2005年04月16日
劇団、本谷有希子『乱暴と待機』04/08-17新宿シアターモリエール
劇団、本谷有希子はその名のとおり本谷有希子さんが作・演出する劇団ですが、専属の役者さんがいないプロデュースユニットです。今回は馬渕英里何さん主演の4人芝居。私にとっては、前作よりもずっとずっと面白かったです。いやらしさがツボ。
前売りは完売ですが、当日券は毎回若干枚数を発行予定(開演1時間前より受付)。
舞台は古びていて決して清潔とは言えそうにない居間兼ベッドルーム。二階建てベッドが置いてあり、銀縁メガネで灰色スウェット上下の冴えない女(馬渕英里何)と、その女が「お兄ちゃん」と呼ぶ、これまたメガネをかけていて地味~な男(市川訓睦)が同居している。
お兄ちゃんはスウェット女のせいで人生を狂わせられたと思っており、彼女に対してどんな復讐をしようか毎日考えている。スウェット女は奴隷のようにお兄ちゃんに尽くしつつ、彼が自分に復讐してくれるのをずっと待っている。そうして2人暮らしを続けてもう12年(12年じゃないかも。5~6年?)。
お兄ちゃんは刑務所で働いている。ある日、一緒に死刑執行のボタンを押す仕事をしている同僚(多門優)に、スウェット女と同居していることがバレた。同僚は奇妙な同棲カップルの生活を面白がり、自分の彼女(吉本菜穂子)をお兄ちゃんの家に行かせて、二人にちょっかいを出し始める。
ここからネタバレします。
お兄ちゃんとスウェット女は小さい頃に家族ぐるみで付き合いをしていた幼なじみで、二人が同乗していた交通事故でお兄ちゃんの両親が死に、スウェット女は助かったが、お兄ちゃんは片足が不自由になったことが明かされます。それだと普通の復讐物語なのですが、実はスウェット女の本性は・・・。
物語の前提やストーリーにはところどころ腑に落ちないことがあったし、ラストも私には特に響くものがあるわけではなかったのですが、さらりとしながら非常に狡猾でいやらしい精神的SMの世界に、どっぷりはまり込んでめちゃくちゃ楽しませていただきました。あの少し冷めた視線からのどん底のいやらしさは、女性ならではのものじゃないかなぁ。いや、本谷さんならでは、なのかもしれませんね。
スウェット女は「人に嫌われたくない」だから「頼まれたら断れない」という性格ゆえ、男に「ヤらせて」と言われたら断らずにヤらせる女です。サイテーですね。だから高校時代はいじめられっ子でした。クラスメートだった同僚の彼女(吉本菜穂子)は、スウェット女のことを「イライラする女」だと言いますが、ほんっとにイライラします。言動にいちいちムカムカします。そのスウェット女がドつぼにはまっていくのが痛快で、私自身の怒りや残酷さにちょっと罪悪感を感じつつ、やはり超カワイイ馬渕さんがいじめられる様子を気持ちよく眺めていました(笑)。すっかり本谷さんの術中にはまったということでしょう。
序盤の馬渕英里何さんの失禁シーンがめちゃくちゃ私好みでした。会話をさえぎってはいけない、話しかけられたら答えなきゃいけないと思うばかりに、おしゃべりの途中で「トイレに行ってきます」の一言が言えず、そのまま我慢の限界が来て、スウェット女は居間でおしっこをもらしてしまいます。・・・私には「萌えー!」ってヤツでしたよ、マジで!(告白ですね、コレ)。あと、同僚の彼女が高校時代のクラスメートだったことがわかり、彼女に嫌われたくない一心で、同僚に脅されながらセックスをする、しかも天井裏からお兄ちゃんがその情事を覗きやすい場所をわざと選ぶという状況もタマりません(笑)。
お兄ちゃんを笑わせようと、スウェット女は笑いについて研究をしているのですが、ベタとかシュールとかを馬渕さんが例証していくのが笑えます。確実な笑いでした。
馬渕英里何さんの灰色スウェットの上下がめちゃくちゃいやらしいです。これをいやらしいと思ってしまっている時点で私の好み(嗜好)ってヘン?男性っぽいでしょうか?
美術はペンギンプルペイルパイルズの美術でいつも素敵だなーと思っている中根聡子さん。斜めの線がかっこいいです。シアターモリエールの舞台がとても深く、広く見えました。
役者さんは皆さんとても魅力的でした。
特に馬渕英里何さんは、劇団☆新感線や商業演劇での存在感とは違った意味で、演技に体当たりする姿にほれぼれしました。
同僚役の多門優さんの、スケベで、ねっとりとずる賢くて、でもひょうひょうとした若者像に惹かれました。馬渕さんとのラブ・シーンがセクシーでした。
本谷有希子さんの馬渕英里何さんってお二人とも25歳で同級生なんですって。なんか凄い。新しい世代の作品ですね。
【言及ブログについてまとめられています】
こんなものを買った。
デジログからあなろぐ
作・演出:本谷有希子
出演:馬渕英里何 市川訓睦(拙者ムニエル) 多門優(THE SHAMPOO HAT) 吉本菜穂子
舞台監督:宇野圭一+至福団 舞台美術:中根聡子 照明:中山 仁(ライトスタッフ) 音響:秋山多恵子 演出助手:福本朝子 小道具:清水克晋(SEEMS)+山本愛 衣装:金子千尋 宣伝美術:風間のう 宣伝写真:引地信彦 WEB担当:関谷耕一 制作助手:嶋口春香 制作協力:(有)ヴィレッヂ 制作:寺本真美 中島光司
前売:3,500円 当日:3,700円(全席指定)
劇団、本谷有希子内:http://www.motoyayukiko.com/ranbou/index.html
青年座『妻と社長と九ちゃん』04/08-17紀伊國屋ホール
ラッパ屋の鈴木聡さんが青年座に初の書き下ろし。それを宮田慶子さんが演出するという嬉しい公演です。
いかにも新劇だなぁという演技、演出もありますが、笑えて泣けて(私は泣きすぎかもしれないけど)、超感動!
《あらすじ》
舞台は、東京は日暮里にある老舗企業・昭和文具の社長、春日浩太郎(久保幸一)の自宅。肝臓病に倒れた浩太郎の後継に、息子の昭一(横堀悦夫)が選ばれてからというもの、浩太郎はめっぽう機嫌が悪い。
ガンコでワンマンな昭和の社長、浩太郎の大のお気に入りは、心意気はあるが要領が悪く、デキの悪い団塊の世代を代表するようなオチこぼれサラリーマンの九ちゃん(岩崎ひろし)。友人や他の社員の言うことはいっさい聞かず、用もないのに九ちゃんを自宅に呼び寄せたりしているので、息子の昭一を含む会社の役員達もしぶしぶながら九ちゃんには一目置いている。
浩太郎は妻が死んだ後1年も経たずにホステスの佐和子(増子倭文江)と結婚した。昭一も長女(那須佐代子)も佐和子のことは認めておらず、浩太郎、佐和子、昭一の3人が同居する家では父と息子の言い争いが絶えない。
《ここまで》
ものすごいスピードで劇的に変化し続けている平成と、既に過ぎ去った古きよき、懐かしき昭和が対比されます。
社長(久保幸一)が経営する昭和文具は、本社グランドで「春の花見、夏の盆踊り、秋の運動会、冬の餅つき」をご近所の皆様に提供してきた会社です。会社というものが今とは違って、ただの経済システムの一つではなく、もっと人々の生活に密着した組織だったんですね。そういえば社員旅行とか、最近は少なくなってるそうです。
小学校の校庭での盆踊り、町内会の空き地で餅つきなど、私が子供の頃は近所の大人たちにとても大事にしてもらっていました。今、私が住んでいる町もありがたいことに町内会活動がとても盛んで、昔みたいに色んな催し物があるのですが、新しくできた町や、繁華街・ビジネス街になって過疎になった場所では、昔ながらのつながりは必然的に少なくなってきているでしょうね。
私は文字にすることができる経歴や身分、実績よりも、顔や声、意志の強さなどを感じて人付き合いをするタイプで、人情にほだされやすいし涙もろい人間です(なんか恥ずかしい・・・)。社長や妻の佐知子、九ちゃんに同調する方なんですよね。それでこんなに涙がボロボロ流れたのかしら。いえ、それだけじゃない気がします。私も昭和生まれの昭和育ちです。昭和の良かったところをそのまま「あれは良かったよね」と言ってもらえて、私は嬉しくなったのだと思います。
作者の鈴木聡さんと演出の宮田慶子さんの緊急対談に、このお芝居が伝えんとしている意味が簡潔に書かれています。下記、対談から抜粋します。
鈴木「今、情報が多くてチョイスすることが面倒臭い。要するに良いものを残し、これは残さなくていいと、いちいち検証するのがみんな大変な気がしてると思うんですよ。」
宮田「もう、手におえないですよね。」
鈴木「だけど、結構そこに重要なものがある気がします。昭和といっても嫌なことはいっぱいあります。だけども良いこともある。良いものは残し、良くないことは変えていくことが大事な気がしますね。
宮田「そうですよね。凶悪犯罪が増えたり、地震が起きたりと、日本人が自信を無くすことがいっぱいある。そういうこの芝居を通して「日本人はいいじゃん」とちょっと思える。」
鈴木「今回の芝居の中心になっているのは、会社や家族。妻と社長と九ちゃん3人の共同体があり、これを登場人物皆が持っているということで、すごく勇気づけられ明るく暮らしていける。僕はその楽しい共同体を作るのが実は日本人のすごく得意とする事だと思います。強みだと思うんです。」
九ちゃんが社長のお葬式で必死に話すセリフが胸に残りました。
「会社は人間の集まりだ」「色んなヤツがいるから会社なんだ。」
「いいものは残してもいいじゃないか。何もかも壊して新しくすることないじゃないか。」
九ちゃんの「九」は憲法第九条の「九」だということが社長の葬式のシーンではっきりとわかります。憲法第九条についてもそうですよね。「戦争を永久に放棄する」のは明白に良いことです。時代・事情がどう変化しようが、良いものは残せばいい。ここで面倒くさがって、流行にのって、怠けてはいけないと思います。
美術(横田あつみ)は味のある昭和の時代の格式高い一軒家で、舞台転換をする度に小道具で季節の風情を出していたのが素晴らしかったです。玄関の靴箱の上に置いた生け花が毎回変わりましたし、居間のお座布団が冬用から夏用になったり、柱に風鈴がついたり、細かいところまで行き届いた演出でした。
イヤ~な中年男をやらせれば新劇界一(?)の横堀悦夫さんは、嫌みで意地悪な新・社長役をやはり好演されていました。でも、ちょっとクールすぎた気もします。もうちょっと壊れても、可愛げが出てよかったのではないかと思います。
出演=岩崎ひろし/久保幸一/増子倭文江/横堀悦夫/那須佐代子/田中耕二/加門良/松熊明子/長克巳/山口晃/青羽剛/若林久弥/田島俊弥/川上英四郎/高義治/もたい陽子/緒方淑子/布施幾子
作=鈴木聡 演出=宮田慶子 装置=横田あつみ 照明=中川隆一 音響=高橋巖 衣裳=半田悦子 舞台監督=尾花真 製作=森正敏 佐々木聡一
一般:5,000円
青年座内:http://www.seinenza.com/performance/178/
らくだ工務店『鯨』04/13-17下北沢「劇」小劇場
らくだ工務店は石曽根有也さんが作・演出・出演する劇団で、2004年3月の第13回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバルに出場しています。役者さんがペテカン、bird's-eye view、G-upプロデュースなどに客演されたり、他劇団の客演役者さんを多数呼んだり、活動の幅を広げています。
舞台は新聞配達をしている青木(一法師豊)の部屋。昭和の匂いがプンプンする古びたアパート。先輩の沼田(桜田真悟)がやってきた1年前のあの日と、旅に出た沼田が突然無言で帰ってきた、今日のお話。
いわゆる“静かな演劇”というジャンルに入る作品です。今回は客演の役者さんが4人いて、いつものらくだ工務店らしい作風に新しい見所が付加されていました。また、そのおかげでらくだ工務店らしさというのも引き立っていたと思います。
ところどころ腑に落ちない展開もありましたが、ある劇団がその作風を確立し、さらに改良していくのが観て取れるのは嬉しいことです。
ここからネタバレします。
沼田が死体になって青木の部屋に運ばれてきた現在のシーンから幕開けです。そして沼田が生きて青木の部屋に居た一年前の春のシーンになり、過去と現在が交互に上演されます。クラシックピアノ(だったかな?)の音楽が徐々に大音量になるのと同時に照明がじんわりと変化して、暗転はせずにシーンが転換します。音量が大きすぎたのか、音が割れて聞こえたのはちょっと苦しかったですが、何度も暗転するよりは良かったかな。
「人が死んでいる」という状態だけでちょっと私は引いてしまいます。また、セリフとセリフの間に妙な間が空いたり、リアルな中に作り物(嘘)だとわかるやりとりがチラリと見えてしまうと、それだけで物語には入っていけなくなります。“静かな演劇”って難しいですよね。でも徐々にですが、自然体の登場人物に惹かれていき、素直に受け入れられるようになりました。
中盤の、沼田の今の彼女(滝沢恵)と昔の彼女(瓜田尚美)が沼田の死体を前に出くわしてしまうあたりから、ぐっと面白くなりました。そこに本気の女がいるってことがわかりました。
クライマックスおよびエンディングでは、周りに散々迷惑をかけておきながら何の償いもなしにぽっくり死んでしまった困ったチャンの沼田のことを、青木はすごく好きだったんだということを表していたと思うのですが、それほどビビっとは伝わってきませんでした。セリフがとても少なかったし、ニュアンス重視に偏り過ぎだったのではないかと思いました。
らくだ工務店ならではの息の合ったコント風の笑いもあり、気持ちよくワハハと笑わせていただきました。特に面白かったのは、サラリーマンの井本(粕谷吉洋)が死人をよみがえらせる呪文をとなえるところ、そして沼田の彼女だった女2人の本気のぶつかり合いの直後に、マヌケな携帯着信音が鳴っちゃうところ。青木と沼田がギターでフォークソングを歌うところも楽しかった。
滝沢恵さん(THE SHAMPOO HAT)の存在感はやはり大きかったです。沼田に片思いをしている演技がものすごくキュートでした。やっぱりそこに、そのまま、在るってことが凄いのかな。
舞台は細かいところまでこだわって作られたリアルな部屋で、ふすまの向こう側の、客席からはほとんど見えない壁にもしっかりと装飾がほどこされています。今まではシアターモリエールで公演されることが多かったですが、「劇」小劇場も作風にすごく合っているんじゃないかと思いました。
作・演出:石曽根有也
出演:一法師豊 志村健一 今村裕次郎 兼島宏典 瓜田尚美 石曽根有也 粕谷吉洋 滝沢恵(THE SHAMPOO HAT) 佐藤洋行(明日図鑑) 桜田真悟(明日図鑑) 福島悠騎 石曽根有也
作・演出:石曽根有也 美術:福田暢秀 照明:三瓶栄 音響:判大介 舞台監督:一法師豊 美術製作:F.A.T STUDIO 宣伝美術:C-FLAT 制作:山内三知 高橋邦浩 企画・製作:らくだ工務店
前売り2800円 当日3000円(全席指定)
らくだ工務店:http://www.rakuda-komuten.com/