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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年03月27日

新国立劇場演劇『花咲く港』03/14-30新国立劇場小劇場

 菊田一夫さん作の昭和18年(1943年)初演の戯曲で、映画化もされています。渡辺徹さんと高橋和也さんがペテン師コンビを演じられるのを楽しみに伺いました。

 九州の南方に浮かぶ島に、二人のペテン師が訪れる。今はもう亡くなっている島の名士の息子だと偽って一儲けしようと企んでいたが、島民の一途な心にほだされてしまい・・・(あらすじはこちら)。

 私が観たのが平日マチネだったも大きな要因だと思いますが、新橋演舞場の座長芝居を観ているような雰囲気でした。とりあえず客席で私語はたくさんですし、飴の包み紙を開ける音も連発。お芝居が終わるかどうかのところで「もう終わる?もう終わりだよね?」とかしゃべるのは勘弁してもらいたいですねぇ(苦笑)。

 お芝居の内容も商業演劇っぽかったです。シリーズ「笑い」の第1作目ということで、わかりやすくて優しい笑いがいっぱいありました。私は役者さんの細かい演技の工夫に、ついついワハハと笑わせていただきました。特に渡辺徹さんは愛嬌たっぷりで、いちいちリアクションが上手いんですよね。恥ずかしながら渡辺さんを舞台で観たのはこれが初めてで、コメディーにぴったりの俳優さんなんだなぁと関心しました。

 全体的にお話の進み方がスローペースで、ちょっとうとうとしかけたりしました。田舎の人たちだからというのもあるのでしょうが、会話が何度も繰り返してくどいなぁと思うことが多々あり。
 オープニングにはしびれましたね~。舞台は木造船の残骸がぽつりぽつりと置き去りされている砂浜。若者が下手からカツカツと歩いて登場し、ププーッとラッパを吹き鳴らしたかと思うと、街の賑わいや潮の寄せるの音、かもめの鳴き声などが賑やかに鳴り始め、上手からは旅館がずずいと出てきて、花道や舞台奥、下手、上手の沢山の出はけ口からいっせいに島の人々がわいわいがやがやと登場するのです。少々もの悲しいぐらいのひっそりとした浜辺が、突然にぎやかな町に変化したのには胸躍りました。

 寺田路恵さん。かもめ館の女主人おかの役。演技がとても安定していて、さすがの貫禄でした。台風で船が飛ばされそうになった時の「あの船は先生のもの。ゆきさんのもの。私のじゃない。だけど私はそれでもいい。先生が喜んでくださるなら」と嘆きながら、船を守ろうとする演技に涙しました。恋って素敵です。
 高橋長英さん。めくらの漁師役ということで、ほぼふんどし一丁状態で舞台上にいらっしゃいました。本当に漁師に見えましたね。結果的に第1幕しか出ていらっしゃらなかったのですが、第2幕もずっとその存在を感じることができました。

作 : 菊田一夫 演出 :鵜山仁
出演:渡辺徹 高橋和也 寺田路恵 高橋長英 織本順吉 富司純子 石田圭祐 大滝寛 津田真澄 吉村直 木南晴夏 田村錦人 小長谷勝彦 沢田冬樹 森池夏弓 矢嶋美紀 植田真介 木津誠之
美術:島次郎 照明:室伏正大 音響:高橋巖 衣裳:緒方規矩子 演出助手:上村聡史 舞台監督:北条孝
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s256/s256.html

Posted by shinobu at 18:52 | TrackBack

自転車キンクリートSTORE『海辺のお話』03/15-27俳優座劇場

 鈴木裕美さんが演出される翻訳ものを観るのは『第17捕虜収容所』『おーい、救けてくれ!』『人形の家』『ダム・ウェイター』『マダム・メルヴィル』に続いて6作目になりました。明らかに演出が面白くなってこられています。来月、ジャニーズ事務所の男の子が出演する『エデンの東』も鈴木裕美さん演出ですね。今後も翻訳ものの演出が続くようです。

 一組の老夫婦(木内みどりと花王おさむ)が白浜の気持ちの良い海辺で、休日のゆったりとしたランチタイムを過ごしている。夫がリタイアしたため、妻はこれからの2人の生活についてどんどんと新しい提案をするのだが、夫は「自分は休息を取りたい」の一点張り。長年連れ添った夫婦の今まで語られなかった過去が2人っきりの浜辺での会話から次々とあふれ出す。すると、予想だにせぬ物体が登場し・・・。

 残念ながら戯曲の面白みを伝えきった演出にはならなかったようです。まず第一幕は老夫婦の会話が約1時間ほど続くのですが、セリフも膨大で、非常に木目細やかな感情表現が必要な二人芝居でした。しかしながら老夫婦役のお二人とも、全てのセリフや間においてきちんと心を尽くして演じきったとは言えない仕上がりでした。さらりと流れてしまうシーンが多かったです。相当難しい戯曲だとは思います。
 そして、1幕の終わりに登場したモノが・・・リアルすぎて私は引いちゃいました。

 ここからネタバレします。

 なんと海から現れたのは全身緑色の巨大トカゲのカップル(小松和重と歌川椎子)。第2幕から人間夫婦とトカゲ夫婦の“未知との遭遇”問答が繰り広げられます。

 戯曲に書かれていたのは動物、人類の進化の話だったと思うんです。果たすべき責任を全て果たした老夫婦のこれからの人生について、ポジティブにやりたいことを実現していこうとする妻と、やっかい事はゴメンだと言う夫の二項対立は、海に住み続けるのは平和だけれど、なぜか地上に惹かれて海から陸に上がってみた巨大トカゲが、いきなり「人間」というやっかいな敵と出くわし、また海に戻ろうとしてしまう展開と重なります。

 最後に、トカゲの地上進出を手助けしようと申し出た人間夫婦の言葉に乗って、トカゲ男(小松和重)が「じゃぁ、頼む!」と言って舞台中央に座り込んでしまうのが滑稽です。誰かに何かしてもらうのを待っているだけで、自分から未来を切り開いていく努力をしない動物には進化などありえないのです。にやりとするような笑いを含みながら、ちょっと辛らつに動物と人間の差を表現している脚本は面白いと思いましたが、演技や演出でそこがきちんと表されているようには見えなかったですね。

訳: 鳴海四郎 作: エドワード・オールビー 演出: 鈴木裕美
出演: 木内みどり 小松和重 歌川椎子 花王おさむ
美術:川口夏江 照明:中川隆一 音響:井上正弘 コスチューム:高橋岳蔵 ヘアメイク:河村陽子 舞台監督:村田明 安田美和子 演出部:飯塚加邦 演出助手:田村元 宣伝美術:鳥井和昌 宣伝写真:加藤孝 宣伝小道具制作:藤井純子 制作:須藤千代子 村田明美 大槻志保 企画・制作:自転車キンクリーツカンパニー
自転車キンクリーツカンパニー:http://www.jitekin.com/

Posted by shinobu at 13:36 | TrackBack

フォルクスビューネ『終着駅アメリカ Endstation Amerika』03/25-28世田谷パブリックシアター

 東京国際芸術祭2005参加。ドイツのベルリンの劇場、フォルクスビューネが初来日。『終着駅アメリカ』は、テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』を大胆に脚色・演出した2000年初演の作品です。2時間40分休憩なし。

 公式ホームページにある「猥雑でグロテスク、でもコミカル! 鬼才カストルフが放つ過激で刺激的な舞台です」というキャッチコピーそのものでした。凄かった。単館ロードショーされるコアなアート系の外国映画みたい。ミニシアター系っていうのかしら。

 舞台はアメリカの安いモーテルのような小さなアパート。ブランチ、ステラ、スタンリー、ミッチという『欲望という名の電車』の登場人物がちゃんと登場し、ほとんどストーリーのままにお話自体は進むのですが、原作、もしくはアメリカ(資本主義社会?)を完全にちゃかしまくる演出ががいっぱいあって、「ええ、こんなにやっちゃっていいの!?」と、勝手にハラハラしたりしました。

 ものすごく刺激的な内容だったはずなのですが、実は眠気が何度も襲ってきて・・・やっぱり字幕がつらかったかな。細かいところまできちんと訳してくださっていたと思うのですが、文字が出るのがゆっくりすぎたり、早すぎてネタバレしたり、あまりうまくいっていないように思いました。私が観た回はほぼ満席で、久しぶりに世田谷パブリックシアターの2階席から観たためか、舞台が遠かったんですよね。それも眠気の原因かもしれません。

 ここからネタバレします。

 BGMにアメリカン・ポップスが多数使われており、曲はわからなかったけどJim Morrisonの声が聞こえた気がします。Nicoの歌も流れました。Jim MorrisonもNicoもドラッグで身を持ち崩したスターです。舞台上のTVモニターでNicoの自叙伝番組が上映されている時間に、ステラとブランチ達が「アラン・ドロンは女道楽をしすぎて皆に捨てられた」という話をしてたのは笑えたな~(笑)。

 ポーカーをやるシーンで、男達がトランプのカードをどんどん客席に投げちゃったり。飲み物をこぼしてスカートが汚れたら、スカート自体に洗剤を蒔きまくるし。お皿割りまくり、女も犯しまくり。
 バスルームにカメラが仕込まれていて、閉ざされたはずの部屋の演技は全て舞台中央のTVモニターから中継されます。「お客様が見えづらいからテレビの前からどいて!」と女優がバスルームから叫んで、芝居自体を飛び越える演出も多々あり。

 ブランチの過去があばかれた後、怒りに震えたミッチがブランチを攻め立てるシーンで、客席側から床がぐんぐんと持ち上がり、家が斜め後ろに傾いていったのには驚きました。装置全体が後ろに倒れていくのです。床が上がってステージの底が見えてくるに従って、舞台においてあった家具類が倒れ、すべって後ろの壁に当たる音がガンガン聞こえます。割れてちらばっていた皿の破片が再びガシャン!バリン!すごい迫力です。
 家が傾いていく中、大音量でドン・マクレーンの名曲"American Pie"が流れ、ミッチがその歌をわめきちらし、傷ついていたはずのブランチも一緒になって歌って踊るシーンは、その強烈な倒錯状態に頭がクラクラしました。あれはかなり気持ちよかったな~(笑)。

 最後、ステラの子供が生まれなかったという結末になっていたのが驚きでした。原作でブランチが着ているはずの水色の服をステラが着ていて、ブランチと同じセリフを発声するのが面白いです。資本主義社会になって女性の地位は向上し、自由も得たかもしれないけれど、彼女らの威厳は損なわれてしまったことを表しているように思いました。

 もし私がベルリンに住んでいる人間だったら、フォルクスビューネは「欠かさず通うようにしよう!リスト」に入っていると思います。「必ず通う」に入らないのは、内容が激しすぎて心に厳しい部分があるからです。また来日してくれたら観に行くかどうか・・・好きな戯曲だったらきっと行くと思います。今回も『欲望という名の電車』だったから惹きつけられました。

 ドラマトゥルクのカール・ヘーゲマンさんがゲストで出演されるアフタートークがあったのですが、疲れきってしまったので帰りました。もったいなかったな。ドラマトゥルグって一体どんな仕事なんだろう?ちょうどレクチャーがあったようです(→アートネットワーク・ジャパン講座シリーズVol.3 ~『ドラマトゥルク』の可能性を巡って~)。先日のオペラ『エレクトラ』のパンフレットにもドラマトゥルグの方の長い文章が掲載されていて、それがすごく面白かったんですよね。

 言及ブログ
 Somethig So Right

原作:テネシー・ウィリアムズ (『欲望という名の電車』) 脚色・演出:フランク・カストルフ(芸術総監督) 美術:ベルト・ノイマン(舞台美術チーフ) ドラマトゥルク:カール・ヘーゲマン 照明:ローター・バウムガルテ
出演: カトリン・アンゲラー/ヘンリー・ヒュープヒェン/シルビア・リーガー/ベルンハルト・シュッツ/ブリジット・クブリエ/ファビアン・ヒンリックス
A席(1・2階席)4,000円/B席(3階席)3,500円 学生2,500円
東京国際芸術祭2005内:http://tif.anj.or.jp/program/volk.php
世田谷パブリックシアター内:http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/04-2-4-65.html

Posted by shinobu at 02:30 | TrackBack