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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年11月02日

世田谷パブリックシアタープロデュース『偶然の音楽』10/31-11/20世田谷パブリックシアター(10/31はプレビュー)

 白井晃さんが演出するポール・オースターの世界。2001年に新国立劇場で拝見した『ムーン・パレス』以来です。仲村トオルさんと小栗旬さんという美男俳優を向かえて、豪華スタッフで作り上げる詩的幻想空間。

 苦しいんだけど美しいし、怖いんだけど甘い夢のような2時間強でした。初日(11/1)の緊張感が心地よかったです。3回あったカーテンコールでの役者さんの笑顔も素敵。

 ※思い出したことがあったので、文章を追加しました(2005/11/02)。
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 ≪あらすじ≫ パンフレットより引用。(役者名)を追加。
 ある日突然、ジム・ナッシュ(仲村トオル)の元に、行方不明だった父親の莫大な遺産が転がり込む。彼は仕事を捨て、過去を葬り、生まれて初めて買った新車・赤いサーブに乗って、自由の旅に出る。しかし、自由とひきかえに金はどんどん減り続け、ナッシュは次第に追い詰められていく。
 13ヶ月目に入って3日目。彼はボロボロの姿で歩いている男を見かけ、車に乗せて助ける。
 男の名はジャック・ポッツィ(小栗旬)。ポーカーの天才だと自称する。そして、あさっての晩、宝くじで大富豪となった二人の億万長者フラワー(大森博史)とストーン(小宮孝泰)を相手に大勝負をかけるはずだったのだが、トラブルで元手を無くしたと言う。
 それを聞いたナッシュは、その勝負に必要な金を提供しようと申し出る。ポッツィと組んで一山当て、資金が乏しくなった旅に新たな展開を求めようとしたのだ。
 だが、フラワーとストーンの待つ奇妙な屋敷での勝負は、想像もしていなかった運命へと二人を巻き込もうとしていた。
 ≪ここまで≫ 

 さすがポール・オースター。暗いです(笑)。『ムーン・パレス』は苦手だったけど、私もやっと学んだのかな~、今作品はとても好きでした。お話としては暗いし、つらいし、かなり残酷なのだけれど、常にふんわり浮遊しているような、少しメルヘンを感じる空気がクセになっている気がします。白井さんの演出、大好きです。

 正方形で大き目の黒い石が敷き詰められた床。太くてごつごつとした柱が数本、上下(かみしも)にうっすらと見えます。全体的に暗い舞台です。黒に近い灰色のダークな洋服に身を包んだ役者さんが、ピアノ曲にあわせて規則正しくステージを歩き回ります。その振付は『ルル~破滅の微笑み~』に似た感じですね。音楽、照明、そして歩く俳優と移動させられる家具たちの息のあったステージングに目は奪われっぱなし。
 特に照明が良かったな~・・・色の種類はそんなに多くないと思うんです。沢山の種類の白色の照明の効果的な使い分けがメチャ渋い。

 ここからネタバレします。

 ≪あらすじ2≫
 ポッツィはフラワーとストーンにポーカーで完全に負けてしまう。ナッシュは手持ちの1万ドルの他に、持ち金全部と赤いサーブまでつぎ込むが、それも奪われておまけに1万ドルの借金も作ってしまった。2人はその金を返すために大きな石を並べて壁を作る肉体労働をすることになり、掘っ立て小屋での共同生活が始まる。
 苦しい作業の末に積み上げられていく石を見て、2人はある種の達成感を得ていた。とうとう借金を完済し、やっと自由になれると喜んだ2人だったが、生活費などが借金に上乗せされていて願いは叶わず。耐えられなくなったポッツィをこっそり逃がしてやり、ナッシュは一人で小屋に残ることにした。しかしその翌朝ナッシュが見つけたのは、顔をボコボコに殴られて頭にも傷を負い、意識もなく横たわるポッツィだった。
 ≪ここまで≫ 

 フラワーとストーンの屋敷のシーンで、ストーンが5年かけて作り上げたミニチュアの街が、石だたみの下からせり上がってきた時は「うわ~・・・っ」とうっとりため息が出ました。なんて可愛らしいのかしら!だけどその箱庭の上手側に高い壁に囲まれた牢屋のような建物が見えて、すぐにゾっとしました(笑)。すっかりハメられましたね。

 妻に逃げられて娘にも必要とされなくなり、金があるのに任せてただ浮遊していたナッシュが、毎日石を積み上げていくことで自分の存在を自覚し、ポッツィのことを思い出して彼を恋しく思うことで人間らしさを取り戻していきます。
 1人で借金を完済したナッシュは、石積み現場の上司ら(三上市朗と櫻井章喜)と一緒に外に飲みに行き、その帰り道に自分が手放した赤いサーブを運転させてもらいます。自分の車を運転しながらナッシュは昔を思い出し、いつも聞いていたクラシック音楽を大音量にしてスピードをぐんぐん上げていきます。そして、対向車線の車と正面衝突する、その直前のほんの数秒か1秒もなかったかもしれない刹那に、彼は最後の思考をします。骨まで透かしてしまうような、白い、強い照明が舞台全体を正面から照らし、ナッシュの命の最も美しい瞬間を剥き出しにします。何かが爆発する時の発光の瞬間のような色でした。

 ラストシーン。舞台奥のホリゾント幕に白い照明が当てられて、椅子に腰掛けたナッシュも家具も黒いシルエットになり、静物の全てが影のようにぽっかりと舞台に浮かびます。そこにただ、優しいピアノの音楽が流れ続ける・・・これは永遠、ですね。なんて、なんて、美しいんだっ!!胸にじ~んと来て、この瞬間、このビジュアルがあるだけでこの作品に大満足だと思いました。白井さんの作品って(コメディは別ですが)いつ、どこで写真を撮っても絵になるのでしょう。あぁ、思い出すだけで胸がぐっと熱くなります。
 
 仲村トオルさん。主人公ナッシュ役。乱暴といえば乱暴なんだけど、基本的に物静かで朴とつ。ラブシーンが苦手なんだろうな~、そこも好感度大(笑)。手放しに演技が上手だとは言えないです。でも、仲村さんのありのままの心と体の状態が、この作品の世界にしっくり来ていました。今回もキャスティングの勝利ですね。
 小栗旬さん。ばくち打ちの若者で、素行は悪いが超美形のポッツィ役。ばっちり、ぴったりの役ではないでしょうか。でも存在感は期待していたより小さかったです。もっともっと光れると思います。

 強いこだわりがあってクセのある、正解の的を射るのが難しい作品だと思いますが、浮いている役者さんは居ませんでした。空間の密度が高かったと思います。2ヶ月間という長い稽古期間があったのも勝因の一つなのではないでしょうか。こういう一本芯のとおった作品を観られる事に感謝です。劇場プロデュースって素敵。

 ≪よく考えてみると・・・。2005/11/02追記≫
 オープニングとエンディングに同じ場面がありました。ナッシュが車を運転していて、そこにポッツィがぶつかって、バッタリと倒れます(逆かもしれませんが)。
 ナッシュが大富豪の家の箱庭にあった人形を盗み、それを火で燃やしてしまったために、ポッツィは運を逃し、殴られてぼろぼろになって死んだと描かれていましたが、実は現実世界でもポッツィがナッシュを轢き殺していたんですね。つまりこのお芝居は全て、死ぬ前の2人の男が同時に観た夢だった、ということなのかも。
 映画『ルル・オン・ザ・ブリッジ』の最後にも、主人公のハーヴェイ・カイテルが救急車で運ばれている時に、ミラ・ソルヴィーノが通りかかるシーンがありました。ハーヴェイ・カイテルがその車中で亡くなったため、救急車のサイレンが止まります。それを見たミラ・ソルヴィーノが車に向かって祈りを捧げていた・・・ように覚えています。その祈りの瞬間、つまり死へと向かう主人公と、彼のためにひとときだけ純粋な祈りをささげたヒロインの間に生まれた愛の夢、それが映画の中で描かれていた全てだった、ような。記憶があやふやですみません。

出演=仲村トオル/小栗旬/三上市朗/大森博史/小宮孝泰/山田麻衣子/櫻井章喜/月影瞳
原作=ポール・オースター 翻訳=柴田元幸 構成・台本・演出=白井晃 照明=齋藤茂男 音響=井上正弘 衣裳=太田雅公 美術=二村周作 ヘアメイク=佐藤裕子(昨年まで林裕子として活動) 演出助手=河合範子 プロアクションマネージャー=堀内真人 技術監督=眞野純 舞台監督=藤崎遊 主催=財団法人せたがや文化財団  企画制作=世田谷パブリックシアター 制作協力=遊機械オフィス
公式=http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/guzen/
劇場内=http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/05-2-4-32.html

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Posted by shinobu at 00:28 | TrackBack