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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年12月10日

演劇企画集団 THE・ガジラ『ヒカルヒト』12/08-25本多劇場

 市原悦子さんが出演されるということでいち早くチケットを購入いたしました。山間部の知的障害児施設での殺人事件、およびその冤罪について描かれた作品・・・ということで暗いのは覚悟していましたが、暗い上に怖いし、気持ち悪いし、つらいし・・・(苦笑)。
 そもそも私は鐘下辰男さんの作品はあまり得意ではないのです。でも最後まで頑張って観ました。「このまま進めて、このお芝居はどうなるんだろう?」って、先を知りたくなったからです。そして、市原悦子さんが素晴らしかった。
 公式サイトでさっそく舞台写真がアップされています。

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 ※あらすじは公式サイトでご覧ください。詳しくてわかりやすいです。

 舞台装置が圧巻でした。舞台写真で一目瞭然ですが、細い木の柱が本多劇場の舞台いっぱいに組まれています。壁がないので舞台奥まで見通せるのですが、柱の影になって役者の姿が見えないこともしばしば。そもそも全てを見せるつもりがないんですね。
 突然大きな落雷音とともに暗転したり、不快感を増長させる種類の音楽が多くて、音響は全体的にイヤ~な雰囲気でした。また、役者の足元から顔に向けて照明を当てることが多いので、顔がおばけみたいになって怖いし・・・。

 つまり、観客が快適には過ごせない劇場空間を、わざと作ってらっしゃると思います。数年前の私だったら怒っちゃってました。そして、不快だという理由で途中で帰ってたかも。そういう意味では忍耐力がつきましたよ、私(笑)。「鐘下さんだから」と思って「今回は何を見せられるんだろう、何をつきつけられるんだろう、心して行こう」という覚悟ができているんですね。そして我慢して最後まで席に座っていることを選びます。だから鐘下作品を観た事がない方には今作はお薦めしづらいです。

 脚本が凄かったです。「凄い」なんていう漠然とした言葉でごめんなさい。よくこんな脚本を書いて、あんな演出をするよな・・・って驚きます。字面だけ読んでも意味がわからないんじゃないかしら。役者が読みながら徐々に気づき、作っていくしかないんじゃないかなと想像します。

 ここからネタバレします。

 裁判で、知的障害児の証言が信用するに値しないものだという判断がくだされ、25年の歳月を経た末に保母の瀬川(市原悦子)の無実が証明されます。瀬川は再び福祉の仕事をもとめて施設へと訪れますが、そこで現在と過去が交錯していきます。

 セリフに出てくる個人名がどんどんと変化するので、そのシーンがいつの、どこの、誰のことを言っているシーンなのかが、突然、曖昧になります。昔になったり今になったり、他人のはずだったのに本人になったりもして、登場人物と一緒に観客も翻弄されます。
 揚げ足をとり、とられている内に本質を見失い、物事は思いも寄らぬ方向へと進んでしまいます。嘘の上に嘘が乗っけられて、さらにその上にまた嘘が重ねられると、何が本当なのかなんて全くわからなくなるんですよね。これらはとても恐ろしく醜いことですが、現実世界でも頻繁にそういうことが起こっていると思います。

 鐘下さんの文章によると「子供とは神なのか鬼なのか」というポイントが強調されていますが、それほど子供のことはあまり印象に残らなかったです。子供の声でアナウンスが流れていましたが、あんまり・・・。

 役者さんで良かったのはダントツで市原悦子さん。「まんが日本昔ばなし」の声が今も健在。そしてとても女らしくしっとりした方でした。「家政婦は見た」シリーズのおとぼけ表情に恐ろしげな照明が加わって、凄みがありました。
 周りの男優さんは皆さんまだ掴みきれて居ない印象。木場勝己さんは長いセリフのところで引き込んでくださいました。

出演=市原悦子/木場勝己/下総源太朗/高田恵篤/小野健太郎(Studio Life)/塩野谷正幸
作・演出=鐘下辰男 美術=横田あつみ 照明=中川隆一 音響=井上正弘(オフィス新音) 衣裳=小峰リリー 舞台監督=白石英輔(クロスオーバー) 演出助手=山田美紀 宣伝美術=西山照彦 スチール=青木司 プロデューサー=綿貫凛 主催=(有)ガジラ
全席指定=前売¥4,800 当日¥5,300 学生割引=前売・当日共¥3,500(コットーネのみ取扱・当日学生証提示)
オフィス・コットーネ=http://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/

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Posted by shinobu at 17:36 | TrackBack