2005年02月17日
ペンギンプルペイルパイルズ『機械~メッキ仕上げ~』02/17-03/06下北沢OFF OFFシアター
岸田國士戯曲賞を受賞している倉持裕さんが作・演出する劇団ペンギンプルペイルパイルズの新作です。【メッキ仕上げ】と【鏡面仕上げ】の2ヴァージョン公演。THE SHAMPOO HATの赤堀雅秋さんが出演されている【メッキ仕上げ】初日を拝見しました。
上演時間はわずか1時間ちょっと。4人だけの出演者が小さな、小さな空間で密度の高い会話劇を見せてくれます。少々難解かもしれませんが、東京の小劇場界でこれを観ないで何を観る?!と声高に問いかけたい気持ちです。これこそfringe(フリンジ:小劇場)なのだと思います。
演劇公演として、最高のエンターテインメントだったのではないでしょうか。気合う仲間と1時間ちょっとの異世界に浸り、夜8時過ぎからビールをお供にしっとりと芝居の話をしながらディナータイム・・・理想ですよ、理想!(誰と一緒に観るかが決め手?)でも、開演が19:00っていうのは早いかな。19:30だったら文句なし!
今日はこの公演の初日でした。役者さんのコミュニケーションもこれから質が上がっていくと思われます。
観に行くと決めてらっしゃる方は、これ以降、何も読まずに行かれることをお薦めいたします。
≪あらすじ≫
水が滴る音が響く、岩に囲まれた暗い穴ぐら。得体の知れない物体“機械”を前に、男と女が立ち尽くす。「これ、どうやって上に持っていくんだよ!?」。
八巻(玉置孝匡)と椿(ぼくもとさきこ)は2年かけて必死で組み立てた“機械”を評価してもらうために、コンテスト会場(?)のある地上へとその機械を運ぼうとしていたのだが、キャスターが機械の重さに耐え切れずに壊れてしまったのだ。成すすべも無く立ち往生していると、見知らぬ男、芹沢(赤堀雅秋)が現れた。2人が居たのはちょうど芹沢の家の真ん前で、芹沢はこれから妻と一緒に映画を見に行くと言う。しかし妻はなかなか出てこない。そうこうしている内にまた一人、男が現れて・・・。
≪ここまで≫
影絵でオープニング・・・その時点で私の心の盛り上がりは最高潮!2人の人間が協力して何かを運んでいる影絵でした。運んでいる物体(機械)に何か異変が起きて、イガイガに尖がったウニが出てきてましたよね。ありえないってホント。「駄目だ、そこを触ったら、ウニー!」って、何それ(爆笑)!
舞台の世界は富裕層が住まう地上と、貧民が暮す地下に別れており、貧民は地上に機械を持っていって評価をしてもらいます。入選(?)したら賞金がもらえて、地上で暮していけるお金が手に入る・・・らしい。
八巻らが2年かかって作り上げた“機械”は、パンは焼けるし音楽は鳴るし、偽札も製造するし携帯電話のような機能もある、ヘンな箱でした。
芹沢(赤堀雅秋)以外の登場人物は芹沢の知人の辰巳(松竹生)で、辰巳は機械について色々なことを知っていました。彼も5年前に機械を組み立てて、すでに評価をしてもらうために地上に持っていった一人だったのです。彼の整理番号は899番。もう5年待っています。
いつか誰かが褒めてくれてご褒美をくれるから、何なのかわからないものだけど必死で作ってみる。何年もの月日を、労力を、得体の知れない物体のために費やし、やっと完成した時にはそれを誰かに提出して手放してしまう。番号札を大事に持ちながら、いつか誰かが褒めてくれる日を、何年もずっと待ち続ける日々・・・。
自分よりも位が高い(と勝手に思い込んでいる)人や組織から認められたい、褒められたいと、漠然と思いながら、わけもわからず言われるがままに何かを作ったり手伝ったりしているというのは、現代を生きる私たちのことを表していると思います。また彼等が暮す世界に仲間入りすることが目的だというのも、「勝ち組」「負け組」というように世界を二極に分けてとらえがちな世界で、やみくもに「勝ち」の方へと死に物狂いで頑張る姿に重なります。
突然、機械が男の声を傍受します。それは椿がずっと探してた増尾という男の声でした。増尾は「機械を完成させて、提出した。入賞した、みとめられた!」と言います。899番の札を大事に持っていた辰巳は増尾が900番代だったと知って、自分の順番が飛ばされた=認められなかった事に気づきますが、それを受け入れられません。わなわなとしている間に大切な札を失くしたことに気づき、さらに慌てふためいて、札を探すために深い穴に飛び込み、そして、おそらく死んでしまいます。
増尾が穴に落ちる前に八巻はその札を見つけていたにも関わらず、彼が飛び込むままにしました。番号札欲しさに彼の命を捨てたのでしょう。なんとも醜い、恐ろしい瞬間でした。
機械から増尾の声が聞こえて来た時の椿のおびえ様から、彼女が機械を怖がっていたのは、増尾から逃げるためだったとわかります。2年間、八巻のことを手伝って一緒に暮らしている内に、椿は八巻のことを好きになってしまっていたんですね。その椿と八巻のラブシーンが素晴らしかったです。
八巻(玉置孝匡)「お前、俺のことが好きか」。椿(ぼくもとさきこ)「はい」。気の弱い八巻は椿の方に近寄り、そっと両腕を彼女の肩へと伸ばそうとしますが、椿の方も八巻に触れようとします。しかし八巻は椿の手を振りのけて、もう一度自分の方から椿に触ろうとする。だけどあまりにスローだから、やっぱり椿の方からサッと手を伸ばす。再び椿の手を払いのける八巻。そしてもう一度自分から椿に手を触れようとしたが、今度は椿がそれを叩き落とす!互いの手を払いのけ合い、取っ組み合いになり、やっと、2人で強く抱擁・・・。きっと、2年間ずっとプラトニックだったんです。初めての抱擁ですよ、おお、2年越しの恋の成就!!・・・と思ったら、今度はすっぽんのように、タコの吸盤のように、椿が八巻から離れない。ロマンティックな見せ場の後にはちゃーんとギャグを入れて、ほほえましく収めて下さいました。
芹沢(赤堀雅秋)のラストのセリフ「(機械に触れて)下で見つけて、下で作ったんなら・・・始めから下で使う物なんじゃないか?」に、愕然。
自分の世界で自分が材料をみつけて自分の手で作ったものを、見知らぬ誰かに自ら進んで引き渡して、その品定めをしてもらうのを何年も待つなんて、しかもそのまま返って来る保証も、代償が得られる約束もありません。つまり盗まれたも同然です。また、その機械が一体何なのかもわからずに、ただあった部品をすべて使うということだけに集中して完成させたので、自分が作りたくて作ったわけではないのです。
噂話や得ダネ、耳寄りな話に自分からどっぷり浸かって、実体のない“幸せ”を得るために、何年も必死で不必要なものを作り続ける。しかもそのために人殺しまで犯してしまう・・・不毛、不毛、不毛!なんてすごい戯曲なんだ。
下北沢OFF OFFシアターのあの狭い舞台がぎっしりと岩で囲まれて、岩から水がしたたり落ちている場所が2~3箇所ありましたよね。すっばらしいこだわり!最後にブラックライトで天井部分の岩が蛍光黄緑色に光って、地下世界の宝石が見えた気がしました。
赤堀雅秋さん。怪演でした・・・もう、赤堀さんしか見えないわっ!!っていうシーンが何度もありましたね(笑)。つめを噛み続けるとか、いろいろ細かいキャラクター作りに見とれました。
ところでチラシのイラスト、最高にかっこいいですよね。日本総合悲劇協会『ドライブイン カリフォルニア』のチラシ・パンフレットも描かれていた高野華生瑠さんの絵です。
※セリフは劇場で購入した脚本より引用いたしました。
出演:ぼくもとさきこ 玉置孝匡 (両公演共通)
【メッキ仕上げ】松竹生 赤堀雅秋(THE SHAMPOO HAT)
【鏡面仕上げ】山本大介 村岡希美(ナイロン100℃)
作・演出:倉持裕 舞台監督:橋本加奈子(SING KEN KEN) 丸岡祥宏 舞台美術:中根聡子 照明:清水利恭(日高照明) 音響:高塩顕 音楽:SAKEROCK 衣裳協力:田中美和子 宣伝美術:岡屋出海 宣伝イラスト:高野華生瑠 宣伝写真:引地信彦 制作:土井さや佳 企画製作:ペンギンプルペイルパイルズ
ペンギンプルペイルパイルズ:http://www.penguinppp.com/
オフオフ劇場:http://www.honda-geki.com/aaa/offoff1.html