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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2005年03月23日

ジンガロ「ほんとに、夢のような時間で、とっても感動。」

20050315 hermes zingaro logo.jpg
エルメスの特別ロゴ(テント壁より)

 外資系企業に勤めるOLさんからご感想をいただきました。
 以下、全文ご紹介いたします。

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 ほんとに、夢のような時間で、とっても感動。衣装の色使いとか、音楽も素敵。あの床の土は、チベットのもの???あの赤土に白いガチョウと白馬なんて、それだけでりっぱな舞台装置。本当だったら、フランスでしか見られないんだから、とっても感謝です。

 私の隣は、家族連れのフランス人だったのですが、終演後に、フランス人パパがひとこと、「トレビヤン!」。まさに私もそう叫びたかった!馬ちゃんたちの顔が、やっぱり普通の馬とは違って見えるのは、私だけじゃないはず。ほんとに、不思議な時間が流れていましたねー。

 入場前に、入り口で三宅裕司さんを発見。(奥さんと息子さん連れてた)。観客の方々も、ちょっと小洒落た、おフランスのエスプリを感じさせるような方々が多かったのが印象にのこりました。エルメスのスカーフ巻いてる人も目立ったし。普段の観劇の雰囲気とは、またちがっていて、劇場の外の雰囲気も楽しめました。つかの間のセレブ気分、味わわせてくれてありがとー。
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 ジンガロ情報はこちらのページにまとめております。

Posted by shinobu at 22:52 | TrackBack

《東京のオペラの森 2005》 R.シュトラウス作曲オペラ『エレクトラ(Elektra)』03/16, 19, 22東京文化会館大ホール

 小澤征爾さん指揮のオペラはできる限り観たいと思っています。だってめちゃくちゃ素晴らしいんです!
 『エレクトラ』は『喪服の似合うエレクトラ』とほぼ同時上演されていた新国立劇場版を逃したため、ぜひ観たいとも思っていた演目です。アグネス・バルツァさん(ソプラノ)も目当てでした。

 上演時間はなんと2時間休憩なし。こんなのオペラで初めてでした。でもこの2時間がめちゃくちゃ長くて濃かった・・・。途中で2回ぐらい休憩して欲しかったぐらい。実は、何度も眠気が襲ってきて、ほとんどうつらうつらしながら観ていたんです・・・多分持ちこたえられなかったんだと思うんです、この濃さに。でも大満足しています。私のベストを尽くしましたし(笑)、さまざまな衝撃をもらいました。
 タブーで、アングラで、マニアックで、美しくて・・・何よりもわがまま、だったんじゃないでしょうか。それってつまりカッコイイってことなのです。こんなに大胆でキチガイじみたことが昔から大っぴらに表舞台に出ており、今でも公式に認められていると思うと、人間って本当に馬鹿で、自由で、サイコーっ!(笑)。

 実の母クリテムネストラ(アグネス・バルツァ)が、愛人エギスト(クリス・メリット)と組んで父のアガメムノン王を殺したため、長女エレクトラ(デボラ・ポラスキ)が全身全霊をかけて2人に復讐をするというストーリーです。
 オペラはセリフが全て歌になっているのですが、そのセリフが・・・うーん何と表現していいのやら・・・マンガ『東京大学物語』で主人公の直樹くんが勝手な妄想をするじゃないですかぁ、一人で何役も演じながら1秒間に1年分ぐらいの勝手なストーリーを頭の中で作り上げるやつ。あれに似てます(笑)。超独りよがりなんですよ、そして内容が過激。「私は身体の内にハゲワシを飼っている!」「自分がこの世に這い出た暗黒の扉の持ち主がおまえかと思うと、恐ろしくて身震いする」等(両方エレクトラのセリフです)。こんなセリフの連発、連呼。登場人物がみなこんな状態でしゃべり(歌い)続けるんですから、頭がおかしくなりそう。でも赤裸々で詩的で面白いんですよね、これがまた。

 音楽は、基本的に過剰にドラマティックで、突然変調し、ロマンティックになり、好戦的になり、聴いている方も息つく暇がありません。歌の難易度もめちゃくちゃ高いみたい。リヒャルト・シュトラウス作曲のオペラは『ばらの騎士』を拝見して素直に好きだったのですが、この『エレクトラ』はかなりワーグナーに似ているような気がしました。途中で「あれ?これってワーグナーだっけ?」と勘違いしかけました。私、ワーグナーは苦手なのです。『ラインの黄金』『トリスタンとイゾルテ』を観て、ストーリーにもメロディーにもどうも身体がついていけずでした。
 でもこの作品で、おかしな言い方ですが、ワーグナーの凄さが少しわかった気がしました。シュトラウスは生涯に渡り、最も敬愛する作曲家としてモーツァルトとワーグナーの名を挙げていたそうで、当然ワーグナーに似ているところがあるのです(シュトラウスは、ワーグナーの大ファンだったヒットラーが政権を握っていたナチス・ドイツの時代に、帝国音楽文化省の副総裁を務めていました)。

 オーケストラについては私はよくわからないのですが、生々しくて力強くて、私に近いところまで熱く迫って来てくれたのは確かでした。オケが一丸となって、一匹の肉食動物みたいに動いていたような・・・自分の心が鼓舞されているのがわかりました。自分自身を焼き尽くさんばかりに燃える復讐心や、執着心、命がけで求めていたものを得た至上の達成感が、音楽にどんどん盛り上げられて、聴いている方が興奮してくるんです。ラストは素早く鮮やかな暗転で劇的な終幕だったのですが、身体がぶるぶる震えました。う~ん、すごいなーシュトラウス!これまでに聴いたのと全然違う気がするのは小澤さん指揮だから?

 演出はロバート・カーセン(Robert Carsen)さん。この方、かなり凄い方のようです。「私にとって『エレクトラ』は社会的もしくは政治的な作品ではなく、基本的にはヒステリーの研究である。」とおっしゃっています(パンフレットより)。まさにそう!ヒステリー!!作品全体がエレクトラの妄想であったと言っても過言ではありません。出来事の一つ一つが過剰に悲劇的なこのお話の主人公・エレクトラの、「心」に的を絞った演出だったから、今の時代を生きる私達にもぴったり(ぐっさり)フィットしたのだと思います。

 ビジュアル的にも洗練されてた美しさがありました。舞台装置は一見非常にシンプルで全体的に暗い印象でした。まずステージがこげ茶色の土でした。床全面にびっちりと土が敷き詰められており、平たい地面になっているのです。客席への間口以外の三方は灰色一色の冷たい壁でぐるりと覆うように囲まれており、舞台全体がまるで地下牢のよう。その地面に真っ黒のシンプルなスリップドレスを着た女達が数十名、ベチャッと寝転んで倒れている状態から幕開けです・・・めちゃ怖い。舞台面中央にちょうど棺の大きさぐらいの長方形の穴が開いて、そこから死体が出てきたりします。めちゃ怖いって。

 エレクトラの周りにずっと数十人の女が居るのですが、ギリシャ悲劇で言うところのコロスの役割を果たしていましたし、エレクトラの後ろにズラリと並んで全員でエレクトラと同じ動きをして、世界中に居るエレクトラ、つまり私たち自身であるエレクトラを表現するなど、ものすごく演劇的でした。
 シンプルな装置に照明が効果的でした。例えば、ステージ上の人物に舞台の両袖から照明が当てられ、灰色の壁に長い影が何重にも映し出されます。うごめく巨大な影が恐ろしかったです。
  
 他にも強烈な印象を残したシーンがいっぱいあって・・・エレクトラが既に死んでいる父を思い出して「お父様!」と呼ぶと、墓穴からヌルっと出てきちゃったのが、白塗りの真っ裸の男性。死体役なんですけどマジで全裸でした。いいんかい!?って何度も心の中で叫びました。
 悪役の母(アグネス・バルツァ)がベッドに乗って出てきたのが凄い。しかもコロスの女性達が歌いあげるバルツァさんごと、ベッドを持ち上げて運ぶんです!その後で全裸男性死体もエレクトラ役のデボラ・ポラスキさんのことも持ち上げて運んでました。オペラ歌手って体力勝負やね。
 あの、なんだかふざけた感じで書いちゃってますが、とにかく衝撃的で・・・。めちゃくちゃ派手なこと、もしかすると笑いが出ちゃうかもしれないキワもの系の演出をやりまくって、それがちゃんと作品世界として成立していました。オペラって凄いです。懐が深い!!

 タイトルロールのエレクトラを演じられたデボラ・ポラスキ(Deborah Polaski)さん。『戦後最高のエレクトラ』と呼ばれているそうですが、ほんっとに凄すぎ!!とりあえず出ずっぱり!歌いっぱなし!狂いっぱなし!も~、間に2、3日間のお休みが有るとはいえ、こんなのよく3回も出来ますよ!!カーテンコールもすごかった。あんなにブラボーが連呼されたのを聞いたのは初めて。お客さんの声で会場が埋まるかと思うほどでした。私はブラボー!って言えないので(恥ずかしいし技術もない)、とにかく必死で拍手しました。オペラってカーテンコールが長いので、私はそそくさと早めに失礼することが多いのですが、今回についてはほぼ最後まで居ました。
 
 お目当てだった母親役のアグネス・バルツァ(Agnes Baltsa)さん。登場した瞬間、「クリテムネストラそのものだ!!」と観客に言わしめる、鋭い笑顔をしていらっしゃいました。純白のドレスが心の卑しさを逆に引き立てます。声も凄い。演技も凄い。

 がんばって早めにチケットを取ったのですが、なぜか客席には空席が目立ちました。あんなに空いてる東京文化会館は初めてだったなー。小澤さんなのに、なんでなんでしょ??もっと評判になっても良い作品だと思いましたが。

 ドイツ在住の友人が観た『Elektra』の感想です→CHIAKI's Diary 2004.11.26(エンコードを日本語にして読んで下さいね)。演出によってこうも感想が変わるのか!と驚きます(笑)。

指揮:小澤征爾 管弦楽:東京のオペラの森管弦楽団 合唱:東京のオペラの森合唱団
演出:ロバート・カーセン 装置デザイン:マイケル・レヴィーン 衣装デザイン:ヴァズル・マトゥース 照明デザイン:ロバート・カーセン/ペーター・ヴァン・プラット 振付:フィリップ・ジュラウドゥ 
【出演】エレクトラ:デボラ・ポラスキ クリテムネストラ:アグネス・バルツァ クリソテミス:クリスティーン・ゴーキー オレスト:フランツ・グルントヘーバー エギスト:クリス・メリット 第1のメイド:エレン・ラビナー 第2のメイド:ゼン・チャオ 第3のメイド:ジェーン・ダットン 第4のメイド:ロザリンド・サザーランド 第5のメイド:ジェニファー・チェック 監視の女:田中三佐代 袖持ちの女:馬原裕子 側仕えの女:佐藤早穂子 後見人:山下浩司 老いた従者:成田眞 若い従者:岡本泰寛 
主催:東京のオペラの森実行委員会・東京都・NHK
公式サイト:http://www.tbk-ts.com/special/25_03_22_tokyo_operanomori/tokyo_operanomori.html

Posted by shinobu at 02:04 | TrackBack