2005年02月27日
こまつ座『円生と志ん生』02/05-27紀伊國屋ホール
井上ひさしさんの新作です。演出は鵜山仁さん。
前売り完売、追加公演も完売、通路いっぱいに出された補助席もぎっしり。大賑わいの紀伊国屋ホールのカーテンコ-ルでは、いつもの心のこもった大きな拍手に出演者も涙顔。こまつ座は何が何でも必見です。
次回公演は4演目となる『國語元年』06/03-12紀伊国屋ホール(2月からツアー開始)。昨年12月に香港公演が実現した辻萬長&西尾まり版『父と暮せば』が6/14、15に再演決定!
キャッチコピーは「空前絶後の二人のはなし家が、占領下の大連を流浪する、爆笑の地獄巡り」。
舞台は昭和20年(1945年)夏から22年春の大連。噺(はなし)家の円生(角野卓造)と志ん生(辻萬長)は、日本軍からお給料をきちんともらえるし、白いご飯も食べられるし、平和だし、と期待に胸を膨らませて大連に渡ったのだが、あっという間にソ連侵攻、敗戦となり、封鎖されて地獄と化した大連から出られなくなってしまった。
こまつ座は私にとって、もう「演劇」ではなくなっています。笑えて泣ける「学校」です。開演前にハンカチを用意するのが必須(笑)。最近は母親と一緒に観に行くことが多くなりました。いつの日か子供と一緒に観に行きたいと思っています。こまつ座の演劇は、そうやって子から孫へと受け継いでいくべき日本の財産だと思います。
ソ連侵攻→命からがら大連にたどり着く→引き上げ船で帰国、というのが私の頭の中での“引き上げ”だったので、封鎖されていた数年間を初めて知りました。「28万人もの日本人が閉じ込められていた」んですね(こまつ座HPより)。中国残留孤児がなぜ生まれたのかも少しわかりました。
円生と志ん生が助け、助けられる大連の日本人の女達を、4人の女優さんが何度も着替えて何役も演じます。“戦犯”となった円生と志ん生をソ連軍から逃がすシーンで、旅館の女将(久世星佳)が、ふぐぞうすいが入った土鍋ごと手渡すのには、爆笑しながら涙がぼろぼろ流れました。
青銅色の柱や欄間に電球が仕込まれて、歌と踊りのシーンでぴかぴか光るのはレビュー(revue)の電飾ですね。「つげ口、陰口、わる口。まっすぐに言葉を話せる世界に戻して欲しい」という歌が良かったです(歌詞は正確ではありません)。録音でもう一度この曲が流れてしまったのは私にはちょっと興ざめでしたが、歌と音楽(ピアノの生演奏を含む)には、満足を超えて感謝しています。ありがとう!!
ラストがぷっつりと突然に訪れるたのはちょっと物足りなかったです。説明セリフが多いと感じることもしばしばあり、戯曲の完成度としては少々低い目かもしれません。「遅筆堂」先生の新作ですし(笑)、それはそれとして、再演を待ちたいと思います。
【言及ブログ】
No hay banda(はなし家風レビュー。面白い!)
踊る芝居好きのダメ人間日記
藤田一樹の観劇レポート
Somethig So Right
みどりのアート観賞日記
「。はにかむ」
《東京公演後→鎌倉・山形県川西町》
作:井上ひさし 演出:鵜山仁
出演:辻萬長 角野卓造 久世星佳 神野三鈴 宮地雅子 ひらたよーこ
音楽:宇野誠一郎 美術:石井強司 照明:服部基 音響:秦大介 PA:大坪正仁 衣裳:黒須はな子 振付:西祐子 宣伝美術:和田誠 演出助手:城田美樹 舞台監督:増田裕幸 制作:井上都 高林真一 谷口泰寛
こまつ座:http://www.komatsuza.co.jp/
サイスタジオ主催・Happy Hunting Ground『Visions of Tokyo』02/10-27サイスタジオ小茂根B(2回目)
1度目は初日観劇で完成度が低かったようなので、千秋楽に再び拝見してきました。
初日と違ったのはスピード感。そして、笑いがめちゃくちゃ多くなっていたこと。この戯曲でここまでさわやかに笑えるのは意外でした。
シーンのひとつひとつの完成度が上がっていたのはもちろんで、役者さんの演技にも全く迷いがなく、やっぱり芝居は進化するんだなぁとしみじみ感心。私は同じ演目を2度以上観ることはほとんどありませんので、久しぶりのこの感慨でした。
初日は「作品の意味があんまりわかってないのかな・・・」という印象でしたが、千秋楽は「なるほど、こういう視点からの、こういう演出意図なんだな」と納得ができました。携わる人間が違えば、その人数分の解釈があって、手法があって、同じ戯曲でも全く違う作品になります。人間って素晴らしいなって思います。
ただ、今回のが私の好みだったかというとそうではないのですけどね。やっぱり軽すぎたかな~。そして、初日同様にラストのヤザキ(浅野雅博)の長セリフには疑問でした。
終盤、ヤザキは土嚢(どのう)の下敷きになっていたニカイドウ(石橋徹郎)の楽譜を見つけます。そこにはニカイドウがアタックしたホルン奏者の女の子からのお返事が書かれていた・・・ということになっていて、ヤザキはそれを読み上げます。でも途中からその楽譜を見ないで話し始めるのです。つまり、返事は書かれていなかった(もしくは途中までだった)という解釈ですね。ニカイドウの死後、ヤザキが彼のためか自分のためか、勝手に想像して作った内容だったという演出でした。そのヤザキのセリフの話し方がすごく晴れ晴れとした表情で、明るい物語を語るような優しい語り口だったんです。
腑に落ちなかったな~。内容が内容なのでね(ホルン奏者の女の子はオーケストラの中のリーダー的存在の男性と関係を持って妊娠していた。たしか不倫・・・?このホールでの演奏の後、自分はオーケストラをやめて子供とともに生きる云々)。
初演でヤザキを演じられた鶴牧万里さんはあくまでも「書かれたものを読んでいる」演技で、最後の方の少しだけ楽譜を見ないで話していたように思います。つまり、楽譜に手紙が書かれていたのかどうかは観客に委ねられました。そしてすがすがしいお顔ではなかったですね。熟考しているような、とても落ち着いていて静かな状態でした。
う~ん・・・今、これを書いていて感じたんですが、やっぱり時代が変わったから演出が(解釈が)変わったのかもしれないですね。
初演は2002年の1月ですからもう3年経っています。この数年は時の流れがめちゃくちゃ速くなって、時代の変化も然り。悲惨で残虐な事件が起こり過ぎました。「プルトニウム」という物体についての捉え方も変わって、以前よりももっと軽いものになった気がします。だって、何が起こってももうおかしくないって私も感じてますし、そうなるとほんの目の前の未来や、今この瞬間の自分のことしか大切に考えられなくなりますよね。だから「笑う」のかも・・・。それは恐ろしいことです。
クラモト(高橋克明)がニカイドウ(石橋徹郎)バイオリンを蹴り飛ばして、それが壁に当たって思いっきり割れたのにはびっくり!さすが千秋楽!?(笑)
夏井孝裕2作品連続公演『Visions of Tokyo』,『knob』
※『knob』は1999年に第四回劇作家協会新人戯曲賞を受賞。
【出演】Happy Hunting Ground(ハッピーハンティンググランド)
「knob -ノブ- 」:加納朋之・古川悦史・川辺邦弘・亀田佳明・斉藤裕一・征矢かおる・添田園子
「Visions of Tokyo -ヴィジョンズ・オブ・トーキョー-」:高橋克明・浅野雅博・石橋徹郎・細貝弘二
「動物園物語より」(ポケットシアター) : 古川悦史・助川嘉隆
作 夏井孝裕 エドワード・オールビー「動物園物語より」 演出:高橋正徳 美術:乗峯雅寛 照明:中山奈美 企画・制作:吉田 悦子・Happy Hunting Ground 主催:サイスタジオ 協力:文学座企画事業部 サイ(株)スタジオ事業部
公演サイト:http://www.saistudio.net/html/studio_performance_vol14.html