2005年08月31日
bird's-eye view PLAY FESTIVAL『36000秒』(2日日)08/20-28王子小劇場
朝9:30から創作を開始し、19:30より出来た作品を発表するという驚きの企画の2日目。公演の概要については初日のレビューをご覧ください。
パフォーマーDAYということで、初日とはかなり毛色の違う作品が観られそうだと思い、本番にのみ伺いました。
休むに似たり。に詳細が書かれており、率直な感想も述べられています。
この企画のまとめはこちら(2005/10/05追記)。
ひとことで言うと「立って観ているのがつらかった。だけど、貴重なメンバーのコラボレーションが味わえて個人的には大満足♪」というところです。
劇場に入ってまず驚いたのは、客席がなくスタンディング形式だったこと・・・(涙)。これはツライ。立っているのを忘れさせてくれるような空間を作り出してくれること、そして上演時間が短いことを祈るしかない、というのが私の中でのこの作品の幕開けでした。※希望者は2階のキャットウォーク観劇(床に座れる)も可能でした。
でもパフォーマーDAYですしね、つまり出演者の大半がダンサーさんですから、確かに舞台はあれぐらい広くなければ出来ることが限られ過ぎていたと思います。これもまた「上演当日に創作をする」という企画ならではのハプニングということで、マイナス志向から脱出するよう気持ちを切り替えました。
幕が開いたというのに出演者達が「オープニングをどうしよっか??」と相談し始めました。またそれが全くかみ合わないのです。だらだらフラフラしています。さらに「俺達はこの36000秒で何も作ることができなかったね!」とちょっと怒り気味に言ったりして、ケンカでも始まりそうな雰囲気。本気なのか嘘なのかが非常にわかりづらく、ただでさえ「本当に10時間で作品できたのかな?」と心配半分で劇場に来た者にとっては、さらに不安を増幅させるマイナスポイントでした。
実は現実世界と作品世界の境界をわざと曖昧にするという意図があったそうで、その意味では私は完全にハメられたわけです(笑)。しかしながら本番中に様々なトラブルもあり、想定どおりには運ばなかったとのこと(終演後のトークで判明)。私としては、観客が大きな不安を感じてしまったことが手痛い失敗だったように思います。嘘と本当が曖昧になる演出はとても面白いと思うので、できればマイナスの精神状態にではなく、もっと楽しく可笑しい方向に持っていってもらいたかったですね。
漫画を朗読する男女、本(動物園物語?)の朗読、本を使った即興(?)パフォーマンス、2~3人のペアでのダンス等、短編が順番に上演されていく形式でした。たぶんこれがもっと相互に関係し合うように作られるはずだったのでしょう。各シーンが終わって次が始まるまでの間が長すぎるように感じました。
ダンスシーンは照明も含めて超かっこ良かった!特に全員で身体を動かしている(踊っている)ところは鳥肌モノ。まず、一人一人がとても実力のある、独自のスタイルのある、魅力のあるパフォーマーさんたちなんですよね。そして一緒に舞台上に居ることがありえない、貴重なメンバーなんです♪綾田將一さん(reset-N)と篠崎芽美さん(珍しいキノコ舞踊団)が絡み合ったり、おんぶしたりするのに感動。
音響はパーカッション(江村桂吾)の生演奏なので素晴らしいのは言うまでもありません。出演者の棚川寛子さんも色んな面白い楽器を演奏してくださり、生の楽器演奏と動く身体との即興コラボレーション空間には、今、ここでしか味わえないクオリティとオリジナリティがありました。
スタッフワークについて。この日はパーカッションの江村桂吾さんがノートブックのMacも同時に使い、スピーカーから出る音響も担当されていました。公演付きの音響さん(佐藤春平)は「僕は(江村さんに)おまかせできたので楽でした♪」という状態だったそうです。つまり、照明以外はほぼ参加メンバーだけで作り上げたわけですね。終演後のトークで総合監督の内藤達也さん(bird's-eye view主宰)が「僕が完全にノータッチなのはこの日だけです」と告白し、出演者は驚愕していましたけど(笑)、まかせきった方が面白い作品になるだろうと睨んだ内藤さんは正しかったと思います。
うまく行かなかったところが多々あったのはわかりました。確かに作品全体としては観ていてつらかった。でも、全力投球で創作して自分達にしか出来ないことを見せてくれたことが、私の胸に一番強く届きました。あれは、立ったまま舞台を見つめていた私と、七転八倒していた彼等とのコミュニケーションだったんじゃないかと思うんです。あの空間に共に居た、あの時に彼等に出会えたことに、とても感謝しています。
≪ポストパフォーマンストーク≫
終演後のポストパフォーマンストークがめちゃくちゃ面白かったです。観客はほとんど全員残っていましたね。これがこの企画の目玉であり、最も意義の大きいところではないかと思います(噂によると、日によってトークが面白い日と面白くない日がかなり分かれたそうです)。
まず、総合監督の内藤さんより「(ホワイトボードにも書いてあったのですが)今日のテーマは“土の中のリンゴ”でした」と発表されました。これがわかって観ていたとしても、たぶん何が「土の中のリンゴ」なのか全然わからなかったですね(笑)。でも、「リンゴ」→「ニュートンの万有引力」→「リンゴは地球に恋してる」→「一緒になりたいのに本当に深くまでは近づくことが出来ない」というような関係性へと、テーマが深く広くなっていったというのは素敵です。人間の想像力、とくにアーティストの自由な発想は素晴らしいなと思いました。※このテーマを出した観客が「土の中のリンゴ」とはつまり「じゃがいも」のことであると述べられました。
朝からずっと創作を観ていた観客の一人から「本番(作品)ははっきり言って失敗でした。そこのところを話しましょう。」という率直な提案が出て、めちゃくちゃ驚きました。でもね、その方のおっしゃるとおりだと思うんです。「失敗だった」という意見に同意なのではなくて、創作者と観客がその日一日の営みの結果について率直に話し合うというのが、この企画の肝だと思います。勇気のある観客だなーと思ったら、演出家の方でした。なるほど、そういう交流があの場では生まれていたんですね。
あの発言以降、パフォーマーも観客もけっこう遠慮なく話してたと思います(笑)。本音が聞けてものすごく面白かったですよ。本番しか観ていない客は知り得ないはずの情報が得られるのでなおさらです。
石山雄三さん(nest)が「自分は次から次へとパフォーマンスを続けて、間を埋めていこうと思う方なのだが、他の人はそうでもなかった。人によって時間というものの捕らえ方が違うというのがわかって勉強になった」という意味のことをおっしゃっていました。私は石井さんのお考えに賛成というか、観客としての立場からは、間なんてどんどん詰めてもらって、次から次へと面白いことをしてもらいたいのが本音です。特にスタンディングでしたしね(苦笑)。
※出演者による感想が読めます↓
Gardens(山中郁さんのブログ)=36000秒を終えて、うる覚え36000秒(後編)、36000秒まとめ
田口アヤコ 毎日のこまごましたものたち=36000秒 ぶじ終了、36000秒ドキュメントもどき。長文
※上演期間=8/20(土)~22(月)、26(金)~28(日) ※出演者は日替り。
※当日朝9:30の時点から創作をはじめて10時間後に発表するという企画。
出演=綾田將一(reset-N)/香川亮(air:man)/金崎敬江(bird's-eye view)/篠崎芽美(珍しいキノコ舞踊団)/田口アヤコ(COLLOL)/山田宏平(山の手事情社)/山中郁(bird's-eye view)/大内米治(ク・ナウカ)/石山雄三(nest)/棚川寛子/パーカッション・音楽=江村桂吾
総合監督=内藤達也 照明=榊美香(I's) 音響=佐藤春平 ヨシモトシンヤ(SoundCube) ボディペイント=ぺんぺん 制作=眞覚香那子 提携=王子小劇場
bird's-eye view:http://www.b-ev.net/
公式ページ=http://www.lucy.ne.jp/~bev/2005_07/36000.htm
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tpt『道成寺一幕』08/20-09/4ベニサン・ピット
どんな演目であろうと絶対に観ることにしているtptの公演です。三島由紀夫の「近代能楽集」の中の「道成寺」を、ドイツ人のトーマス・オリヴァー・ニーハウスさんの演出で。公演詳細はこちら。
ニーハウスさんはtptで『時間ト部屋』も演出されています。役者さんもその時のメンバーが多いですね。う~ん、今回も奇抜な演出でした。
≪あらすじ≫
年代物の巨大な衣裳箪笥(今で言うなら持ち運び可能なウォーク・イン・クローゼット?)が競りにかけられている。大金持ちが集まり華やかにオークションが始まるが、「300万円!」などと声のあがる中、一人「3000円!」と法外な安値を叫ぶ少女(中嶋朋子)が現れる。清子と名乗るその少女は箪笥の由緒について語りだし・・・
≪ここまで≫
美術はいつも通りうっとりさせてくれるクオリティーです。劇場は額縁形式で、上手から下手へと白木の廊下が通っているかような、間口が広い、細長いステージ。上部にステージと同じ長さの装飾つき天井板が吊り下がっているため、空間が余計に細長く見えます。ステージ板の前面の装飾を見ると、材質は分厚い大理石のよう。ステージは数本の黒い柱で支えられた台なので、黒びかりする地面から数十センチ浮かんでいるようにも見えます。
ステージの背後中央に一本ある柱の奥には真っ黒な倉庫のような空間が広がっており、その上手奥コーナーには家具(おそらく椅子ばかり?)が山のように積み重ねられています。舞台中央から客席の中央へと垂直に、ステージの白と同じ色の通路が設けられており、客席のド真ん中までが演技スペースです。
オープニングでファッション・ショーのように颯爽と登場した役者さんたち。衣裳の形はスーツや夜会服のような黒色のフォーマル風ですが、上から個性的な生地の白いガウンを羽織っています。ステージ中央で客席を向いてキメ笑顔しちゃうし、一体何が起こるんだろう!?とドキドキしました。
ここからネタバレします。
モデルのように美しいそれらの人々はオークションに招待された資産家たちでした。清子と骨董屋主人(塩野谷正幸)の2人語りのシーンになってからは、舞台上手奥の家具コーナーで2人を見守り続けます。ときどき会話中の人物になって現れたりします。
清子と主人が「5万円!」「3000円」!と値段交渉しているシーンでは、見守る人々はまるで情事のあえぎ声のような息声を発しながら、表情はクールなまま、楽しげにお花見をしていました。桜=春=愛=情事=戦争=値段交渉、という式が浮かびました。めちゃくちゃ面白かったです。
Club Silencioで書かれているとおり、私も清子役の中嶋朋子さんの演技がどうも受け付けづらかったです。お話の中、そして想像(夢)の中に入って行きたいのに、主役の彼女が現実世界の個人的感覚に浸っている様子で、私もベニサン・ピットの客席に座っている自分のままで居るしかありませんでした。でも、言葉がはっきりと伝わってきたので、お話の意味は非常にわかりやすかったです。
他の役者さんはそれぞれの役になりきっており、その役の感情が表れていたように思います。それにしても皆さん(アンサンブル?の方々)、めちゃくちゃかっこ良かったなー・・・。最高に気取っていて、おしゃれで。こういうの、tptでしか観られないと思います。
≪あらすじ2≫
巨大な衣裳箪笥の持ち主だったある富豪夫人は若い男と不倫をしていた。しかし嫉妬に狂った夫が箪笥の外側から銃を何発も打ち込み、中で情事を楽しんでいた夫人と若い男は多量の血を流しながら死に絶えた。
その若い男というのが清子の元・恋人で、清子は愛する男の墓場となったその箪笥を手に入れるためにやってきたのだ。
≪ここまで≫
衣裳箪笥という密室での禁断の情事、そして嫉妬から生じた血まみれの地獄。そんなインモラルでアングラな耽美的世界が、清子の語る言葉のみから想像できて非常に心地よかったです。クール&モダンで、いわば無機質な空間に居ながら、頭に浮かぶのは不実の熱愛とそれが招き入れた流血の惨劇。官能的です。
死んでしまった恋人に自分の死(顔を硫酸で壊すこと)をもいとわないほどの執着心を持っていた清子は、箪笥の中の鏡に映った自分の顔を見つめて、「どんなに怒りや嫉妬、悲しみなどの感情にさいなまれ、苦しもうと、自分の顔を変えることはできない」という境地に達します。そして「自然と和解」した清子が執着から解き放たれるという結末に、納得はできました。でもあまりにすんなり過ぎたように思います。最後の音楽が軽すぎたんじゃないかしら。出演者全員がニコニコしているし、異様に素直な盛り上がりのハッピーエンドになっていて、腑に落ちなかったです。もしかすると私が見当違いしているのかも?
溶ける氷、冬眠から覚める動物達、つぎつぎと土から顔を出す新芽、満開の桜、青い空(セリフではありません)。中嶋さんが萌える春をイメージさせる言葉をどんどんと発している間、新しい命が息苦しくなるほどに充満した空気を想像することができました。春は愛、愛は情事。そして咲く花、生まれる命。でもセリフから感じとったことなんですよね。本当のところはもっと他のことも伝えたかったんじゃないかなと思います。
作=三島由紀夫 演出=トーマス・オリヴァー・ニーハウス(Thomas Oliver Niehaus) 美術=松岡泉 照明=笠原俊幸 音響=長野朋美 衣裳=原まさみ ヘア&メイクアップ=鎌田直樹 舞台監督=益田裕幸/久保勲生
出演=中嶋朋子/塩野谷正幸/大浦みずき/千葉哲也/植野葉子/池下重大
一般発売開始=7/30(土)10:00 全席指定=6,300円
公式=http://www.tpt.co.jp/
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