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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年11月14日

パラドックス定数『大正八年永田町』11/09-13王子小劇場

 パラドックス定数は前回の2人芝居『5seconds』が面白かったので楽しみにしていたのですが、その期待を上回るものを観せてくださいました。

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 《あらすじ》公式サイトよりそのまま引用。一部(ふりがな)追加。
 国会議事堂の建設と地下鉄の敷設。大正八年に始まった二つの事業は人間の思惑を超えて疾走する。策略が交錯する永田町。この場所で静かに男たちは牙を剥く―――
 議事堂の設計コンペから竣工までの17年間を4人の設計士中心に描き出す。大正デモクラシーとも呼ばれる自由闊達な時代から徐々に軍部が台頭し、第二次世界大戦になだれ込むまでを背景にした、モノを創ることにとりつかれた人間の群像劇。
 議事堂建築と平行して、要塞都市、防災都市としての顔も持ち始めた首都東京とその地下の姿を大胆に想像する。ほんの70年前に完成した国会議事堂だが、その設計者の名は未確定となっている事実。フィクションとノンフィクションの間隙(かんげき)を衡く物語が緊張感を孕んで展開する。
 《ここまで》

 「一番前の席がお薦め」という噂がしっかり回っていたようで、けっこう早めに行ったつもりだったのですが、前からガンガンに席が埋まっていました。ネット&メールの口コミはすごい!

 あらすじにありますように「静かに男たちは牙を剥く」・・・のです!ダーク系のスーツ&眼鏡で統一された軍隊・民間企業・国家公務員戦士がかっこいーっ!!スーツ男子に目が無くて、眼鏡ボーイもお好みな私にとってはお徳過ぎの空間(笑)。
 
 舞台上にはクラシックでシンプルなイスしかありません。役者さんは自分のシーンが終わったら舞台の上下(かみしも)に並べられたイスに座って待機しますので、一度舞台に出たらずっと出ずっぱり。
 照明は暗い目&控えめですが人物の影がとてもきれいです。セリフの後にスパっと暗転するタイミングが絶妙。小気味よい切れ味があって余韻も残ります。

 説明くさくなるようなセリフや、特にストーリーに関係の無いおしゃべり等が極力排除されているので、観ている方が登場人物の名前やバックグラウンド(職業、家族構成など)をしっかりと想像して観ていかないと、置いてけぼりを食らうかもしれません。でも、それぐらい言葉に磨きをかけているからできることであり、強気で勝負しているのがカッコイイと思います。

 登場するのは戦う男たち。暴力ではなく、権力、財力、人脈、話術、そして自分の頭脳および腕一本で、生涯をかけた戦場に立っています。形態は違いますが今の日本のサラリーマンに姿が重なりました。
 緻密に積み重ねられる好戦的な言葉、言葉、言葉。あくまでもスマートです。売り言葉に買い言葉、嫌味の上に嫌味を重ね、どんな小さな弱点も逃さず刺し貫き、刺されても傷跡は決して見せず、新たな攻撃に出ます。勝っても決して油断せず、手加減もしないし、負けても痛快な捨て台詞を発して毅然としています。
 セリフは全然正確じゃないですが、私が感動したやりとり・セリフは下記。
 「戦争も外交手段のひとつです」「人殺しは外交ではない!」
 「美しいものが創りたかっただけなんだ」

 前売り1800円で王子小劇場で拝見したお芝居としては、満点以上の出来だと思います。だからもうその枠にはまる必要がないと思うんですよね。脚本は新劇の大劇団(文学座とか青年座とか)に提供しても上演できると思いますし、将来は(改善すれば)新国立劇場の舞台にも乗せられると思います。

 なので少々厳しい視点から意見を言わせてもらえれば、これは『5seconds』の時にも感じたのですが、意図的に笑いや心の通じ合いなどが排除されているのはもったいないと思います。切って切られての、無駄を省いた戦いのコミュニケーションだけではどうしても単調で、焦点がぼやけてしまいます。そして登場人物の生い立ちや友人関係、家族などの生々しいバックグラウンドが完全に排除されているのでは、説得力に欠けます。
 また、17年間を描いていたはずだけど時間の経過が感じられないことが多かったですね。そこは役者さんの演技やセリフにもうちょっと味付けをしなければいけないのではないでしょうか。

 脚本や演技、演出以外の細かいことについても、こだわりを実現している作品でした。国会議事堂や地下鉄の路線の設計図がたくさん出てきますが、とても精巧に出来ていて、全て手作りだとか(残念ながら私の席からは見えませんでした)。最後にモールス信号の音が聞こえるのですが、「ニイタカヤマノボレ1208(日本語)」という真珠湾攻撃の指令だそうです。ブログで噂の“切符型チケット”は、受付でパチンとハサミを入れてもらうのが嬉しかった。

 制作面では『5seconds』の時に当サイトfringe blogで指摘されていたことが全て改善されていて、劇団ホームページも開設!ザクザクと前進している劇団だと思います。※役者さんは特に劇団所属ではないようなので、劇団というよりは作・演出の野木萌葱さんを軸にしたプロデュース団体なのかもしれませんね。
 男優さんなら誰もが出てみたいと思う渋い作風じゃないかしら?モテ間違いなしだと思いますよっ♪

出演=植村宏司/十枝大介/杉田健治/西原誠吾/舞場壊人/井内勇希/千葉伸吾/大塚秀記/小野ゆたか
作・演出=野木萌葱 照明=木藤歩 音響=井川佳代 舞台監督=栗山佳代子 宣伝美術=山菜春菜 WEB広告=富永淳 制作=パラドックス定数研究所
王子小劇場提携公演 日時指定・全席自由 前売り1800円 当日2300円
公式=http://paradoxconstant.tank.jp/taisho8/

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Posted by shinobu at 2005年11月14日 15:31 | TrackBack (0)