2005年06月08日
TextExceptPHOENIX + steps『ニッポニアニッポン』06/08-12こまばアゴラ劇場
TextExceptPHOENIX + steps(テクストエクセプトフィーニクス・アンド・ステップス)は元・小鳥クロックワーク(2005年1月に解散)の演出家、西悟志(にし・さとし)さんの新しい演劇ユニットです。『作、アレクサンドル・プーシキン』、『わが町』を観て、私は西さんの大ファンになりました。
今回は芥川賞受賞作家・阿部和重さんの小説の初の演劇化ということで、わくわくしながら初日のアゴラ劇場に伺いました。
手に汗握るストーリー展開、緊張の糸がぴーんと張り詰めた俳優の演技、次々と予想外のことが起こる演出に、体がこわばり、驚きっぱなしの1時間45分でした。こんなにドキドキしながら観劇したのはいつぶりかしら??
美術や衣裳は極シンプルで、目に、耳に入ってくるのはとにかく生身の人間としての役者さん達です。声と体、そして言葉が連射される銃の弾丸のように観客に降り注ぎます。あ、そして大胆に主張する音楽も。
私は原作『ニッポニアニッポン』を読んでいません。チラシとDM、公式サイトの情報だけを頼りに観劇いたしましたが、早口だけれどはっきりと伝えてくれる膨大なセリフのおかげで、ストーリーはよくわかりました。それがと~っても面白くって、「一体どうなるんだろう?!」と引き込まれたら、突然、現実世界に戻らされるような不可思議なシーンが挟まれて、「え?何だったの、今のは??」と戸惑っていると、またすぐにストーリーに戻って・・・という繰り返しで、とにかく疲れましたね(笑)。いや、面白かったんですけどね。
やっぱり西さんの思い入れというか、個人的な気持ちがみなぎっています。観ている方が気恥ずかしくなるほどのその熱意は、どうやったら昇華されるんでしょうね・・・って私が考えることじゃないんですが(笑)。他人事とは思えなくするその存在(作品)に、私はまた心を奪われたのかもしれません。
役者が汗だくになって、大きな声でセリフをはきはきとしゃべり続けるのは三条会にちょっと似てるような気もしました。その一生懸命さが滑稽さにつながって笑えるところとかも。役者さん、大変ですよね。声と体をコントロールできる人じゃないと演出意図を伝えられないと思います。かなり苦戦されていました。
劇場でご親切にも原作の文庫本(380円)を販売してくれていたので、買って帰りました。『プーシキン』と『わが町』については原作を深く愛しつつ、内容はかなり変えていましたが、今回はそれほど解体されてはいなかったようです。この小説・・・めちゃくちゃ面白いですね。巻末に収録された斎藤環氏による解説を読むとさらに面白さ倍増。
主役の鴇谷春生(こうや・はるお)を演じたのは高橋昭安さん。ク・ナウカの役者さんなんですね。とにかくセリフが膨大で、早口でまくしたてるように熱くしゃべり続けます。圧倒されました。
ここからネタバレします。観に行く方、観に行こうかなと思ってらっしゃる方はお読みにならないでください。
“ニッポニア・ニッポン”とは、トキ(かの有名な絶滅寸前の特別天然記念物の鳥です)の学術名です。
主人公の春生(高橋昭安)は高校を中退して一人暮らしをしている18歳の男。春生の独白を中心にストーリーは進みます。彼はひどい妄想癖のあるニート(Not in Employment, Education or Training)であり、世の中のことは全てインターネットで済ませてしまう、いわゆる引きこもり少年だということが徐々に明らかになっていきます。これは原作と同じ流れです。
彼は自分の苗字「鴇谷(こうや)」の「鴇」がトキを表すことからトキにシンパシーを感じ、佐渡のトキ保護センターに行ってトキを捕獲して、開放する、飼育する、または密殺するという計画を練るのだが・・・。
中学校時代の同級生の桜(伊東沙保)に一方的に心を寄せるも、度重なるストーカー行為で思いっきり嫌われて避けられていたり、トキ捕獲のための訓練と称して夜中に無差別に人に暴力を振るったり、あれほど親近感を抱いていたトキに対しても、彼等が産卵期で交尾しまくりなことを妬んで逆恨みしたり、春生はホントに異常でお馬鹿さんなんです。
そんな主人公の行動にあきれ笑いをしつつ、言葉のシャワーにガンガン打たれながら、どっぷりとストーリーの中にのめりこんでいると、突然にその作品世界をぶち壊すシーンが現れます。
たとえば、黒服の男(大庭裕介)が「演出の西です」と言って西さんの経験談を踏まえながら、西さん思うところを話すシーンがありました。原作者の阿部和重さんおよび春生と重なるところがあるんですね。私も共感するところが多々ありましたが、シーンとしてはうまく機能しているようには見えませんでした。
中盤で、制作スタッフの女性が突然劇場に入ってきて(しかも暗転中に)、セリフを言っている役者さんを止めて、「今、テロがあって・・・云々」と客席に報告しました。あっけにとられました。あくまでも演出であり、現実世界の本当の出来事ではないということがすぐにわかればいいのですが、言葉が良くなかったですね。演出家のやんちゃはつきものですから、こういうことは制作スタッフの方から止めるべきじゃないかな。
最後に「銃を売るよ」と掲示板に書き込んだ男役で、明らかに役者さんではないであろう人物(演出家の西さんご自身)が出演されていました。すごく盛り上がったクライマックスの直後のシーンでしたので、強烈な違和感を生んでいました。彼は春生とメールで少しやりとりをしただけの男で、春生が起こした事件、すなわちこの『ニッポニアニッポン』が描く世界からは遠いところにいる存在です。その彼もまた引きこもりでネットの世界の住人なのですが、この事件をきっかけに「少し外出してみようかな」と立ち上がり、歩き始めて、終幕でした。
『プーシキン』と同様、俳優は文庫本を持って演技をしますし、『わが街』同様、出演者や観客を巻き込んで現実世界と作品をつなげる演出があります。ただ、この『ニッポニアニッポン』は現代のお話で、小説自体の構造が非常に巧妙に作られているため、磁石同士がひきつけられるがごとく没頭させられるのです。内容がすっごく面白いんです。だから突然その流れが止められると「え?なんで?止めないで欲しいな~っ」と思ったりしました。ストーリーが面白すぎるのも難点ですね(笑)。
音楽が・・・またもや私のツボ、というか、ちょうどアゴラ劇場へ行く道すがらiPod miniで聞いていた曲が2曲も流れるというマッチ振り(笑)。音楽に合わせてセリフを群読するシーンも数回あって、それはそれは楽しかったです。お稽古はもっと必要かと思いますが。
西さんは今公演初日の6月8日(水)がお誕生日で、31歳になられたそうです。うーん同じ世代だ(もっともっとお若いと思っていました)。だからなのかはわかりませんが、とにかくいつも音楽(選曲)が私好みなんです。下記、個人的な備忘録として書いておきます。
オープニングはバッハ(のようなバロック音楽)でした。ロックミュージックに編曲されてましたけど。無差別暴行シーンではたしかMichael Jackson"Beat It"が。Frank Sinatra"My Way"はどこだったか忘れましたが、とにかく自意識過剰で妄想癖のある春生にはぴったり。
はっぴいえんど"風をあつめて"とCarpenters"Top of the World"が交互にかかる佐渡旅行シーンは、突然にわざとらしいぐらいののんびり穏やかなムードが生まれて、頭が変になりそうでした(笑)。
Bob Dylan"Blowin' in the wind"はカバーバージョンと原曲が使われていました。「運命とは全く無意味なものだ」「どのみち風が吹くさ」というセリフが響きます。原作にもばっちり引用されているQueen"Bohemian Rhapsody"は、曲は流さずに、刺された方の男がぐったり床に倒れたまま歌うのが渋かったです。
日本語のポップス(男性ヴォーカル)ですっごく場面に合っていたのがあったのに(客席からも笑いが出てましたが)、知らない曲でした。残念。
作:阿部和重 演出:西悟志
出演:伊東沙保(ひょっとこ乱舞) 大庭裕介(青年団) 河野泰士(東大) 高橋昭安(ク・ナウカ) 濱崎由加里(フリー) 宮城未蹴
照明:仲嶺慧 音響:江村桂吾 衣装:齋藤円佳 舞台美術:斎田創+突貫屋 宣伝美術:京 世話役:宮城未蹴 制作:岩佐暁子
予約・当日共:2,500円 リピーター割引ほか各種割引あり ※詳細は劇場にてご確認ください。
劇団:http://tepsteps.com
劇場内:http://www.letre.co.jp/agora/line_up/2005_6/nipponia_nippon.html
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