2005年09月17日
明治大学文化プロジェクト『マクベス』09/16-17明治大学駿河台校舎 アカデミーホール
明治大学が主催する明治大学生による演劇公演です。信じられないぐらい美しい劇場(キャパ700人以上)で、豪華な衣裳(朝月真次郎さんのデザイン)で、入場無料!
いい意味で予想を裏切られましたね~。文化祭等でよくある発表会的な学生のお芝居とは一線を画す、3時間みっちり(休憩15分を挟む)の本格的な『マクベス』でした。
そして特筆すべきはマクベス夫人(堀口茉純)!夜の徘徊シーンは、私が今までに観たマクベス夫人(芳本美代子、Harriet WaIter、高橋惠子、麻実れい、大竹しのぶ、ゲオルギーナ・ルカーチ2004、2005)の中でNo.1です。
本日(2005/09/16)初日で明日のマチネ&ソワレで千秋楽です(マチネは追加公演)。予約制自由席ですので、早めに受付を済ませて前の方の席をゲットされることをお薦めします。舞台も広いし客席も広い!ご予約・お問い合わせは公式サイトへどうぞ。演出の谷賢一さんのサイトでは、創作過程の日記が読めます。明大のサイトに舞台写真がアップ(2005/10/02)。
『マクベス』のあらすじや見どころについては、こちらのページにきれいにまとめられています。
言葉をとても大切にした正統派シェイクスピア作品でした。シェイクスピア等の古典演劇には詩のような長~いセリフがありますよね。そういったセリフはプロの役者さんでも、感情だけで押し切って、早口でまくし立てるように話して流しちゃうことが多いんです。だけどこのお芝居では、決して演技は上手ではないんですが(学生ですし)、言葉の意味ときちんと伝える丁寧なセリフまわしが、作品全体で統一されていました。『マクベス』をこれほどセリフで味わえたのは初めてでした。
無料公演であること、学生による創作であることを鑑みないで(配慮しないで)、いつもの私の感想をそのまま言っちゃいますと→→→役者さんは一部を除いて全員下手です(しょうがないです)。残念だったのは美術。ほぼシンメトリーだし角ばったイメージのみで、高さはあるのですが立体感がありませんでした(袖幕が全くなく吊りものもなかったので、たぶん劇場設備の制限があるのだろうと予想)。衣裳はさすが朝月真次郎さんのデザイン、豪華でした~。だって『エリザベート』のデザイナーですからね。でも着こなせている人は少なかったな~・・・。
演出については、人物像の掘下げがしっかり成され、独自の解釈も盛り込まれた充実の内容だったと思います。
先述の言葉を聞かせるシェイクスピアであることも大きな魅力ですが、3人の魔女たちについての解釈や、マグダフとマルカム(ダンカン王の息子)の関係の描き方が面白かったです。マクベスとマクベス夫人はちゃんと夫婦に見えましたね。二人が一心同体(運命共同体)であることもしっかりと伝わってきて、心に残るカップルでした。
あとは雄弁な音響効果も特徴ですね。音楽はメロディーが単調すぎて息苦しくなることがありました。あれは・・・選曲がもう一歩なのでしょう。立体的な空間作りはあまり出来ていなかったかな。美術のせいもあると思いますが、役者さんの動きが直線的でした。
前半はシーンとシーンがプツリと途切れている感があり、少し退屈しました。でもダンカン王殺害のシーンは素晴らしかったですし、部分部分では魅せられました。バンクォーの亡霊が出てくる晩餐会のシーンはもっと工夫できるんじゃないかな。言葉重視とはいえ、亡霊が全然怖くなかったのは残念。
後半はギュルギュルと音を立てるように、マクベスを中心とした残虐で狂った世界が加速していきます。マクダフの慟哭からマクベス夫人の徘徊、そして死体が山と積もる戦場へと一直線。すんなりとハッピーには終わらないエンディングも良かった。
カーテンコールが終わって客電が点いても拍手が鳴り止まず、ダブルコールの準備をしていなかった役者さんたちが照れくさそうに、でも嬉しそうにぽとぽとと舞台に戻ってくるのが微笑ましかったです。
すごいなぁ明治大学。これが2回目ってことは毎年続く企画なんですよね?ぜひぜひ続けていってもらって、誰が演出をするのか、誰が主役に抜擢されたのかが話題になるような、秋の目玉イベントに成長して欲しいです。
★ここからネタバレします。
3人の魔女があんなにメランコリックな演技をするなんて予想外でした。セリフは脚本どおりグロテスクなんですが、ものすごくゆっくりじんわりと話しますし、やっていることは・・・遺骨をひろって供養しているような感じ。マクベスやバンクォーに予言を言い渡すのも決して彼等を陥れようとするような邪気の微笑みなどはなく、すごく悲しそうなんです。慈しみ深い母のような印象。
マクベスとマクベス夫人、めちゃくちゃべったりくっついてましたね。夫人が初登場するシーンなんて押し倒すしキスするし、頭にぐるりと腕を巻きつけたり、頬をなでたり、抱き合いまくり。若くて熱い、可愛らしいカップルであることをまず前面に出していたんですね。そんな仲良しな2人が殺人に手を染め、お互いを叱咤激励し、頼り甘えながら死の淵へと一緒に追いやられていく・・・感情移入できました。
ダンカン王殺害のシーン。王が眠る部屋へと進んでいくマクベスと、部屋から出てきたマクベス夫人が階段の中央辺りですれ違うのが良かったです。
配役もほぼ原作どおりに登場し、カットもあまりされていないようです。でもマクベス夫人が短剣で自害する場面があり、そのシーンの解説ゼリフはカットされていました。あれはスピーディーで良かったと思います。
貴族5人組はよくわかんないポジションでした。衣裳も着こなせてなかった感あり。でも鈴木さや香さん演じるロスは、最初の方のシーン(マクベスが王からコーダー領主を命ぜられる等)から、立場と意味がよくわかる丁寧な演技を見せてくれました。それが後半のマクダフとマルカムのシーンでも生きていました。
西村俊彦さん(マクベス)。セリフは膨大だし、感情は豹変し続けるし、主役だし。大変な役を立派にやり遂げられたなぁと思います。前半はダンカン王を殺害した後の長ゼリフが良かったです。後半は凄みがあり、ストーリーをひっぱる役割を果たしていました。
堀口茉純さん(マクベス夫人)。マクベス夫人といえば、闇夜に徘徊するシーンです。セリフに心が入っていて、動きも美しいし、目にも力があり、嘘がない!私は涙をボロボロこぼしながら、息をひそめて見入りました。「狂った女」の役は色々観てきましたが、『夜への長い旅路』での三田和代さん、『ハムレット』での中村芝のぶさんに匹敵する演技でした。堀口さんは元サッカリン・サーカスの女優さんで注目はしていたんですが、「やっぱりね」とこれで確信。あ、だから前半もっと頑張って欲しいです~。
松村光さん(マクダフ)。高橋克典さんみたいな「熱い色男」っていう感じでちょっと引いたんですが(笑)、マクダフ最大の見せ場であるマルコム王子との対話シーンから魅力炸裂。マクベスとの一騎打ちでは、きちんとセリフを伝えつつ迫力の殺陣もやりきってくださいました。マクダフがマクベスを倒し、その首を切るところで泣いたのに驚きました。「え、なんで?」って。でも私も泣いてました。なんか空しくて悲しくて。
遠藤恵一さん(ダンカン王)。前半はダンカン王のおかげで世界がきちんと成立していたように思います。だから死んじゃってからがつらかったのかも。
作=W.シェイクスピア 翻訳=松岡和子 監修=原田大二郎 演出=谷賢一(文学部3年) 衣裳デザイン=朝月真次郎 照明=渡辺省吾 殺陣指導=脇坂奎平 キャスト・スタッフ=明治大学生 主催=明治大学
料金無料制。全席自由席。
公式=http://www.bunkaproject.com/
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