東京国際芸術祭ディレクターの市村作知雄さんの「どのような方策を国家がとろうが、アーティスト間の交流を絶やしてはいけない、というのが我々の主張である。」という文章を読んで、観に行くことを決めました。
いやー、濃い一日でした・・・とても面白かったです。明日(2/12)はなんと、4人の劇作家と4人の演出家による2時間ものシンポジウムがあるそうです。行きたいよー、でも行けないよー(涙)!
1日で4本観劇したのは生まれて初めて。今後はこんなことがないよう祈りたいものです(苦笑)。
TIF2006の舞台裏ブログ≪アメリカ現代戯曲≫
【中野成樹インタビュー】 【宮崎真子インタビュー】
私が一番好きだったのはD、ぐっと引き込まれて最後まで普通のお芝居のように観られたのはAでした。
私が観た順番に書きます。ネタバレします。
D■『セックスハビッツ・オブ・アメリカンウィメン』
THE SEX HABITS OF AMERICAN WOMEN (2004)
作=ジュリー・マリー・マイアット 翻訳=吉田恭子 演出=中野成樹((POOL-5)+フランケンズ)
出演=村上聡一/福田毅/野島真理/石橋志保(フランケンズ)/仲田真一郎/岩本えり
力がいい感じに抜けて軽快で、アイデアも面白かったです。素舞台のスフィアメックスを思い出しました。
舞台中央にボード(白板だったか黒板だったか)があり、「何をみてるの?1950⇔2006」と大きく書いてあります。つまり下手が1950年、上手が2006年で2つの時間が行き交う構成になっていました。
1950年は「アメリカ人女性のセックスの習慣について」というタイトルの本を書いている博士の一家が主人公。登場するのは博士フリッツとその妻で65歳のアグネス、オールドミスの娘デイジー、フリッツの部下でアグネスを愛してしまう若者エドガー、そして小さな赤ん坊が生まれたばかりの姪(だっけ?)のルビー。
フリッツは女性とセックスの開放についての本を出すような博士なのに、アグネスはフリッツとのセックスの後に自慰をしています。デイジーは生徒に嫌われているギスギス女教師で、フリッツには反発ばかり。
最後の“ウソ家族”の肖像には参りました・・・まさかアグネスが自分の愛人エドガーを、レズビアンだと判明した娘と結婚させるなんて・・・知らないのはフリッツだけ、というお粗末な家族像を、おまぬけ~に見せた軽いエンディングでした。
「ビング・クロスビーが流れる」というト書きを読むのに、二度目はそれが流れなかったのが切なくてよかったです。
2006年は「女性とセックスの関係について」調査するために、カメラマンの男がデジカメをまわしながら、決して若くはない女性ジョイにインタビューをしています。
「関係を持つ(セックスをする)前にしゃべりすぎてる」「止まって、考えて、殺したくないの」
「いい恋愛といいセックスはすれ違う。それはドレッシングの酢と油みたいに」
「(ジョイが父、母、娘の写真をどんどん見せている)そしてこれが私の恋人。ビデオを止めて。これは私のプライベートだから。」
下着姿になるものの、立ってあえぎ声を言うだけのセックスシーンが笑えました。
1950年に登場しているルビーは赤ん坊を連れてよくフリッツ宅を訪れるのですが、その赤ん坊が2006年でインタビューを受けているジョイだってことがわかった時は衝撃でした。
「何をみてるの?」は"What are you looking at?"か"What are you searching for?"か、そんな意味かなって思いました。フリッツがセックスの開放を説いた本を出して、その影響もあってか、1970年代のフリーセックスの時代のど真ん中を生きたジョイがいて。50年経った今も同じように女性について、セックスについて人間は探り続けているんだけれども、でも、やっぱり「愛」は見つかっていない。そんな意味かしら、と。
C■『ベラージオ;もしくはメタル製のすべてのもの;もしくはおじいちゃんがパパを射殺させるとき』
BELLAGIO; or Of all Things Made of Metal; or When Grandpapa Had Daddy Shot (2005)
作=マック・ウェルマン 演出=中島諒人
出演=斉藤頼陽/中川玲奈/西堀慶(ジンジャントロプスボイセイ)/藤岡武洋(劇団MAC(高知))/村上里美(高知)
黒い上下のラフな格好をした役者さんが、舞台面側に一直線に並んだ学校の勉強机にずらりと腰掛けて(もしくは席で立って)、ただ読み上げていくのが基本でした。セリフは力を過剰に入れて、低い声で怖いような雰囲気で、一直線にしゃべり続けるような方法で、残念ながら言葉が胸に入って来ず、何も分からないままに終わってしまいました・・・。もともとの戯曲も難解なものだそうで、私は最初に入って行けず、脱落した・・・ということですね。ちゃんと聞いていたら後半は面白くなったそうですよ。
演出がジンジャントロプスボイセイの中島諒人さんなので、予想外の動きとか面白い衣裳などを期待しちゃってたんですよね。時々音響効果や演技、照明などで変化がありましたけど、小さいものでした。
B■『アクト・ア・レディ ~アメリカ中西部ドラッグショー~』
ACT A LADY, a mid-western drag show in three acts (2005)
作=ジョーダン・ハリソン 翻訳=須藤鈴 演出=江本純子(毛皮族)
出演=みのすけ(NYLON100℃)/金子清文/水谷ノブ/太田緑ロランス/柿丸美智恵/江本純子
毛皮族の江本純子さん演出ということで、客席が急に埋まりました。大人気だな~。ま、私もジュンリーの大ファンですが(笑)。
アメリカ中西部の架空の村で、男達が女装をしてお芝居をするお話。劇中劇の時は照明が赤くなって、村での会話と区別されていました。ミラーボールにピンクの照明がきれいでした。
太田緑ロランスさんがフランス語や偽フランス語(笑)をしゃべったり、江本さんがマイクに「パッパッドゥバッ!」などと息声を吹きかけたり、みのすけさんが突然歌いながらセリフを言ったりと、面白いアイデアと工夫がたくさん見られました。ただ、上手いところと下手なところの差が激しかったし、噛むこともめちゃくちゃ多くて、聞き苦し過ぎましたね~。
また「○○役は××役を演じていた俳優が演じる」などと、後半になるとト書きで配役が変更されます。みんな同じ衣裳だし登場人物も多いし、劇中劇なのか日常劇なのかわからなくなってしまいました。
音楽も面白い、というか毛皮族っぽかったですね。「マイアヒ」でオープニング&エンディング、柿丸美智恵さんのピアノの生伴奏、極めつけは最後のジュンリー・ライブ(笑)。しかしあれはファンサービスとしては成立するかもしれませんが、作品としては失敗・・・でしょう。残念。噂によると昨日の方が良い出来だったそうです。
江本純子さんはヘアメイクの若い女役。やっぱかっこいい。太田緑ロランスさんは信心深い妻役。声が美しい。水谷ノブさんはゲイ(?)の役者役で、色っぽかったです。
A■『メイヘム』
MAYHEM (2000)
作=ケリー・スチュアート 翻訳=川島健 演出=宮崎真子
出演=阿部一徳(ク・ナウカ)/大原康裕(文学座)/塩田朋子(文学座)/坪井木の実(俳優座)
Mayhemとは破壊、傷害、大混乱、荒廃などを示す英単語です。
とてもシンプルに明快に、戯曲そのものを伝えてくださいました。しゃべり言葉はいかにも新劇っぽくて興ざめなこともありましたが、全体としてはとても質の高い、演劇でした。
スーザン(坪井木の実)は小さな子供がいる妻で、夫のデイヴィッド(阿部一徳)は薬物依存およびアルコール中毒からの復帰を支援するカウンセラー。決して裕福とはいえない暮らしをしている。スーザンの女友達のクレア(塩田朋子)はジェノサイド(虐殺)や女性の虐待に強い興味を持つ独身女性で、かなり神経質。スーザンはクレアに誘われて、アフガニスタンの現状について話し合うミーティングに行き、カメラマンのウェズリー(大原康裕)と出会う。
「アフリカや中東で起こっている虐殺やテロなどは、アメリカなどの先進国による武器輸出に起因している」「スーザンとデイヴィッドが昔住んでいたスラム街での発砲事件についても、そもそもネイティブ・アフリカンを奴隷としてアメリカに連れてきたことが発端だ」
自国の現在および過去の罪を問い、それに対して行動を起こしている人、自分のことで精一杯の人・・・。高い志で正しいことを成そうとしても、自分の足元から崩れてしまいます。身につまされます。
民主党大会が盛大に行われる中、デモに参加した人々は武力で弾圧されていたという事実。最後のセリフは「ロサンジェルス警察のクソッタレ!」でした。
スーザンとウェズリーとの間に恋愛が感じられなかったのが残念。
プログラムディレクション=市村作知雄(TIF)/吉田恭子(アーツ・ミッドウエスト)/ポリー・カール(プレイライツ・センター)マイケル・ディクソン(ガスリー・シアター) ドラマトゥルク=長島確 主催=NPO法人アートネットワーク・ジャパン 1本=1000円 4本セット券=2000円
公式=http://tif.anj.or.jp/program/america.html
東京国際芸術祭=http://tif.anj.or.jp/
NPO法人アートネットワーク・ジャパン=http://anj.or.jp/
にしすがも創造舎=http://sozosha.anj.or.jp/
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