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2006年03月02日

日本演出者協会『若手演出家コンクール2005最終審査 前川知大「トロイメライ」』02/28-03/05「劇」小劇場

 日本演出者協会が毎年開催している若手演出家コンクール最終審査に初めて伺いました。最終審査に残った4名の若手演出家は、「2時間で仕込んで、1時間弱上演して、1時間でバラす(持ち時間は合計4時間)」という強行スケジュールをこなします。各作品2度上演され、最終日の夜に公開審査が行われます。4本全部観た方には観客投票の権利が与えられるそうです。
 今日はイキウメの脚本・演出家の前川知大さんの作品『トロイメライ』の第1回目の発表でした。

 ★前日の石橋和加子さんの作品『桃湯~ももゆ~』についてのレビューが早々とアップされています。⇒小劇場系
 ★前川知大さん『トロイメライ』のレビューも⇒小劇場系

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 ≪あらすじ≫ 当日パンフレットより引用。(役者名)を追加。
 意識不明のまま三年間を過ごし、自分の誕生日に息を引き取った女(黒川深雪)。
 葬式で夫(山本佳希)の前に現れたのは、妻の最後の三年間を共に過ごしたという男(浜田信也)だった。
 ≪ここまで≫

 「劇」小劇場のもともとの壁や柱をうまくつかった、シンプルながら実は凝っているかっこいい美術でした。照明もきれいでしたね。厚みを感じられる空間でした。

 うーんと、何から書き始めてもネタバレになってしまうので、とりあえず全体についての率直な感想を。
 とても演劇的な作品でした。やっぱり前川さんの脚本は面白いです。医学・科学についての豊富な知識を基盤にした、大量の緻密なセリフで硬質な印象を与えつつ、ごく普通の人間関係や男女間の恋愛から生まれる悲しみのドラマをじっくりと見せてくださいました。終演後のポストパフォーマンストークで審査員の方々から「叙情的だ」という感想がありましたが、その通りだと思います。

 ただ、そのような脚本に役者さんの技術が追いついていないように見えてしまいました。トークの時に前川さんご自身が「今回は2ステージしかないということで、役者もすごく緊張してたみたいです。普段の初日よりもずっと。」とおっしゃっていたので、極度の緊張が原因だったのかもしれません。きっと3月15日からのイキウメ公演では完成度の高いものを見せていただけるのだと期待します。

 ここからネタバレします。

 幕開けの音楽(Mゼロ)がすっごく長くかかっていて、それが良かったですね。あれぐらいじーんわり、ゆーっくり聴いていることで、とっつきにくい劇世界に入る準備が出来るのだと思います。

 夫・周司(山本佳希)が一人の男(盛隆二)に妻・雪枝(黒川深雪)のお葬式のことを説明し始めます。舞台下手で周司と男が話をし、中央から上手にかけて配置された少し高いステージの上で、お葬式の様子が数人の役者さんによって演じられます。周司も時どき喪主として登場し、途中で説明のために下手に戻ったりもします。
 周司から説明を受けている男は刑事で、雪枝の弟・青海(國重直也)にも聞き込みをします。周司と青海はずっと仲が悪く、青海は姉(=雪枝)が周司に殺されたと思い込んでいるのです。このシーンで初めて、殺人事件の捜査の名目で刑事が関わっているということがわかります。

 雪枝は、自宅で周司に介護されていた死ぬ前の昏睡状態の3年間、眠りの中で曽我という若い男(浜田信也)と暮らしていました。周司の世界から見ると雪枝と曽我との生活は“夢”ですが、曽我と雪枝が一緒に暮らす世界から見ると、周司の世界が“夢”になります。元気だったころの雪枝は周司に「ある浜辺で男の人(=曽我)に会った夢を見た」と説明し、昏睡状態になってからの雪枝は曽我に「私のことをずっと世話してくれてる人(=周司)がいる」と説明します。

 周司は雪枝との過去について刑事に説明し、青海は姉と義兄のことを刑事に説明し、雪枝は夢の内容を周司や曽我に説明します。後ほど、曽我も自分の身に起きたこと(雪枝と出会ったこと)を刑事に説明することになります。つまり、誰かが誰かに説明するという形式をとって、劇世界が作り上げられていくのです。
 これは・・・高度な演じ分けが必要です。回想シーンで普通にその場に居る演技をしている途中で、いきなり説明シーンに変わったりしますし、雪枝なんて存在する場所がころころと何種類も変化するんですよね。病気になって周司と暮らすシーン(病院&自宅)、周司の夢を見ていると思いながら曽我と暮らすシーン、死んだ自分を外から眺めるシーンなど。立場をすばやく切り替えるだけでも大変だし、切り替わった瞬間からそれぞれの場にしっかり存在しなければいけないんですよね。それができていればものすごい感動作になったと思うのですが・・・。メインの3人(周司、雪枝、曽我)の負担が極端に大きいんですよね。

 2人の男の間を夢の中にいながら行き来する雪枝が死に、とうとう周司と曽我が雪枝の葬式で出会います(死ぬ前に雪枝が、自宅の住所を書いたメモを曽我に残したから)。これがすごくドラマチック!周司が必死で雪枝を介護していた3年間は、曽我が雪枝と過ごした夢のような3年間と重なっています。「その3年間は無駄じゃなかった」という結末は温かくて素敵だなと思いました。

 「トロイメライ」はシューマンの有名な曲ですよね。ピアノじゃなくて弦楽器(?)演奏のものが1回だけかかりました。さり気なくって良かったです。

 ≪ポストパフォーマンストーク≫
 出演は審査員4名、過去の最終審査で優勝した演出家1名と前川知大さん。(以下、敬称略)
 
 青井陽治「カナダのジョン・マイトン(John Mighton, 『A Little Year(小さな歳月)』『The Possible World(ポッシブル・ワールド)』)に似ている。マイトンは劇作家としてよりも数学者や哲学者として有名な人物なんだけれど。(前川さんのこの作品も)詩的、叙情的だが硬質さを内にはらんでいる。」
 お名前不明「文科系ではない雰囲気。大脳生理学的。新しいものを目指している。」
 前川「そうですね、文科系ではないかも。読んでいる雑誌も日経サイエンスやニュートンなどのNature系が多いです。例えば今作の脳死とか昏睡の患者など、(劇作の)根っこになるものやネタは、サイエンスから取ってます。SFも好きです。」

 お名前不明「前作『散歩する…』では概念を変えるということがテーマになっていた。既成のものを変えることを目指しているような。既存の何かを疑って創作しているのがわかる(だから、良い)。」

 流山児祥「とっても良くできていて、つまらない。舞台でしかできない身体(からだ)を目指さないと。これだったらテレビでもいいじゃないか、と。例えば水一滴、舞台に落とすだけでスリリングになる。ステージに穴をぼこぼこ空けるとかね(笑)。」
 前川「あぁ、歩きづらいですよねー(笑)。」


 私は青井陽治さんとほぼ同感でした。確かに『ポッシブル・ワールド』と似ているし、硬質だけれど叙情的っていうのもその通りだと思います。
 また、流山児祥さんのおっしゃることにもうなづけました。流山児さんの提案した演出については同意ではないですけれど、たしかに、舞台にスリルが足りなかったんですよね。それは役者さんがそこに生きていなかったからだと思います。これから改善されれば嬉しいです。

 ※審査員および演出家の方にお願いです。もっとはっきり、ゆっくり話していただきたいです。前に集まった方々だけで内輪話のような感覚で話をされてしまうと、観客はすごく聞きづらいし居心地が悪いです。

★2/27・3/6・3/7→トークイベントあり。詳細はこちら
出演=山本佳希(ハラホロシャングリラ)/黒川深雪(InnocentSphere)/浜田信也(イキウメ)/國重直也(イキウメ)/盛隆二(イキウメ)/池上ゆき(イキウメ)/長澤素子/渡辺トオル(ファルスシアター)
脚本・演出=前川知大 舞台監督=小野八着 照明=松本大介 音響=鏑木知宏 舞台美術=土峡研一 制作=吉田直美
最終審査 参加演出家=石橋和加子(神奈川県、コスモル)『桃湯~ももゆ~』/笠井友仁(大阪府、hmp)『traveler』/橋口幸絵(北海道、劇団千年王國)『古事記一幕・イザナキとイザナミ』/前川知大(東京都、イキウメ)『トロイメライ』
2000円ですべて観劇可能。
公式=http://www.k2.dion.ne.jp/~jda/wakate_top.html

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Posted by shinobu at 2006年03月02日 00:37 | TrackBack (1)