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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年01月04日

佐藤佐吉演劇祭参加・クロムモリブデン『ボウリング犬エクレアアイスコーヒー』12/29-01/03王子小劇場

 東京国際芸術祭2004のリージョナルシアター・シリーズに出場していたのですが、私は今回が初見です。
 期待していたよりも面白かった!はっきりと独自色があるってことの強さを思い知りました。関西の劇団なのに関西っぽさをアピールしていないのも良いです。

 劇場は開場時間から、弦楽器と女性ヴォーカルの生演奏に打ち込み音楽(パソコンに打ち込んで作られた音楽)も合わせられた、本格的なライヴハウス状態。天井の高い王子小劇場が赤いカーテンに包まれており、大人っぽいいかがわしさがある、しっとりした空間になっていました。
 もうすぐ開演かな~...ぐらいの時間に舞台監督さんがてくてく歩いてきて「演奏はここまで、これから本編です」とご挨拶。奏者と女性シンガーを紹介している途中にいきなり役者が出てきてそのまま本編突入。
 もうちょっと勢いがあれば始まりのわくわく感が理想的に増徴したと思うのですが、ちょっと控えめでしたね。でも期待感が持てるオープニングでした。

 ネットの掲示板で知り合った自殺志願者が待ち合わせをしている。今からみんなで集団自殺だぜぃ!しかし、その中にはある女(死にたい女:奥田ワレタ)の自殺を止めたいと思っている人物(元気な女:齊藤桂子)と、ある悪巧みをしている人物(パリと東京を行ったり来たり:山本景子)が潜んでいた。つぶれたボウリング場に集まる謎の多い人物たち。(・・・ストーリーはあまり覚えていませんねぇ。ハンドルネームも間違ってたらごめんなさい。)
 
 作品の印象を具体的な何かに例えるとすると、短編クレイアニメとか、音楽のプロモーション・ビデオ(PV)です。いろんな色が交じり合った画面がグルグルっと動いて、何かが出来上がった瞬間にパッと止まる感じ(クレイアニメ)。歌手(この場合は役者)がカメラに向かってノリノリ&ナルシスティックに踊り歌って自己アピールし、次々に違う歌手と入れ替わりながら目まぐるしく回り、背景は浜辺、宇宙、台所などにひっきりなしに変化します(PV)。映画だと大昔に観たブラッド・ピット主演『ジョニー・スエード』に似てるような・・・(赤いカーテンとか、ナルシスト具合とか)。

 衣裳も照明もカラフルで、音楽もけっこう派手です。役者さんは一人一人のキャラクターをきっちり固定して、濃い演技をしています。でも、ごてごてしていないからシンプルで美しいんですよね。決めるところはハデに決めて、押さえるところは丁寧に押さえる。そのバランスが心地よいです。どこで舞台写真を撮っても絵になります。小刻みに変化するキャラクターや場面転換もリズミカルで楽しかった。

 演出(青木秀樹)によって作品世界が緻密に作り上げられているのがガツンと伝わってきました。美術、衣裳、照明、音響のスタッフワークは言うまでもなく、俳優が役割をきっちり果たしており、舞台上で表現されるひとつひとつの細かい仕掛け全てに、一本通った意図が感じられました。

 ただ、中盤で退屈しちゃったんですよね。たぶんストーリーがそれほど練られていないんじゃないでしょうか。当日パンフレットにも「今回は台本の無い処から始めてみました。(青木秀樹さんの文章より引用)」と書かれていますし。

 あと、細かいことですが、途中でヒロイン(死にたい女:奥田ワレタ)がなぜか関西弁になりましたね。ここまで独特の世界を作ることができているのだから、最初から最後まで標準語に統一した方が良いんじゃないかなぁ。それか、全編関西弁にするとか。

 全体としては、見所がいっぱいあって、私自身、勉強させていただけたところもあり、満足でした。関係者の方に「次回は誰か誘ってきてください」と言われたのですが、私だったらお友達の役者さんを誘いたいと思います。小劇場界で、技術よりもノリや個性を売りにしている役者さんは観た方がいいんじゃないかな。ノリと個性はすっごく大切だけど、それも使い様なんだってことがこの劇団の役者さんを見ればわかると思います。

 黒人のボブ役(板倉チヒロ)は外国人だからこそのボケと穏やかなツッコミをするキャラクターでした。それを演じきっているのが見事です。

作・演出 / 青木秀樹
出演 / 森下亮・金沢涼恵 ・板倉チヒロ・山本景子・重実百合・信国輝彦・奥田ワレタ・齊藤桂子(dd69)・大沢秋生(ИEUTRAL)・岡本竜一  
クロムモリブデン:http://crome.jp/
王子小劇場:http://www.en-geki.com/
クロムモリブデン制作・役者の森下亮さんのブログ・アメイセンソウ:http://blog.goo.ne.jp/ac75

Posted by shinobu at 20:49 | TrackBack

青年団リンク・地点『雌鶏の中のナイフ~Knives in Hens』01/01-23アトリエ春風舎

 三浦基さんのとびきりブッ飛んだ演出が観られる青年団リンク・地点。私は去年の11月の『三人姉妹』に続き、2度目です。 
 地点は今年、東京から京都に拠点を移されるそうで、次に東京で三浦さんの作品を観られるのはちょうど1年後、2006年の1月になるそうです。まだ観た事のない方は、ぜひこのロングラン公演を逃さないでくださいね。1ステージに約30人の観客という贅沢な空間です。23日まで小竹向原のアトリエ春風舎にて。(2005年7月10日加筆)

 あるのどかな田舎の農村。馬を育てている農夫ウィリアム(大庭裕介)の妻(安部聡子)は、毎日のら仕事に精を出している従順な乙女。ある日、夫の代わりに水車小屋に粉を挽きに行くことになった。水車小屋の番をしている男(小林洋平)は昔、自分の妻と子を殺したと噂されている、村の嫌われ者。
 男になるべく近寄らないようにしていた女だが、何度も水車小屋に通う内にいやいやながらも言葉を交わすようになる。ある日、男からペンを持たされて、女は生まれてはじめて自分の名前を文字で書いたのだった。そして・・・。

 ものすごくエロティックな、女1人、男2人の3人芝居でした。『三人姉妹』の時と同様、セリフは文節および音で分割されて、独特のスピードと音程で発せられます。完全にコントロールされた動き、言葉によって、私の心のかゆいところまで、いや、かゆいのかどうかもわからないけれど、あきらかにツボである部分まで、細やかな感情が伝わってきました。
 今作では普通の会話のようなしゃべり方をするところも結構あり、その量は『三人姉妹』より多かったです。

 夫の「かわいこちゃん」でしかなかった妻が、水車番との出会いによって自分自身を発見し自立していくのですが、夫が死んだ(殺した)後に女が「何を見ても新しいし、面白い。だからお前(水車番)と一緒に村を出ては行かない」という結論に至るのは、ちょっと意外でしたが納得でした。彼女自身の世界が現れた瞬間に、記号でしかなかった彼女の言葉に命が吹き込まれたんですね。

 舞台中央に大きな木の机(のような台)があります。天板の大きさが奥行き1m、横幅3mぐらい。その上に女が乗っており、下に夫が寝そべっています。水車番は舞台上手奥から登場します。『3人姉妹』でも姉妹らは何らかの台の上に乗っていました。
 机には色んな小道具がくっついていたり、刺さっていたりして、あきらかに男根をイメージさせるものがありました。夫が支配する世界に女が乗っかっているんですね。そしてラスト近くで机がバタン!と横に倒され、女が一人で住む家に変化するのは面白いです。

 女優の安部聡子さんに比べると男優さん2人ともがちょっぴり迫力不足だった感がありますが、単に安部さんが凄すぎるのでしょう。あの滑舌(かつぜつ)には参った。芸ってこういうことだよなって。しみじみ。感動。

"Knives in Hens" by David Harrower
出演:安部聡子/大庭裕介/小林洋平
作=デイヴィッド・ハロワー 翻訳=谷岡健彦 演出=三浦基
舞台美術=杉山至×突貫屋 照明=吉本有輝子 照明オペレーター 松本明奈 音響=田中拓人 衣装=すぎうらますみ  演出助手=井上こころ 舞台監督=桜井秀峰 宣伝美術=京 制作=田嶋結菜 総合プロデューサー=平田オリザ
公演ページ:http://www.seinendan.org/jpn/infolinks/infolinks041208.html

Posted by shinobu at 01:15 | TrackBack