2005年12月11日
RSC『夏の夜の夢』12/09-17東京芸術劇場 中ホール
イギリスのRoyal Shakespeare Companyの来日公演です。グレゴリー・ドーランさんの演出は2004年にも拝見しました(その他のRSC観劇→2001年、2000年、1994年)。
『夏の夜の夢』といえば、人間の世界と森の奥深くの妖精の世界とが幻想的に絡まりあう、シェイクスピア作品の中でも超メジャーなコメディです。
※日本語字幕はなく、イヤホンガイドでした。
※あらすじなどはこちらでご覧ください。有名な作品ですので前知識を沢山持って観に行っても大丈夫です。
前半は出演者の間だけで(観客はそっちのけで)全てが進んでいるように感じて退屈しました。でも後半から4人の恋人達(ハーミア、ライサンダー、ヘレナ、ディミートリアス)のドタバタが始まり、舞台が熱くなって一気に面白くなりました。
直径1mぐらいの大きな球(月)が宙に浮いている一見シンプルな舞台装置は、照明や映像で自在に変幻します。ごくシンプルに見えて実は色々な仕掛けがあり、上品でウィットに富んだ大人向けの空間でした。
森の中のシーンでは数人の役者が身体で木々を表現し、コロスのような役割も果たしていました。妖精の女王タイテーニアの周りに居る小さな妖精(芥子の種など)は、全長30cmぐらいの人形をコロスの人たちが手に持って動かします。森に迷い込んだ4人の恋人たちをコロスが持ち上げて運ぶのがめちゃくちゃ面白かったです。山の手事情社の『道成寺』の手法と同じでしたね。
4人の恋人達絡み合いがやっぱり見所です。アグレッシブに罵り合い、取っ組み合います。でも蜷川幸雄さん演出の、パックが何人も出てくる『夏の夜の夢』の恋人達の方が熱かったし面白かったなぁ。
恋が理想のさやに納まった後は、街の職人達による御前芝居が始まります。道化とはこういうものだ!というお手本のようなシーンでした。ちょっと長すぎる気もしましたけど。ロバの頭を被せられるボトム役のMalcolm Storryさんはド迫力でした。昔の超人ハルクみたいなイメージ(笑)。
Jonathan Slingerさんが演じるパックが、スレた不良オヤジみたいだったのは、私の好みじゃなかったです・・・(苦笑)。パックは嘲笑するよりは本気で大笑いするタイプのいたずら小僧であって欲しいんですよね、私としては。役者さんご本人はとても面白いと思うのですが、どうしても「僕は僕、あなたはあなた」という引き離した状態から傲慢さを感じます。だからといって日本人にありがちな「あなたと私は今、同じ空間で同じ空気を共有している仲間ですよね??」と擦り寄って来すぎる態度も良くないと思うんですけどね。
でも最後の長いセリフは素晴らしかったです。劇場での一夜の幻(夢)を永遠にしてくださいました。
≪俳優の違いについて≫
私はRSCの俳優の舞台上での存在感が好きではないようです。他人行儀というか、舞台の上に自分ひとりだけ、という風に見えます。そして一人ずつがそれぞれに「俺(私)を見ろ」と主張するような精神状態にあるように感じるのです。シェイクスピアの戯曲は長い独白から出来ていますから、特にそう見えるというのもあると思います。
ただ、これは単に国と国との文化の差なのではないかとも思っています。湿度や匂いなどの空気の質感の差や、イギリス人の日常的な生活態度と日本人のそれとの違いなど、イギリスの演劇を日本で観ているという時点で絶対的に取り除けない差があります。だからイギリスの劇場で観たらしっくり来たかもしれません。
≪終演後のパーティー≫
初日終演後のパーティーに参加させていただき、ご縁があって技術監督の眞野純さんとお話できました。眞野さんといえば世田谷パブリックシアターの技術監督ですが、世田パブだけでなく他の大きな劇場の公演も、海外招聘公演も手がけてらっしゃるプロの中のプロです。
今作については照明と美術がすごく良いとおっしゃっていました。RSCの照明や美術のデザイナーについて、「(明かりが)柔らかい」「デリカシーを持っている」「サラっと話すだけで三次元のデザインが出来ている」など熱心に褒めてらっしゃいました。「装置と照明の意図を汲み、それを受け止めて表現できる俳優がいる」ともおっしゃっていました。
天井から見た舞台上の様子が、舞台奥の白い壁に映し出される仕掛けについて教えてくださいました。舞台の床がつるつるとした光を反射する素材になっており、上から当てる照明の光がその床に反射して、舞台奥の壁に人影が映るのだそうです。私はプロジェクターやカメラを探してたんですよね(笑)。まさかそんなシンプルな仕掛けだったとは!素材や装置についての深い知識があり、それを体現できる俳優がいるからこそ出来た演出だそうです。
出演=ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー
作=W.シェイクスピア 演出=グレゴリー・ドーラン(Gregory Doran) 企画招聘・制作=東京芸術劇場/ホリプロ
S席9,500円 A席7,500円 ※イヤホンガイドあり(有料)
公式=http://www.natsuyume.jp/
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ハイリンド『-初恋』12/08-12江古田ストアハウス
ハイリンドは加藤健一事務所俳優教室の卒業生の役者さん4人が結成した劇団です。今回が旗揚げ公演で、加藤健一さんが演出されています。『-初恋』はMONOの土田英生さんの戯曲で、頻繁に上演される人気演目です。私はMONO版をビデオで見ました。
カトケン・テイストにすっかり染まった、元気で切ないシチュエーション・コメディに仕上がっていました。私はMONO版よりも好きでしたね。
チラシがめちゃくちゃかっこいいですよね!このチラシだけで観に行きたくなった人は多いのではないでしょうか。私もその一人です。
出演者の多根周作さんのブログで稽古場写真や舞台写真などが見られます。
≪あらすじ≫
ゲイばかりが住むアパート“ハイツ結城”。地域から白い目で見られており、ときどき心無い悪ガキにガラスを割られたりしている。そんな中、ケンカしながらも仲良く暮らしてきたゲイたちだったが、ある日ひとりがつぶやいた。「女の人を好きになっちゃった・・・」。
≪ここまで≫
ゲイが出てくるお芝居って多いのですが、ただのキワモノみたいになってしまう危険があるんですよね。しかしながら今作の男優さんは、照れも卑下もなく、思い切りよくゲイを演じらっしゃいましたので、ゲイの人たちを“ちょっぴり個性がキツい人間”ぐらいに受け止められました。だからスコーンと笑えるのでしょうし、彼等の悩み事や希望が自分と同じことのようにも感じられました。
また、MONOの作品(土田英生さんの戯曲)を違う劇団で上演すると、セリフの言い方や間(ま)の取り方に違和感や不満が残ることがあったのですが(例えばこちらの公演)、今作ではそれがなく、全く新しいオリジナルの作品になっていたと思います。
私は知っている作品を繰り返し見るのが苦手な人間なので、最初はちょっぴり退屈もしました。でも中盤以降からは、素直にアグレッシブで、まっすぐに心を熱くする演技に引き込まれ、MONO版では感じ取れなかった、この戯曲の新しい側面を見られたように思います。
MONO版は暗くて卑屈な雰囲気が前面に出ていて(ビデオだったからかも)、あまり好きになれなかったんです。でも今作を最後まで観てちょっと好きになりました。ラストシーンが素晴らしかった。
役者さんの演技については、まず「その役柄(人物)であること」が当然のように出来てらっしゃったので、とても観やすかったです。敢えて少し挙げると、「新劇っぽい」といわれるような「型にはまった」演技がたま~に気になりました。そして、間(ま)を詰めすぎたためにシーンが早く通り過ぎてしまうのがもったいないと何度か感じました。でも江古田ストアハウスで前売り3000円でMONOの戯曲、と考えるとレベルは高いと思います。
ここからネタバレします。
“男”になった久野(小林大輔)の送別会で、割られたガラス窓から雨や風が吹き込んできて、皆はパニックに陥ります。でも笹川(多根周作)は「雨なんて今はどうでもいい!」「誇りを持って生きていたいんだ」と主張します。MONO版では笹川を水沼健さんが演じてらっしゃったんですが、最初からあきらめているように見えていました。でも今作では、嵐の音と音楽の応援も加わり、一人の人間の本気の主張としてその気持ちがまっすぐに伝わってきました。私はこっちの方が好きでしたね。押さえられない感情が溢れてて、無鉄砲で。
笹川(多根周作)はハイツ結城を作った故・結城さんのことをずっと愛していて、結城さんの娘の小百合(はざまみゆき)はゲイの笹川のことを愛していた、という悲しい結末が美しいです。笹川のことを恋心いっぱいに切なく見つめる小百合の表情と、小百合の視線を背に受けながら、その想いは受け入れられないとはっきり伝える、凛々しい笹川が良かった。
ナツメロがよくかかりましたが、とても雰囲気に合っていて・・・というか音楽がシーンを作っていましたね。演出の加藤さんご自身が選曲されたそうです。
笹川が部屋にこもってかける「メリー・ジェーン」(←いきなり音楽が鳴ります)が良かったですね~。嵐のシーンでは演技と音楽の尺がぴったり合っていました。小百合が笹川に告白するラストシーンで「ラストダンスは私に」がかかるのは絶妙!泣けちゃいましたよ。上手いな~と思ったのは終演後の客出しの時のジョン・レノンの「イマジン」。人間が同じ人間を差別することを描いた作品でもありますから、耳にも胸にも残りました。
多根周作さん。ルールを遵守する笹川役。テキパキしすぎで神経質な性格がよく出ていました。もう少し崩すところが増えてもいい気がします。あと、ヘアサロンで働いていた人には見えなかったかな。最後の白いシャツがセクシー!あのシャツ欲しい!これはファンの個人的つぶやきですが『猫堀骨董店』での優しいメガネ君が忘れられません。できればメガネをかけていて欲しかった・・・って勝手ですね(笑)。
伊原農さん。水球部のキャプテンだった源田役。体がかっこいいんですわ、ほんと(笑)。だからむやみに露出してくれていて嬉しかったです。そして一瞬だけ見せてくれたスーツ姿が拝みたいぐらいかっこ良かった。真田(松本たけひろ)が源田の右手にしがみつくシーンは絵になりました。
枝元萌さん。牛乳を配達するお姉さん役。爆発力といい瞬発力といい、素晴らしかったですね。体型とキャラを生かしてどんどん色んなコメディに出てもらいたいです。
横山利彦さん。ゲイバーを経営している吉村役。客演さんなんですね。お上手でした。でも笑えるところまでは行かなかったかな。
ハイリンドは役者さんだけのユニットだそうです。珍しいんじゃないでしょうか?今後も戯曲を選んで演出家を呼んで続けて行かれるそうです。
出演=伊原農/枝元萌/多根周作/はざまみゆき/松本たけひろ/小林大輔/横山利彦
作=土田英生 演出=加藤健一 舞台美術=向井登子 舞台監督=井関景太(るうと工房) 照明=toyama(y/s company) 音響=細倉彩 演出補=高須誠 宣伝美術=西山昭彦 スチール=夏生かれん webデザイン=古川健司、藪地夏子 制作=竹内佐江(Double-Decker)
前売(10/24発売):3000円(平日マチネ2800円) 当日:3300円 全席自由
ハイリンド=http://www.hylind.net/
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