『ウィンズロウ・ボーイ』に続く、テレンス・ラティガン3作品連続公演の第2弾です。またもや涙ぼろぼろ~っ!!まごころのこもった一言一言に、観ている方も一緒になって気持ちが高揚したり、グッサリと傷ついたり・・・。テレンス・ラティガンってすごい!浅野和之さんと今井朋彦さんの男の演技合戦もみどころです。
イープラスの得チケあり!10/30(日)までです。お見逃しなく!
≪あらすじ≫ ※パンフレットより引用。(役者名)を追加。
パブリック・スクールの校内にある教職員住宅の一室。夏休みを控えた、終業式の前日。教師で、古典学者のアンドルウ・クロッカーハリス(浅野和之)は、心臓病のため明日でこの学校を去ることになっている。アンドルウは人に好かれる性質ではなかった。彼は、教師としても、妻ミリー(内田春菊)との夫婦生活においても、自分が落伍者であるということを認めていた。そんなアンドルウに、生徒(池上リョヲマ)や同僚(今井朋彦)、校長(岡田正)や新任教師(佐藤祐基)、様々な人々が挨拶に訪れる。それは、いつも冷静な彼の心を激しく揺さぶるものだった。
≪ここまで≫
『ウィンズロウ・ボーイ』では、正義を成すのではなく、正しいことをすることの大切さ、美しさが表されていたと感じました。今作では、何も隠さない、本気の、本音のコミュニケーションこそ、人間の幸せなのではないかと、優しく語り掛けられたような気がします。
ここからネタバレします。
エリート学校の中での半日の出来事です。ギリシア悲劇『アガメムノン』のブラウニング訳の本(これがタイトルの意味になります)を生徒のタプロウから贈られたアンドルウは、教師になって初めてというぐらいの感動を覚え、涙します。それを聞いた妻のミリーが「タプロウは単位欲しさにおべっかを使っただけ」とつげ口するシーンでは、「やめてーーーーっっ!!」っと叫びたい気持ちでいっぱいになりました(もちろん叫ばなかったけど)。
「アンドルウを傷つけないで!タプロウの真心を汚さないで!他人を侮辱して楽しむのはやめて!」と、私の胸の中でミリーへの怒りが燃え盛りました。そして、すっかり意気消沈してどん底に落ち込み、だけどそのことを決して表には出さないアンドルウに対しては、「そうじゃないよ!タプロウは本当に貴方のことが好きだったのよ!」って伝えたくてたまらなかった・・・という風に、シーンが進むごとに私の心は登場人物のそれと一緒に天国に行ったり地獄に行ったり。アンドルウの書斎にすっかり入りびたり、あの部屋で起こる心の浮き沈みを自分も体験しました。
アンドルウの同僚のフランク(今井朋彦)は、アンドルウに隠れて肉体関係を持っていたミリーに対して初めて激しい嫌悪感を覚え、彼女にはっきりと別れ話をします。そして初めてありのままの自分自身でアンドルウと向かい合い、本音の対話を始めます。硬く心を閉ざしていたアンドルウが、フランクの提案(フランクがアンドルウの新しい赴任先に訪れること)を受け入れたのは、それまでなら考えられないことだったけれど、自然で美しかったです。人は、人によって変わりますね。
内田春菊さんの演技には意見が分かれるところだろうと思います。浅野和之さんと今井朋彦さんの間に挟まれた最重要キャラクターですから、どうしても2人と比べると見劣りします。彼等ほど技術がないのだから仕方がないですよね。
私は内田さんの口から順序良く流れ出てくる、棒読みに近いセリフがどうしても受け入れられず、ミスキャストだと感じていました。また、子供がいない女性に見えなかったんですよね。内田さんが実際には4人のお子様がいらっしゃるお母様だからかもしれませんが、仏の慈愛のような空気とか、ほんわかとした幸せが感じられたんです。それは内田さん個人としては素敵だな~と思うのですが、ミリーには不似合いですよね。だからアンドルウに対する憤りなどがリアルに感じられなかったのではないかと思います。
でも、何事にも動じないであろう、あの豊潤で妖艶な佇まいは内田さん独特のものだと思いました。アガペーの愛ではなくエロスの愛を求める女であるということはバンバン伝わってきました。
舞台美術(横田あつみ)が素晴らしかったです。歴史あるイギリスの居間兼書斎。本棚、間仕切り、中庭へと続くステンドグラスのようなガラス戸。横田さんの美術は単にリアルであるだけでなくて、壁や物に年輪が感じられるんですよね。
おそらく昼下がりから夜までのお話ですが、物語の起伏にあわせて照明は微妙な変化を見せていました。ガラス戸から差す日の光には何種類もありましたね。優しくて、渋いです。
浅野和之さん。古典学者アンドルウ役。なんて上手いんだろう・・・セリフがない時の、体がピタリと動かないところに一番感動しました。動きがとても上品。誰と何を話す時もアンドルウでした。かっこ良すぎ。
今井朋彦さん。同僚のフランク役。前半は内田春菊さんとのからみがほとんどだったためか、私にはコミュニケーションが存在しているように見えませんでした。早口すぎましたし。後半のアンドルウとの一騎打ちシーンでは、ちゃらんぽらんな若者から強い意志と信念を持つ一人の男に変身し、手に汗握る対話を見せてくださいました。
池上リョヲマさん。タプロウ少年役。慌てた演技がずーっと続くので見ていて息苦しくなるところもありました。でも、本音がドンと口から出てしまうところや、先生に気を使って小さな声になるところなど、心がそのまま素直に現れていて胸を打ちました。小劇場の無名の若い男優さんが、こんな大きな企画に主要な役で出演されているのがすごく嬉しいです。
佐藤祐基さん。新任教師役。毅然としたりりしいお姿に、これが初舞台とは思えなかったです。この方も池上リョヲマさん同様に、心が身体に溢れていて輝いていました。ハンサムだしこれからが楽しみですね。
校長先生役の岡田正さんと、新任教師の新妻役の一戸奈未さんは残念な出来でしたね。何らかの正解を目指してがんばってる状態とお見受けました。私が拝見したのが2ステージ目でしたので、これから良くなられるのだろうと思います。
※手塚の一行レビューに関連記事。
テレンス・ラティガン3作連続公演 ラティガンまつり
出演=浅野和之/内田春菊/今井朋彦(文学座)/岡田正/池上リョヲマ(グワィニャオン)/一戸奈未/佐藤祐基
作=テレンス・ラティガン 訳・演出=鈴木裕美 舞台美術=横田あつみ 照明=中川隆一 音響=井上正弘 衣裳=三大寺志保美 ヘアメイクデザイン=河村陽子 舞台監督=伊達一成 演出助手=吉田智久 演出部=丹下由紀 照明操作=宇野理良 音響操作=友部秋一 ヘアメイク=鎌形裕子 大道具製作=俳優座劇場舞台美術部 小道具協力=高津装飾美術/京阪商会 衣裳協力=東京衣裳 履物協力=神田屋/DANCIN'SHOE OHKI ヘアメイク協力=DaB コスメ協力=チャコット イラストレーション=進藤恵子 写真=加藤孝 舞台写真=木山晃子 パンフレット取材=上野紀子 宣伝美術=鳥井和昌 制作助手=本郷みつ子 版権コーディネート=マーチン・ネイラー 古典ギリシア語指導=金子佳司 企画=鈴木裕美 制作=須藤千代子/村田朋美/大槻志保 製作=自転車キンクリーツカンパニー
【全席指定、消費税込】一般=5,000円●10/20(木)、10/21(金)は4,000円●小学生未満のお子様のご入場はご遠慮下さい。ラティガンまつり(テレンス・ラティガン3作品連続公演)のいずれかの半券で、別演目のチケットが500円引き。
公式=http://www.jitekin.com/
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