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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年05月23日

演劇集団 円『梅津さんの穴を埋める』05/08-29ステージ円

 演劇集団 円の企画「次世代の劇作家書下ろしシリーズ」3作品連続上演の最後です。

 この方から「観なきゃだめだよ」と言われて必死でスケジュールを工面して観に行ったら、すっごく面白かった!5/29(日)までやってますので、どうぞご予約を!今日はアフタートークもあったからか、月曜日なのに満員でした。私は最前列のベンチシートで拝見いたしました。
 あらすじはこちら。何も知らずに観に行くのも楽しいと思いますよ。

 ≪言及ブログ≫
 腕P!の日々のつぶやき

 幕が開いたらそこは少し古びた家の台所。ただし普通と違うのは、床に大きな穴が開いていること。その穴にダイニングテーブルが埋まっており、席についていた家族ともども家具ごと床の下に閉じ込められて、身動きができないのだ。原因は床板の老朽化。偶然その強烈な不運とめぐりあってしまったのは、家の主である母親と、珍しく実家に帰っていた長男、長女、次女、そして次女の彼氏とリフォーム会社の作業員。のどかな日曜日の夕方に助けを呼んでも誰も来そうになく、携帯電話は面白いように誰の手元にもなかった。にっちもさっちもいかない状況で語り合う内に、家族それぞれの境遇が明かされていく。

 リアルっぽく装った少々大げさな演技が受け入れづらく(新劇っぽいというのかな)、最初の30分ぐらいは遠くから眺めるままでした。でも、登場人物一人一人が背負っているのっぴきならない人生がとても自然に浮き彫りにされていくので、徐々に自分自身や自分の家族とも重ね合わせながら観ることができました。それぐらい人物像の掘下げがしっかりと成されており、ストーリーに破綻がありません。

 具体的にネタバレします。

 主要人物がずっと出ずっぱりの1時間35分です。しかも全員幕開けからほぼ同じ姿勢のまま動き(け)ません。ワン・シチュエーションで途中の暗転もありません。だけどドッキリするような事件がたくさん起こるし、舞台も、心も揺れ動きます。少しずつ真相が明かされていくタイプの脚本ですので、もう一度観てもすごく楽しめるんじゃないかな。「あぁ、あの演技はこのためだったのか!」と気づくことが多いと思います。

 どこから見ても良妻賢母の母親が、実は十数年前に不倫をしていたのがバレるのは衝撃です。小学校6年生の時に母親の裏切りを知り、自分たちは母親に捨てられたのだと思い続けながら、その事実を心の奥にずっとしまいこんでいた長男が、テーブルに挟まれながらも怒りと悲しみを爆発させるシーンでは涙が溢れました。

 山乃廣美さんは、人生の酸いも甘いも、苦いも経験してきた母親役を、あくまでも明るく優しく演じられていました。どうして目を細めるんだろうと思っていたのですが、交通事故で視力がほぼゼロになってしまっていたことが終演間際に明かされます。さすがですね。
 宅急便のお兄ちゃん役の佐藤せつじさんがいい味を出していました。アフタートークでも爆笑しちゃった(笑)。


 【アフタートーク】
 作・演出の土屋理敬さんと演出助手の森新太郎さん、そしてゲストに舞踏・演劇ジャーナリストの堤広志さんを迎えての和気あいあいのトークタイムでした。後から出演者も全員出てきて、皆さんそれぞれが一言ずつお話してくださって、すっごく楽しかったです。

 土屋理敬さんは15年前に演劇集団 円の演劇研究所に所属されていました。それから現在の奥様である嶋崎佳美さんと一緒に劇団おばけおばけを旗揚げされて、十数本の作品を作・演出・出演されてきたそうです。私は残念ながら今までご縁がなかったですね。演劇◎定点カメラにも書かれていますが、タイトルに人の名前が使われているのが面白いですね。「杉山君たちは夜専門」とか「そして飯塚君だけが残った」とか(タイトルはうろ覚えなので正しいかどうかわかりません)。
 
 堤さんによると、家族の話は珍しいとか。いつもは他人同士の、たとえば社会人が敬語で会話するようなシチュエーションで、けっこう社会派で厳しい現実がつきつけられるような内容だそうです。でもクオリティーはいつも通り、確かだったのでしょう。

 さて、この作品の話ではないのですが、今シリーズ2作目の『東風』(グリングの青木豪さんの作・演出)は、堤さん曰く「このまま芸術座の舞台に乗ってもいいぐらい」だったそうです。う~ん、見逃したのは痛いですねぇ。やはり年配の役者さんが出演するのがミソのようです。若い作家の作品にはその同世代の役者さんが出演するのが普通ですからね。そういう意味でもこの企画は素晴らしいと評価されていました。またぜひやってもらいたいですね。そしてどんどん新しい作家を紹介していっていただきたいです。

作・演出:土屋理敬
出演:大竹周作 山乃廣美 米山奈穂 細越みちこ 佐々木睦 上杉陽一 佐藤せつじ
美術:長田佳代子 照明:樋口実 効果:斉藤美佐男 舞台監督:小野寺亮 演出助手:森新太郎 制作:桃井よし子
一般:4200円 電話予約の際に「HPを見た」と言えば一般券が3800円に!こちらをご覧ください。
劇団内:http://www.en21.co.jp/afurikanotaiyo.html#umezu

Posted by shinobu at 23:38 | TrackBack

真心一座 身も心も 公演 第一章『流れ姉妹~たつことかつこ~』05/20-29青山円形劇場

 河原雅彦さん、千葉雅子さん(猫のホテル)、村岡希美さん(ナイロン100℃)、坂田聡さん(元ジョビジョバ)の4人ユニットの旗揚げ公演です。
 公演サイトによると、「たつこが恋するプリンスとかつこを凌辱するゲストレイパーを招くスタイルでシリーズ上演していくという試み」だそうで、今回はプリンス(ゲストラバー)が松重豊さん、ゲストレイパーが粟根まことさんという豪華キャスト。

 ワケあり姉妹のたつことかつこ、そして妹のかつこを慕う谷村と、謎の男・末次の4人がいつも登場するシリーズもので、姉は毎回誰かと恋に落ち、妹は毎回誰かにレイプされるというのがルールのようです。続いていくと楽しそうですね。

 上手い役者さんが揃った人情悲劇で、笑いのネタがふんだんに散りばめられています。私が観た回は、全体的にどこで笑ったらいいのかがわかりづらい仕上がりでした。たぶん公演の後半になったらもっと磨きがかかるのではないでしょうか。
 河原雅彦さんの演出作品は今までに『世にも素敵なネバー・エンディング・ストーリー』、『鈍獣』、『バット男』を拝見しましたが、その中ではこの作品が一番面白かったです。演出の種類としてはにぎやかし的なものや運動会系のものも多いので、好みは分かれると思います。
 
 あらすじを簡単に書きますが、これから観に行かれる方は読まれない方がいいと思います。

 かつこ(村岡希美)は殺人罪で函館の女子刑務所に服役している。看守の谷村(坂田聡)は品行方正で優しく、誰からも慕われているかつこを見て、彼女は誰かの罪をかぶって刑務所に入ったに違いないと考えた。谷村は行方不明になっているかつこの姉のたつこ(千葉雅子)が真犯人だと見て、たつこの行方を追った。
 たつこは、かつことは違ってかなりはねっ返りの強い性格だ。沖縄の牧場に流れ着いて生活をしていたが、旅行者の振りをしてたつこを偵察に来た谷村の正体に気づき、持ち前の喧嘩っ早さが炸裂する。暴れるたつこを止めたのは東京から来たもぐりの獣医、五十嵐(松重豊)だった。たつこは五十嵐とともに、出所したかつこが暮らす東京へと出発する。

 出所したかつこの前に、彼女をレイプした歌川(粟根まこと)が「俺の子供に会いたい」と言って現れます。そこで回想シーンになってレイプの場面が再現されるのですが、粟根さんは体の動きがめちゃくちゃきびきびしていて迫力があり、レイプだけれどコミカルな演出が生きていて面白かったです。これがこれからのシリーズ上演で毎回あるのだと思うと面白いなって思いました。レイプされるのは村岡さんで、その相手は毎回違うんですよね。たつこと五十嵐の恋もほんのりいい感じでしたので、たつこの恋人役についても楽しみになりそうです。

 “がや四人衆”として小林顕作さん(宇宙レコード)、政岡泰志さん(動物電気)、伊達暁さん(阿佐ヶ谷スパイダース)、信川清順さんがどんどん着替えて色んな役を演じます。舞台に立つことがすっかり板についている役者さんばかりですので観ていて不安になることはありませんでしたが、ちょっと大げさすぎたかな。キャラクター勝負のきらいがあるのが見えると、私は冷めてしまうんですよね。
 政岡さんがかつこと同じ衣裳を着てかつこの回想シーンで代役をするのは笑えました。
 伊達暁さんは最後のヤクザ役の時がカッコ良かったです。

 家具などの大道具をたくさん出したり、しまったりして場面転換します。何人もの演出部のスタッフが装置を運ぶので転換の時間が自然と長くなるのですが、その間も役者さんの演技シーンになっているので、スムーズに次のシーンに進んでいました。

 私はストーリーやメッセージ等よりも役者さんの演技やキャラクターを楽しんだという印象です。

≪東京→大阪≫
作:千葉雅子 演出:河原雅彦
出演:小林顕作(宇宙レコード) 政岡泰志(動物電気) 伊達暁(阿佐ヶ谷スパイダース) 信川清順 中嶋徹 伊藤一将
<初代・ゲストレイパー>粟根まこと (劇団☆新感線) <初代・ゲストラバー>松重豊
舞台監督:福澤諭志+至福団 音響:山本能久(SEシステム) 照明:倉本泰史(APS) 宣伝美術:Coa Graphics(藤枝憲 高橋有紀子 河野舞) 制作協力:キョードー大阪 製作助手:川辺美代 制作:伊藤達哉 花本理恵 那須みちの プロデュース:菅野重郎 製作:アール・ユー・ピー
公演ページ:http://www.rup.co.jp/200502nagare/index.html

Posted by shinobu at 02:09 | TrackBack