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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年02月05日

青年団リンク・RoMT『髪をかきあげる』01/26-02/09アトリエ春風舎

 青年団リンク・RoMT(ロムト)は青年団演出部の田野邦彦さんの演劇ユニットです。鈴江俊郎さん(劇団八時半)の戯曲の2本立て公演ということで、まずは第40回岸田國士戯曲賞を受賞した『髪をかきあげる』を拝見してまいりました。もう一方は『待つ』です。

 鈴江さんの脚本はやっぱり面白い。脚本目当てでチケット買っちゃいます。文学座の鈴江作品を観たばかりでしたので、色々比べながら観ることになりました。うーん・・・田野さん演出の方が、比べ物にならないほど言葉が面白かったですね。

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 ≪あらすじ・作品解説≫ 公式サイトより引用。
 恋人の帰ってしまう部屋、ホタルを探す川辺、友人のやって来る部屋、つまらない駅前の喫茶店。
 それぞれの場所に点在し、すれ違う人々の、それぞれを取り巻くコドクと希望を描いた物語。
 第四十回岸田國士戯曲賞 受賞作品。劇作家鈴江俊郎の代表作。
 ≪ここまで≫

 舞台上には家具の種類がバラバラのダイニング・セットがあり、中央のテーブルは白い天板に銀色の足がついている無機質な台です。床と天井、壁は格子の柄が入った真っ黒な板で、周りには合計10本ぐらいの蛍光灯が白いコードで斜めにぶら下がっているため、美術全体はモノトーンでシャープな印象です。
 全体的に照明が暗くて壁も黒色なので、ずーっと黒い部屋に閉じ込められているような窮屈さを感じました。会社のシーンだけ蛍光灯の白い光で機械的な明るさになりましたが、他はランプの電球や冷蔵庫の中の照明などの間接的な明かりを使っていました。

 登場人物が皆んな予想外の話し方および行動をしていました。テレビドラマや日常生活でよく耳にする語感やニュアンスを、全て裏切っていたように思いました。例えばテーブルの上によく登ります。そして馬の真似をしたりして、よく吼えます。だけど人物としては自然に見えるんです。これってつまり、私が勝手に「普通」とか「平凡」とか「常識」だとされる話し方があると思い込んでいるだけで、人間は普段から、それぞれに個性的な話し方をしてるってことじゃないでしょうか。役者さんは声と言葉のバリエーションが勝負なんじゃないかな、と改めて思いました。

 10年前の脚本だということに少し驚きました。もっと最近のものだろうと思ったので。今も同じ、というか、今はこの戯曲に書かれた状況が少しエスカレート(慢性化?)した状態なんじゃないかと思います。
 自分を欲して(愛して)もらいたい。欲してくれればそれをあげる心積もりは有るし、準備もするし、なければそれを新たに生み出すこともする。でも、自分が特に何か(誰か)が欲しいわけじゃない。だから自分からは欲したり(愛したり)しない。ただ、「欲しいものがない」という立場にありながら、今あるもの、自分が持っているものが消えたり奪われたりすることには、強い拒否感を示す。
 『獅子を飼う』のレビューに書きましたが、これも“コンフリクト・フリー”という状態の一端なのではないでしょうか。 

 英語のニュースキャスターの声が聞こえるのですが、あれはおそらく9・11のニュースですね。

 ここからネタバレします。

 トモヨ(荻野友里)は上司の早川(太田宏)に強引にデートに誘われて、家の近くの喫茶店で会います。そこで早川に「君はきっと僕のことを好きになる」「ラブホテルとかに行くようになるよ」などとあきれるほど大っぴらに、ちょっとキチガイじみた口説き方をされて、「私のどこが好きなんですか?」と聞き返しました。すると早川は堂々と「(君の)顔が好き。あとは、髪がかきあげられるぐらい長ければもっといいね」と答えます。そして彼女は、「早く髪が伸びて欲しい」と強く思いながら、そのまま朝まで街を放浪することになるのです。

 早朝に帰宅すると、彼氏(セックスフレンド?)の中川が家で待っていました。ちょっとした口論みたいなものが起こるのですが、そこでトモヨは中川に自分のことを説明します。
 『私はデブだった。でも自分がデブであることを全く嫌だと思っていなかった。なのに小学校の時に先生と親が「痩せろ」と言うから、毎朝なわとびをして痩せた。先生も親も大喜びし、先生がそのことをクラスで発表したら、クラスメイトたちにすごく褒められて感心され、認められた。それ以来、私の身体は私のものじゃない。』
 そこから「だから、中川が私とセックスしたいんならするよ、でもそれは私が中川としたいからじゃない」という意味につながるんですね。
 でもその翌日、トモヨが会社に行くと、自分を口説いた早川が会社を辞めることになっていました。信州にある妻の実家に夫婦で移住し、農業をやることになったからでした。自分をストレートに欲してくれていたはずの早川が消えてしまい、トモヨは呆然とします。

 鈴江俊郎さんの脚本って、残酷ですよね。詩のように優しい言葉や平易な会話が続いたりするのに、大鉈(おおなた)を振り下ろして登場人物の人生をばっさり切ってしまいます。『湖のまるい星』では「本気で欲しいと思え!そうすれば手に入るよ!」とエールを送るところで止めてくださっていますが、今作では「欲しいと思ったって手に入らないことがある」「欲しいものを手に入れても、手に入れてみたら欲しかったものではなかったりする」「他人の欲望を受け入れることだけでは、自分は満たされない」「現状維持は不可能」等の逃れられない現実を示し、その中でもがく現代人を表していたように思います。

 川辺でホタルを探している男女が実は子供を亡くした夫婦だったとわかるまでが長くて、すごく退屈でした。わかってからは目からうろこ的感覚で面白くなりましたが、それまでの会話に少々不自然な長い間が多かったように思いました。

 ドイツ帰りの19歳(だっけ?)の少女(山本裕子)が強烈な存在感でした。足の傷を見せるためにスカートをまくしあげ、右太ももが全部露出した時はドキっとしましたね。ぽっちゃりさんなんですが、エッチでした。

 荻野友里さん。飯田トモヨ役。可愛いっス!ふてぶてしいのがイロっぽいッス!言葉や声、息のバリエーションもすごく多くてステキ。
 太田宏さん。トモヨの上司の早川役。やっぱりこの人に釘付けです。太田さんの演技レベルが高いので、他の人がかすんでしまった気もします。トモヨを喫茶店で口説くシーンで、白くて四角いランプに照らされた顔が恐ろしくて、かっこ良かったです。
 山本雅幸さん。トモヨの彼氏の中川役。馬の鳴きまねが狂ってて怖かったです。線が細いんだけど暴力的なところがかっこいいなと思いました。
 古屋隆太さん。中川の友人でトモヨの同僚の村井役。上半身裸なことが多かったですね(笑)。熱くって、そしてトボけてて面白かったです。

『髪をかきあげる』出演=山本雅幸/古屋隆太/荻野友里/山本裕子/太田宏/天明留理子/大塚洋
『待つ』出演=鈴木智香子/たむらみずほ/長野海/太田宏/西村和宏/古屋隆太
作=鈴江俊郎(劇団八時半) 演出=田野邦彦(青年団演出部) 舞台美術=鈴木健介 照明=西本彩 音響=薮公美子 制作=岩佐暁子+RoMT 宣伝美術=太田博久 総合プロデューサー=平田オリザ 企画・制作=青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 協力=劇団八時半 主催=(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
2/1休演日。各10ステージ。前売・予約・当日共同じ値段。日時指定・全席自由・整理番号付。一般『待つ』2,000円/『髪をかきあげる』2,500円学生・シニア(60歳以上) 【両公演とも】1,500円 高校生以下【両公演とも】1,000円/平日マチネ割引、2演目セット券あり
劇場内=http://www.komaba-agora.com/line_up/2006_1/romt.html
青年団内=http://www.seinendan.org/jpn/infolinks/infolinks051124.html稽古場日記 RoMT Live!=http://blog.livedoor.jp/romt2005/

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Posted by shinobu at 2006年02月05日 22:46 | TrackBack (0)