『ガラスの動物園』はテネシー・ウィリアムズ作の超有名な戯曲で、私は2001年のtpt版を拝見しています。演出のイリーナ・ブルックさんはピーター・ブルックさんの娘さんということで、かなり期待も高まっていました。
観劇後に10人ぐらいの人と感想を話し合ったら賛否両論の嵐。今回の演出はかなり思い切ったものでしたから仕方が無いと思います。私にとってはメルマガ号外まであと一歩の感動でした!なんと美しい夢だったことか!
≪あらすじ・作品紹介≫ amazonより引用。(役者名)を追加。
不況時代のセント・ルイスの裏街を舞台に、生活に疲れ果てて、昔の夢を追い、はかない幸せを夢見る母親(木内みどり)、脚が悪く、極度に内気な、婚期の遅れた姉(中嶋朋子)、青年らしい夢とみじめな現実に追われて家出する文学青年の弟(木場勝己)の3人が展開する抒情的な追憶の劇。作者の激しいヒューマニズムが全編に脈うつ名編で、この戯曲によって、ウイリアムズは、戦後アメリカ劇壇第一の有望な新人と認められた。
≪ここまで≫
びっこで内気で薄幸の少女、ローラの夢を描いた作品でした。
人間は空想します。日常から逃げ出して、頭の中で幸せを夢みます。時にそれは現実の絶大なる力によって簡単に消しつぶされてしまいます。でも、そのような実体のない、儚い夢こそが、この世で最も尊く美しいものなのではないか。何もかも忘れて、心と体をひとつにして、ガラスの一角獣が駆け巡る空に自分も羽ばたいていくことが、人間にとって何よりも大切なことなのではないか。そんなちょっと子供っぽい望みを信じさせてくれる、おとぎ話のような空間が何度も私を優しく包み込みました。私は舞台上のローラになって、無邪気に幸せの宇宙を飛び回りました。涙が何度も溢れました。
ここからネタバレします。
弟のトムの「このお芝居は・・・」という言葉で始まり、トムの回想として最後まで綴られていきます。人物はマリオネットのように少々ぎこちなさげに踊りながら登場します。お芝居という四角い宝箱の中の夢のメリーゴーランド・・・そんなイメージです。
原作では後半にしか登場しないジム(石母田史朗)が、前半のローラ達の想像のシーンから登場し、大胆に歌と踊りを披露するのが微笑ましいです。
舞台装置はかなりシンプルです。舞台奥と上下(かみしも)には天井から床へと、とろろ昆布のような模様と色の大きなスクリーンが垂らされて、そのままアマンダ、ローラ、トムの3人が住む家の壁になっています。下手壁側にレコード・プレイヤーが置かれ、舞台中央の下手寄りに3人掛けのソファ、上手寄りには4人用のダイニング・セットがあります。ソファの上手脇にサイドテーブルがあり、そのテーブルの下の棚にガラスの置物が飾られています。白くて大きな壁と茶色い木の床、白木の清潔そうな家具があるだけのシンプルなセットです。
照明が素晴らしかった。スクリーンの裏をうまく使ったり、空想、回想と現実を区別するのが大胆でした。舞台全部が真っ赤になったり、真ん中にサス(スポットライト)が当たって周りが真っ暗になったりという鮮やかな変化もありましたが、すごくゆっくりと、デリケートに色が変化していくこともあり、なかなかお目にかかれないクオリティでした。
白いスクリーンには大胆に映像が映されます。ガラスの動物たちがメリーゴーランドのように、夢のようにくるくる回ったり、家族を捨てて出て行った父親の顔が微笑んだり。人の顔はちょっと大きすぎる気がしました。また、最後にローラのアップが続くのもちょっとやりすぎかな~と。
ローラとジムがキスをした後、ローラは幸せの絶頂で舞い踊り、ジムは現実世界に引き戻されます。その差がはっきりと見えなかったのが残念。tpt版ではキスの直後にみのすけさんがじっと静止する演技があって、そこに二人の間の断裂が見えました。ジムがローラを決定的に傷つけて、彼女の夢が瞬時に消ししぼめられてしまったことをはっきりと表して欲しかったです。
家を飛び出したトムは「ガラスの香水瓶を見るたびにローラを思い出す」と最後の回想で言います。現実に押しつぶされてしまったトムが優しく、温かく思い出すのはローラなんですね。それはローラが生きていた空想の世界(つまりガラスの動物園)が、真に美しいものだったからです。ローラとトムのキスシーンでは、夢とその崩壊を鮮やかに描いて欲しいと思います。
木場勝己さん。弟トム役。いつもの木場さんの堅実な演技でした。観客に語りかけるのが柔らかくて良かったです。でも、もうちょっとはじけてもらいたかったな。
木内みどりさん。母親アマンダ役。噛みまくりでしたね(笑)。「サザエさんか、ちびまる子ちゃんのお母さんみたいだ」という感想が多々ありました。なるほど確かにそうだった。そういうキャラクターに固めて、微笑ましい、ただのわがままな奥様にしたんですね。私は嫌いではなかったです。
中嶋朋子さん。姉ローラ役。はまり役です!自信がなくて、いつもおろおろしているローラのか弱さ・儚さがものすごく自然でした。ジムにと一緒にガラスの動物で空想するシーンや、夢を見てゆるやかに舞うシーンで、私は涙、涙でした。
石母田史朗さん。青年紳士ジム役。気持ちの良い(良すぎる?)好青年を元気はつらつ演じてくださいました。背が高くてローラ役の中嶋さんとのバランスが美しかったです。プログラムによると青年座の若手注目度No.1だそうで、私は何度か拝見してきましたが、とうとうデビュー!って感じですね。これからも注目していきます。
THE GLASS MENAGERIE
出演=木内みどり/中嶋朋子/石母田史朗/木場勝己
作=テネシー・ウィリアムズ 翻訳=小田島雄志 演出=イリーナ・ブルック 美術=ノエル・ジネフリ 照明=服部基 音楽=フランク・フレンジー 音響=黒野尚 衣裳=黒須はな子 ヘアメイク=西川直子 振付=田井中智子 演出助手=鈴木ひがし 舞台監督=米倉幸雄
全18ステージ (月)休演 発売日=2005年12月4日 A席=5,250円/B席=3,150円/Z席=1,500円/当日学生券=50%割引
公式=http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/10000016.html
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