阿佐ヶ谷スパイダースの長塚圭史さんと伊達暁さん、そしてTVドラマに出演中の人気女優の奥菜恵さんというとても若い俳優が、三好十郎の『胎内』にチャレンジすること自体が驚きの企画です。
素晴らしかった・・・。人間はなぜ生きるのか、生きているとはどういうことなのか。3人の役者さんが全身全霊で、ことばを大切にしながら伝えてくれました。
前売りチケットは完売しています。当日券は販売されているようです(未確認)。お問い合わせ⇒こどもの城劇場事業本部 03-3797-5678
『胎内』は新国立劇場で去年の秋に初めて拝見しました(レビューはこちら)。私は今公演の方が感動しましたね。
今作と比べて初めて気づいたのですが、新国立版は役者さんがどこか悟っているような風でした。「○○という状況だから××になる」という、理論的に整合性のある演技をされていて、舞台で起こるすべてが時系列に沿った、納得できる事象だったのです。つまり、到達すべきゴールに向かって道筋どおりに進んでいる状態。目の前に居る役者さんがとても遠い存在だったのはこのためではないかと思います。
でも今作では、暗い穴に閉じ込めれられて、生きるか死ぬかの瀬戸際で焦り、もがき、必死で考え、じたばたする3人の人間が、そこに居るだけでした。役者さんの年齢が若いというのもあるかもしれません。無鉄砲で考えなしで、とにかく今の瞬間、一瞬一瞬を生きていました。次に何が起こるかなんて全くわかっていなくて、ただ恐れて、怒鳴って、甘えて、泣いていました。子供みたいに。
≪あらすじ≫ イープラスの特集よりそのまま引用。改行を2箇所追加。
時は敗戦から数年後の、ある山中。一組の男女が連れ立って現れる。どうやら、汚職事件にからんで逃亡生活を続ける男・花岡金吾(伊達暁)とその愛人と思われる女・村子(奥菜恵)。二人は追っ手の目を逃れるため、偶然見つけた山中の洞窟に身を潜める。しかしそこには一人の復員兵・佐山富夫(長塚圭史)が先住者として住まっていた。
戦後の復興を謳歌するかごとく、饒舌に、あふれる生命力を誇示せんがごとく話し続ける同行する男女二人。その一方で、戦争によって一変した己の生活に生きる意味も見出せず無気力な元復員兵。
そんななか、地震で洞の出口が塞がれてしまう。もともと戦時中に偶然ほりだされた洞窟。三人は出口はおろか、空気の出入口すら見失う。食料も水もない状況下で死に直面する三人。蝋燭の明かりのなかでわずかな希望をもち三人は地面を掘り続けるのだが…
≪ここまで≫
三好十郎さんの戯曲、本当に凄いですね。どんどん飛び出してくる膨大な量の言葉たちが、いちいち心にずしんと響いてきます。戯曲本欲しいなぁ。
伊達さんと奥菜さんは比較的早口に、間髪入れずに話し続ける方法をとってらっしゃいました。最初はとっつきにくかったのですが、ドーッと押し寄せてくる同じリズムの言葉たちから、花岡と村子の人物像がはっきりと一つになってきました。
長塚さんは対照的にじっくり言葉を聞かせる、たまに棒読みがちになる語り口でした。生きることをあきらめて人間を軽蔑していた佐山役だったから、前半はそういう方法だったのかなぁと思います。でも自分の命というものに徐々に気づいていくにつれて饒舌になり、体ごと叫ぶように発せられるセリフには胸が震えました。また、言葉を伝えようと、とても丁寧にしゃべってらっしゃるのが嬉しかったです。
つまり、3人の役者さんは皆さん、めちゃくちゃ素晴らしかったです。ただ、伊達さんと長塚さんは地面に座るとなぜかセリフが伝わってこなくなりました。歩いたり取っ組み合ったりしている時とは全然違うんですよね。朗読みたいっていうか、感情があまり伴っていない言葉になって、ちょっと残念。奥菜さんは体の動きに関わらず、その場に、そのまま生き続けていらっしゃいました。男女でこの差が見えたのは意外で面白かったのです。
ここからネタバレします。
村子が「音が聞こえる。外から誰かが開けようとしている!」と叫びはじめた時、花岡もそれを信じて狂喜します。2人で外に出る荷造りを始めたあたりで、私も「本当に助けが来るのかもしれない・・・」と感じました。それほどその2人は助けが来ることを確信していましたし、体中で喜びを表現できていたからです。そして暗転後の次のシーンで3人が水溜りのまわりにがっくりとして座っているのを見て、「あぁ、やっぱり幻聴だったのか・・・」と気づきました。
新国立版では最初から「あれは幻聴だ」と観客の私がわかっていました。敢えてそういう演出をしたのかもしれませんが、役者さんが“幻聴かもしれないと思いながらぬか喜びする様子”を演じていたのではないかと思います。私には今作の方が断然良かったですね。
新国立版でもそうでしたが、やっぱり佐山(長塚圭史)のセリフに涙しました。(セリフは正確ではありません)
「死ぬのになぜ生まれるんだ?」
「人間はインテリにならなければ生きていけない。でも中途半端だからだめなんだ。」
「俺には観念がある。だからお前には勝っている。」
2度目なので印象に残るセリフが違いました。もっともっといっぱい紹介したいのですが覚えていない・・・。戯曲本、欲しいなぁ(クドい)。
青山円形劇場では珍しく、かなりリアルな美術でした。円形ステージを囲む客席の約5分の1(ぐらい?)は、ごつごつとした岩肌の巨大なセットで天井まで埋めつくされており、そこが洞窟の入り口になっています。ステージも土と石ででこぼこの地面です。中央には水溜りがあり、ろうそくを立てられる鉄の棒が一本刺さっています。ところどころ凹んだ地面はクッション状に柔らかくなっていて、少し湿っています。そこに役者さんが転ぶと服が濡れるのです。リアル!
ろうそくが時間が経つにつれてどんどん短くなっていくのが良かったですね。ラスト間際はほんの1cmほどの長さになっていて、命の灯火がまさに消えようとしている、でも最後まで燃えているのだというメッセージとも受け取れました。
ろうそくの火を吹き消すごとに暗転が訪れて、その最中に流れたのは母親の心臓の鼓動と羊水の音。どくん、どくん、ゴーーーっという感じ。これには興ざめしちゃいましたねぇ。舞台だけでなく劇場全体が人間の胎内である、つまり観客も胎内にいるということが狙いだったのかな。それは観客が自分から感じられると思うので、説明しすぎな気がしてちょっとヤでした。
終演後しばらく余韻を味わいたくて、イスに座ったままじーっと装置を眺めていました。照明でうっすらと光る黒々とした岩肌を見つめていると、洞窟が私達人間を暖かく見守っているような気がしました。あの装置と照明はすごいですね。
出演=奥菜恵/長塚圭史/伊達暁
作=三好十郎 演出=鈴木勝秀 美術=二村周作 照明=倉本泰史 音響=井上正弘 衣裳=尾崎由佳子 演出助手=長町多寿子 舞台監督=安田美知子 宣伝美術=coa graphics 宣伝写真=小山裕良 宣伝ヘアメイク=野崎陽子 制作進行=相場未江 辻未央 制作=大島尚子(青山円形劇場) 伊藤達哉(ゴーチ・ブラザーズ) 企画制作=こどもの城劇場事業本部/阿佐ヶ谷スパイダース制作部 主催=こどもの城/ゴーチ・ブラザーズ
前売:5,500円(全席指定・税込) 当日:5,800円(全席指定・税込)
公式=http://asagayaspiders.net/modules/tinyd20/
イープラス特集1=http://eee.eplus.co.jp/s/tainai/
イープラス特集2=http://eee.eplus.co.jp/s/tainai_2/
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