2005年08月10日
クロムモリブデン『ボーグを脱げ!』08/10-14劇場MOMO
クロムモリブデンは青木秀樹さんが作・演出される大阪の劇団です。ナンセンスで錯綜した世界に独特のダークな空気が漂います。笑いがかなりコアでマニアック。ハマる人はハマるリズムがあります。
去年の暮れからお正月にかけて王子小劇場で上演された公演を観て大好きになり、今回も期待して初日に伺いました。
チラシビジュアルとタイトルからもわかりますように、テーマはボーグ(防具)。剣道の面も良く出てきます。ストーリーは特になく、次から次にシーンからシーンへと移って行く短編集のスタイル。ただ、登場人物が被ることもあるのでチェーンストーリー的な楽しみもあります。
ロリコン、児童虐待、性犯罪者、家庭内暴力、SM(ご主人様と奴隷)などのかなりハードなモチーフを、時事ネタも含めて皮肉っぽく、だけどあくまでもポップに軽妙に織り交ぜていきます。
黒い黒い、真っ黒な世界で、ヤっちゃいけないことをしちゃう時のドキドキわくわくのスリルと恍惚。こっそりと胸に秘めていた悪意をいたずらにさらけ出して、突然「うっそぴょーん!」と笑い飛ばしてしまうような軽薄さ。そして身体の底からグっと沸いてくるグルーブ感。
きちんと細かいところまで作り上げられた世界です。生っぽく、勢いで見せるネタがほぼないですね。役者さんが作品世界から逸脱しません。大阪の劇団とは思えない作風です(私の経験上ですが)。
音楽がめちゃくちゃクールです。全体的にくもったような響きで、舞台の奥から、床のずっと底からズシンと響いてくるように感じます。暗転中に「くーっ、かぁっこいい!!!」って何度も思って、背中がしびれました。曲名は全然わからなかったですが選曲がサイコー。
たくさんの短編があったので全部は思い出せないですが、短編の全てが面白かったわけではなかったですね。何かが具体的に足りなかったのか、もともと私に合わない作風だったのかはわかりませんが。まあ、何もかも全部ひくるめてクロムモリブデンのイケナイ世界だった、ということでも私は満足です。
ここからネタバレします。
「叩いて、被って、じゃんけんポン」(通称“たたかぶジャポン”)という遊びが全体のメインイメージを担います。机に向かい合って座る2人。机の上には武器(ハリセンなど)と防具(センメンキなど)が置いてある。じゃんけんで勝った方が武器で相手の頭を叩き、負けた方は防具で頭を守ります。素早く相手の頭を叩いた方が勝ち。子供の頃やりましたよね。
ここでは武器を攻め具(せめぐ)と呼び、同音の“責め具”の卑猥なイメージもプラスされ、そこから奴隷、虐待などの材料とうまくつながっていきます。
私が異常に笑い続けてしまったのは出所した性犯罪者を裁く理不尽な裁判シーン。板倉チヒロさん(なぜか半裸)が暴れ出し、誰にも触られていないのに「はなせーっ!はなせーっ!!」って言って、さらに暴れるのが可笑しすぎました。次のシーンになっても一人、笑いが止まらず(苦笑)。ごめんなさい。
今回はオープニング(開演前)の歌がなくて、始まり方が少し静か過ぎた気がします。初日だったからかもしれませんが堅かったですよね。あと、ラストの剣道部青春モノは意味が分かりませんでした。いや、意味はないのでしょうけれど。もっとガガンと無責任な盛り上がりを見せて終わってくれる方が後味が良かったかなと思います。
浅田百合子さん(エビス堂大交響楽団)。センメンキを探して放浪するadidas水色ワンピのガンダム女や、虐待される赤ランドセルに緑ジャージの少女など演じられていましたが、動きのキレが素晴らしい。格闘シーンで足めちゃ上がるし、強い(笑)!
重実百合さん。被写体になるモデルや赤携帯を背負った少女など。めちゃ可愛かったです。小さな身体で童顔で、あの声量!一瞬歌われた歌に聞き惚れました。
橋薔薇之介さん(ニットキャップシアター)。劇団☆新感線の粟根まことさんにすっごく似てますね。
出演=森下亮/金沢涼恵/板倉チヒロ/重実百合/信国輝彦/遠山浩司/浅田百合子(エビス堂大交響楽団)/板橋薔薇之介(ニットキャップシアター)
作・演出=青木秀樹 音響効果=笹木健司 照明=Ingrid Smith 美術=ステファニー(劇光族) 舞台監督=塚本修 演出助手=大沢秋生(ИEUTRAL) 宣伝美術=Indigoworks 宣伝写真=シカタコウキ 衣裳=赤穂美咲 制作=床田光世 金澤裕 野崎恵 パリジャン 企画・製作=office crome
全席指定 前売券 2700円 当日券 3000円/平日マチネ割引など他各種割引あり
クロムモリブデン:http://crome.jp/
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東京ネジ『僕等の肌ヌらす青』08/05-08王子小劇場
岩手の盛岡から東京にやってきた女の子の劇団、東京ネジ。前々回公演が良かったので今回も王子小劇場公演に伺いました。この作品の前に阿佐ヶ谷の喫茶ヴィオロンでも公演をされていますね。活発に活動している劇団だと思います。
≪あらすじ≫
青い塔がそびえている架空の世界。性別のない子供達は、大人になる時に自分がなりたい性を選ぶことができる。ある日、いつものように無邪気に遊んでいた子供達は、森の中で不思議な人物と出会い・・・。
≪さわりしか書けていませんが、ここまで≫
がんばって作ってらっしゃるのはすごくわかるのですが、楽しめませんでした。脚本・演出家自身の内面世界にぐっと入り込んで、そのまま外側に出てきていない様子。詩のようなセリフを思いっきりまっすぐに、感情を込めて、大きな声で読み上げられても引いちゃいます。ストーリーも、進むにしたがって苦し紛れな感じがしてきました。下記、公演は終了していますのでネタバレします。
子供は2人ペアで1人であり、先に大人になった方が生き残り、遅かった方は物理的に消えます(おそらく)。大人になる時に忘れてしまう、もしくは致し方なく削り落としてしまう子供の心(の、ようなもの)を描こうとしたのかもしれませんが、焦点が絞れていませんでした。
出演者は全員で9人。学校の先生2人と森に住む不思議な存在“パラダイス”以外は全員が子供役です。残念ながら皆さん、“大人が想像する子供像”を演じており、“子供”を演じられていませんでした。無理に子供を演じなくても良かったんじゃないかなぁ。完全に架空の世界なのですから、大人のままに普通に演じてもお話は成立したと思います。
下記、当日パンフレットの“作家からのことば”より部分引用します。
「13さいの夏、空は無限に青くて、世界は何にでも姿を変えられたことを、思い出していただけるとうれしいです。」
この文章を書かれた作家&出演者の佐々木なふみさんはご自身が13歳の頃、「世界は無限で、自分の想像した通りに変えられる(自分の想像した世界が、そのまま自分を取り巻く世界だった)」と思っていらしたんですね。けれども大人になった今ではそう思っていらっしゃらないようです。
私は反対です。年齢的に子供だった頃の方が不自由でしたし、世界は常識やしがらみにまみれ、平坦でわずらわしいものでした。けれどいい年の大人になった今では、私はものすごく自由になり、世界はどうにでも変化するし、自分の思い通りになる(私が想像した世界こそ現実だ)とも思っています。
私は生まれながらの偏屈なのかもしれません。自分がいわゆる幼い、あどけない、無邪気な“子供”だった時期があったかというと「なかった」と言えてしまう人間です。だから「懐かしいあの頃を思い出して!」と声高に叫ぶ作品が苦手でなりません。私のような人間は佐々木さんと出発点で共感できませんので、この作品を受け入れられなくて当然ですね。
王子小劇場のキャットウォークを大々的に使った野心的な美術でした。高い天井を生かした照明も綺麗でした。床(ステージ)に土を使ってました。スプレーで雨を降らせていました。ラストは細かい銀雪(青く光ってました)も降っていました。ピアノの生演奏もあって、しかもオリジナル曲です。前々回もそうでしたが、とても凝って作っていると思います。
パラダイスを演じた今里真さんは詩的なセリフもしっかりと噛み締めて伝えてくださいました。元サッカリン・サーカスの役者さんで『南国熱帯蝶々挽歌』でも両性具有の妖精ような役でしたね。ナイスなキャスティングだと思います。
王子小劇場賛助公演
出演=佐々木香与子/佐々木富貴子/佐々木なふみ/今里真/田中陽介/明石修平(NATURALick☆kciRT)/小松君和(神様プロデュース)/須貝英/田保圭一
作=佐々木なふみ 演出=佐々木香与子 舞台美術=袴田長武 照明=工藤雅弘(Fantasista?ish.) 音響=島崎諒(JAPWORKS) 衣装=原田晶子 小道具=かまくら小鳥 ヘアメイク=丸山かおり 宣伝美術/写真撮影=大倉英揮 制作=柴田優子(東京ネジ) 東京ネジ工場
[料金]前売り2300円 当日2500円
東京ネジ:http://tokyoneji.amnesic.org/
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