2005年05月17日
Bunkamura・朝日新聞社『メディア』05/06-28シアターコクーン
蜷川さん演出のギリシア悲劇で上演時間が1時間50分というのは、とてもありがたいです。
予想通り、大竹しのぶさんの独壇場でした。
先日、静岡でタガンガ劇場というロシアの劇団の『メディア』を観たばかりだったので、ストーリーはあらかたわかっていました。5年前にク・ナウカの『王女メディア』も観てましたし。
なので、演出や役者さんの演技を楽しむことに集中できるわけなのですが、いやはや、蜷川さんおなじみの仕掛けがことごとく襲ってきたっっ!という感じ。
『メディア』のあらすじはこちらでどうぞ。
ここからネタバレしますので、これから観に行かれる方はお読みにならないでください。
ネタバレします。
とりあえず、舞台が水びたしです。完全に池になっています。舞台中央つらに島のように盛り上がった場所があって、そこは水に浸っていません。また、舞台奥の壁に沿って上に向かう階段があり、階段を上ったところに家のドアがありますので、その階段と、階段の下と上の踊り場も、濡れない演技スペースです。
池の中(つまり舞台全体)には、大きな蓮の花がにょきにょきと伸び、いっぱい咲いています。時々大竹さんがバキっと花の茎を折ったりします。
コロスは赤子を背負った老女が16人。なんとみんないっせいに同じセリフを怒鳴ります。ほとんど七五調で。
赤ん坊が泣く声が何度も流れます。メディアが自分の子供2人を殺すかどうか迷うのですが、そこがすっごく長い。じわじわ、べったりと、母が子を愛する気持ち・・・みたいなものを表すのですが、余計でした。
クライマックスは・・・出た!クレーン!!大きな羽が生えたドス黒い竜に乗って、メディアが飛びます。『唐版 滝の白糸』でも笑ったけど、今回も吹き出しちゃったな。私の近くの席の人、ごめんなさい。
そしてラストは、搬入口がオープンしました。もう充分です。お腹いっぱいです。
大竹しのぶさん。しゃべりっぱなしですね。やっぱりすごいな~・・・と眺めていました。さすがにクレーンの竜に乗っているときは少しニヤリとしてたように見えましたけど。
生瀬勝久さん。メディアの夫イアソン役。悪役です。いつもの生瀬さんでした。
クレオン王役の吉田鋼太郎さんが、頑丈そうな机に寝転がって出てきた時はかなり衝撃でした。机は4人のマッスル男が肩に乗せて持ち上げているんです。その机に立って、杖で机をバンバン叩きながら怒鳴りまくる鋼太郎さん。大迫力です。出番がそれだけだったのにもびっくり。
笠原浩夫さんが鋼太郎さんと同様に、男4人に持ち上げられた椅子に座って出てきました。きれいだったわ~。メディアに優しくする美男子役です。ぴったりです。つばが吹き飛ぶようなアッツイしゃべり方は、Studio Lifeでは観られない演技で面白かったです。
メディアが贈った装飾品を身につけたため、クレオン王の娘(つまりイアソンの新妻)は毒に犯されて壮絶な死に方をします。その一部始終をメディアに伝えに来た男の人の演技が、とっても上手だなーと思ったら、横田栄司さんでした。
作:エウリピデス 翻訳:山形治江 演出:蜷川幸雄
出演:大竹しのぶ 生瀬勝久 吉田鋼太郎 笠原浩夫 松下砂稚子 菅野菜保之 横田栄司
出演(コロス):市川夏江/土屋美穂子/井上夏葉/江幡洋子/羽子田洋子/難波真奈美/スズキマリ/太田馨子/関根えりか/栗田愛巳/坪井理奈 ほか
美術:中越司 照明:原田保 衣裳:前田文子 音楽:笠松泰洋 音響:井上正弘 ヘアメイク:佐藤裕子 振付:夏貴陽子 演出助手:井上尊晶 舞台監督:小林清隆
S席:9,000円 A席:7,500円 コクーンシート:4,500円(税込)
Bunkamura内:http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/event/media/index.html
まつもと市民芸術館『いとこ同志』05/13-22シアタートラム
串田和美さんが館長および芸術監督を務めるまつもと市民芸術館がプロデュースする作品の第三段。燐光群の坂手洋二さんの作・演出で、渡辺美佐子さん、串田和美さん、宮本裕子さん、佐藤アツヒロさんという豪華キャストの4人芝居。スタッフもすごく豪華です。
難解でしたがかなり面白い脚本で、じっくり集中しながら楽しめた1時間55分でした。すごいメイクをして出演される劇団☆新感線の印象が強くて、すっかり忘れていましたが、佐藤アツヒロさんは本当に美形です(笑)。
細かいところまでしっかりと作りこまれたセットの中で、いとこ同士(タイトルと漢字は違います)という少し特別な縁でつながった男女が、空間も時間も越えて、だけどいつも同じ“約束の場所”で、何度も(?)出会います。
観終わってしばらくしてから、ポール・オースターの作品みたいだなぁと思いました。私は小説は読んでいないのですが、『ルル・オン・ザ・ブリッジ』(監督・脚本:ポール・オースター)を映画で観て、『ムーン・パレス』(演出:白井晃)をお芝居で観ました。
ここからネタバレします。
舞台はリアルな夜行列車です。がっちり作られているので装置が動くことはありません。だけど、いろんな世界に飛ぶんです。これがすごく不思議な感覚でした。坂手さんの脚本なので、細かいところまでしっかり描写するセリフが流れ続けるのですが、どこからどこまでが現実で、何が本当なのかがわからなくなる、とても幻想的な作品でした。
説明のようなセリフが多すぎる気もしましたが、すぐに煙に撒かれるので(笑)、それもまた詩や散文のように味わえました。でも「いとこ・どうし」という言葉が連呼されるのは少し耳障りだった気も・・・。『心と意志』の時もそう思いました。
レトロな夜行列車の車内。サングラスをかけた女(渡辺美佐子)がボックス席に座っている。乗客は彼女一人だけ。そこに、同じくサングラスをかけた男(串田和美)が現れて、彼女に話しかけた。「ご一緒してもいいですか?よろしければ・・・。」
いい年の男女のロマンティックな恋の始まりかと思いきや、なんと2人は知り合いで、しかもいとこ同士だった。男の名はタックン。女の名はミイ。ミイは小説家で、最新刊が18巻まで出ている冒険小説「いとこ同志」の作者。「いとこ同志」はタックンの人生そのものを描いたものだった。というのも、タックンは突然に記憶をなくしてしまう謎の病にかかっており、「いとこ同志」を全巻カバンに入れて持ち歩いているのだ。記憶を失くしたらその本を読み、いつもミイがいるところ(=夜行列車)に会いに来る・・・ということを2人は繰り返している。
また、タックンは未来を予知できる超能力を持っており、その力を買われて政府の秘密工作員として働いているのだが、今(も昔も?)は追われる身らしい・・・。
ここまで書いてもまだ、開幕直後の10分間分ぐらいしか説明できていません(苦笑)。
久しぶりに再会した2人が昔の話、つまり小説「いとこ同志」の内容を話しはじめると、同じ車内で、佐藤アツヒロさんと土居裕子さんがタックンとミイの若い頃を演じます。これがとてもロマンティックなんです。
また、同じ夜行列車のとなりの車両に偶然(?)乗っていたミイの息子とそのフィアンセというカップルも、佐藤さんと土居さんが演じます。美男美女カップルがすごくみずみずしくて、観ていて幸せでした。キス・シーンにもうっとり♪
図らずして夜行列車に同乗していた男女4人は、ミイの列車型(!)の別荘で出会います。別荘でのシーンはほとんどが夢の中の世界のようでした。列車の奥に大きな木の影が見えるのが美しかったです。息子とフィアンセがいとこ同士の結婚について悩むところは、あまり熱心に観たい気にはならなかったんですが、それもまた彼らの妄想だと思えば、歌に耳を傾けるようにさらりと眺めていられました。
タックンの記憶がまた消え始めて、ミイが小説「いとこ同志」をとうとう完結させるのですが、タックン、消えちゃいましたね・・・。しかも太陽に溶けたとか、そういう最期(?)だった気がする。あれは面白かったな~。
ラスト直前に、ミイが小説には書かなかったタックンとの一番最初の“偶然の”出会いのシーンが、佐藤さんと土居さんによって演じられるのですが、とっても可愛らしくて超ときめいちゃうラブシーンでした。何度も思い出しちゃうわっ。
そしてラストは最初の夜行列車の車内に戻ります。消えちゃったはずのタックンが最初と同じように現れて、ミイに語りかけます。「ご一緒してもいいですか?よろしければ・・・。」
ミイの息子、またそのフィアンセは本当に居たのか、タックン(串田和美)だって果たして存在したのか、今となって曖昧です。全てミイの想像の産物かもしれません。例えばこのお芝居のタイトルが『いとこ同志』ですので、ミイが書いた小説「いとこ同志」は、このお芝居そのものだったのかもしれない・・・・と、想像は止まりません。
ミイの息子のフィアンセの名前はミミでした。息子の名前は何だったか忘れちゃった(涙)。(追記:息子の名前は「ノボル」だそうです。Naolinさんが教えてくださいました。ありがとうございました。)
坂手さんのロマンティックで幻想的なラブ・ストーリーを満喫いたしました。社会派の燐光群もいいけど、こういうのもすごく面白いですね。キーワードは夜行列車です。パンフレットに書いてあった言葉を引用します。おそらく章のタイトルだと思います。
≪夜行列車 夏の別れ 冬の夜汽車 花嫁 トレイン別荘 テレビ・ショウ 電車ごっこ 物語る意志 最終回 始まりの夏 終着駅≫
【アフタートーク】
終演後に串田和美さん、坂手洋二さん、そしてなぜか日比野克彦さんのお三方のアフタートークがありました。司会は今公演プロデューサーの渡辺弘さん。
『いとこ同志』の話はそっちのけで、なぜか、ずーっと日比野さんの話ばかりするんです。日比野さんにご自身の展覧会について話させたり、野田秀樹さんとの創作について聞いたり、坂手さんに日比野さんの美術(もしくは衣裳)についての感想を言わせたり・・・。日比野さんがお話している最中に最前列の人が席を立ったのですが、それでもまだ日比野さんに話を振り続けたのには呆然でした。日比野さんがお気の毒でした。
最後の最後に観客からの質問でやっと『いとこ同志』の話になったので、まあ残っていた価値がなかったわけではなかったですけど、1時間強もアフタートークがあって、ほとんどが全然作品に関係のない話題だったなんて、とても不満でした。
直接この作品とは関係のない日比野さんをわざわざ愛知県からお呼びたてしたから、日比野さんに気を使われたのかもしれません。結果、観客のためのアフタートークではなくなっていました。
≪長野、茨城、東京≫
作・演出:坂手洋二
出演:渡辺美佐子 串田和美 宮本裕子・佐藤アツヒロ
美術:堀尾幸男 照明:小笠原純 音響:市来邦比古 衣裳:前田文子 ヘアメイク:田中エミ 演出助手:城田美樹 舞台監督:大垣敏朗 イラスト:進藤恵子 宣伝美術:鳥井和昌 宣伝写真:加藤孝 制作助手:佐藤竜太郎 制作:長山泰久 佐藤マキ子 プロデューサー:渡辺弘 芸術監督:串田和美 企画製作:まつもと市民芸術館
全席指定 一般 6,500円 SePT倶楽部会員割引 6,000円 世田谷区民割引 6,300円
劇場内:http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/04-2-4-79.html