白石加代子さん。何をやっても絵になるし、何を演じていても、妖怪(笑)。素晴らしすぎて何も言うことありません。
 夏木マリさん。かっこえーなー・・・こう、自分が何をやるべきかを知っていて、それをしたたかに実現されているのがわかります。
 篠原涼子さんは大役2役で大変ですね。すごくきれいな方で、きっと清らかなお心の持ち主だと思うのですが(一方的に)、演技はダメでした。
 高橋惠子さんは・・・蜷川さんのお芝居で良いと思ったことが無いんです。めちゃくちゃ美人女優さんだとは思うんですけど。
 唐沢寿明さんは、いつもどおりっていうか。きっとめちゃくちゃ男らしい男性なんだろうなって思いました。
 藤原竜也さんはやっぱり光っているんですが、コメディセンスはいまいち・・・かな。女形と人形の動きをされていた時は良かった。セクシーでした。

≪関連リンク≫
 ・[評]“何年かに一度は見たい”面白さ
 ・蜷川 井上戯曲に初挑戦 「天保十二年のシェイクスピア」

出演=唐沢寿明/藤原竜也/篠原涼子/夏木マリ/高橋惠子/勝村政信/木場勝己/吉田鋼太郎/壤晴彦/高橋洋/毬谷友子/沢竜二/西岡徳馬/白石加代子/原康義/妹尾正文/大川浩樹/鈴木豊/グレート義太夫/飯田邦博/塚本幸男/清家栄一/堀文明/新川將人/福田潔/井面猛志/篠原正志/田村真/角田明彦/大橋てつじ/ひかる光一/宮田幸輝/市川夏江/蓬莱照子/五味多恵子/中島陽子/羽子田洋子/加藤弓美子/太田馨子/栗田愛巳/松坂早苗/江間みずき/松岡さやか
作=井上ひさし 演出=蜷川幸雄 音楽=宇崎竜童 美術=中越司 照明=原田保 衣裳=前田文子 音響=井上正弘 振付=前田清実 舞台監督=白石英輔
S¥13,000 A¥10,000 コクーンシート¥6,000
上演時間は4時間を予定
公式=http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/event/tempo/index.html

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Posted by shinobu at 2005年10月12日 01:31 | TrackBack (0)