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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年02月22日

神奈川芸術文化財団『モローラ-灰』02/17-21神奈川県立青少年センターホール

 チェルフィッチュブログ2のエントリー()の引力で、すかさずチケットを予約しました。チラシを何度も拝見して気になってはいたのですが、会場が横浜だから躊躇していたのです。
 千秋楽は超満員で、演劇界の有名人もいっぱい。そして期待を裏切らない作品でした!信頼している人のネット上のクチコミは本当にありがたいです。
 ※NHKの舞台中継で近いうちに全国放送されるようです。どうぞお見逃しなく!

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 『南アフリカのワインを飲む会』サイト内の『モローラ』情報ページがすごく充実していますので、そこから引用させていただきます。当日パンフレットに書かれている内容と同じようです。公演は終了していますのでネタバレします。

 ≪作品について≫ 「作品について」より。
 『モローラ―灰』は、ギリシア悲劇「オレステイア」三部作を、アパルトヘイト以後の南アフリカを舞台に、大胆に翻案した作品です。

 ≪あらすじ≫ 「あらすじ」より。
 舞台の中央に、土で長方形につくられた墓。舞台の両奥には2つの古い机が向き合うように置かれている。正面奥には客席に向いて椅子が置かれ、そこにはコロスの女たちが座る。彼女たちはコーサ族の歌を歌う。
 「真実和解委員会」。クリテムネストラが机につき、夫アガメムノンを殺したことを証言し、傍聴人の前で過去が再現される――。
 父アガメムノンが殺されるのを目撃した娘エレクトラは、弟オレステスが成長し、復讐の機が熟するまで山に逃がす。クリテムネストラはオレステスをどこに隠したとエレクトラを拷問する。7年後、オレステスは戻り、素性を隠してクリテムネストラにみずからの死を偽って告げる。
 エレクトラはオレステスと復讐を誓い合う。オレステスはまず義父アイギストスを殺し、クリテムネストラを殺そうとするが、やり遂げることができない。エレクトラが斧を奪い、クリテムネストラを殺そうとするが、コロスの女たちが彼女を押さえ斧を取り上げ…。
 ≪ここまで≫ 

 南アフリカというと、小学生の頃にアパルトヘイトという人種差別がある国だと社会科で習いました。でも1994年に廃止されているんですね(Wikipediaより)。
 ネルソン・マンデラ氏が大統領になってから「真実和解委員会」が発足し、そこで行われたのは、“犯罪者が被害者に対面し、恩赦を受けるために自ら犯した罪を告白する”という方法です。白人が、黒人をはじめとする有色人種に対して行ったむごたらしい行為の全てを、ありのままに、被害者の前で告白します。そして告白をした白人は免責されるのです。すごい赦しですよね。
 この作品はその「真実和解委員会」にクリテムネストラが召還され、被害者のエレクトラの前で自分が犯した罪を告白する形式を取っています。

 美術はごくシンプルです。上手と下手にデスクがあり、クリテムネストラとエレクトラが席について「真実和解委員会」のシーンになります。中央の四角いステージの中央には土が盛られており、墓を思わせます。その土の上や近くで、白人(クリテムネストラ)が黒人(エレクトラ)に振るった暴力を再現しますので、肉体と水、血、土が交じり合って生々しいです。クリテムネストラとエレクトラの関係は親による子の虐待も表しており、胸が痛みました。

 台本・演出のヤエル・ファーバーさんのインタビューから引用します。
 『南アフリカは、苦難の歴史を歩んできたにもかかわらず、その苦難を増幅する道を選びませんでした。人々が見せた格別の恩情は、いくつもの「力のある」大国が困難に際し見せることができなかった、精神的かつ道徳上の大勝利でした。・・・(中略)・・・何百万もの語られることのない物語の中で、赦しが復讐にとって代わった場所、それが私の国、南アフリカです。』
 開演前にパンフレットに書かれたこの文章を読んだ時から、ちょっと涙ぐんでしまいました。全然知らなかった・・・。「目には目を、歯には歯を」という復讐の連鎖が今も生まれ続けているこの世界の中で、すでにこんなに偉大な赦しがあったなんて。

 「オレステイア」では、オレステスは義父アイギストスに続いて、実の母クリテムネストラも殺してしまいますが、今作ではオレステスもエレクトラも、コロスの女たちに引き止められて踏みとどまります。コロスの女たちは彼等の祖先であり、「人を殺してはいけない」「復讐は永遠に続く呪いだ」「お願いやめて」と歌いながらオレステスとエレクトラに語りかけ、実際に彼等の身体を掴んで、母親に殴りかかろうとするのを止めるのです。
 オレステスがアイギストスを殺すシーン(ゴム長靴の中から血にまみれた心臓を取り出す演技)から、恐ろしくて悲しくて涙がぼろぼろ溢れました。次に母親を殺そうとしたエレクトラを、祖先であるコロスが抱いて引き止めます。泣きじゃくるエレクトラを抱いて、優しく撫でて、さすって・・・。私は号泣しちゃってました。

 コロスの女たちが合唱・演奏するのはコーサ族の音楽で、何百年も変わらずに続いてきた歴史のあるものだそうです。豊満なおばさんたちの歌声が素晴らしかったです。地に根を張ったようにずっしりとしていながら、自由で柔らかく、温かさがあります。簡単なつくりの打楽器・弦楽器の素朴な音色と仲良く寄り添いながら、人間の体が持つリズムにそのまま沿って響いてくるような波を感じました。おばさんたちの腰の据わった佇まいも優しくて、私はすっかり子供のような心持ちになり、リラックスして甘えてしまっていました。

 俳優さんの舞台上での存在の仕方が、日本人俳優と異なるということを再確認しました。去年、ドイツ演劇を数本()拝見した時にも思ったのですが、まず、舞台の上でとても自然に立って(存在して)います。セリフを言っている時も言ってない時も、その俳優自身の感情や好みなどの中身が露出していないのです。例えばどんなに激昂していても、そこに静寂があります。一瞬見ただけでその人が間近にいるように感じたり、心をグっと掴まれるようなことは起こりにくいですが、作品中の人物としてそこに居るので、作品全体を観賞しやすくなっているように感じます。
 どうやらこの感覚を私は好きになってきているようです。だからアングラが苦手だし、型にはまったような話し方やキャラクター重視のストーリー芝居に、面白みを感じられなくなってきているのだと思います。

"MOLORA" by Yeal Farber 日本初演(字幕上演) 祝祭!舞台フェスティバル 神奈川県立青少年センターリニューアル記念
出演=ジェニファー・ステイン(クリテムネストラ)/ムバリ・ンコシディンツィ(エレクトラ)/サンディーレ・マチェーニ(オレスティス)/ンゴゴ文化グループ(コロス)
台本・演出=ヤエル・ファーバー プロダクション&カンパニーマネージャー=リー・コロンビック 舞台監督=サリー・クレイト
公式=http://www.h3.dion.ne.jp/~win-tom/molora.htm
神奈川芸術文化財団=http://www.kanagawa-arts.or.jp/

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Posted by shinobu at 2006年02月22日 00:53 | TrackBack (0)