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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年03月16日

イキウメ『短編集 Vol.1-図書館的人生-』03/15-21サンモールスタジオ

 イキウメは前川知大さんが脚本・演出を手がける劇団です。シアターガイド4月号で紹介し、とても楽しみにしておりました。キャッチコピーは「生と死と記憶に関する五つの物語」ということで、5本のオムニバスです。
 5本ともものすごく密度が濃くって、めちゃ集中して最後まで拝見いたしました。若手演出家コンクールで先行上演された「トロイメライ」でぼろぼろ泣いちゃいましたねぇ・・・。

 上演時間は途中休憩10分間を挟んでおよそ2時間30分弱です。全席自由席ですのでどうぞお早めに劇場へおはこびください。前売り完売ステージ続出中です!
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 生と死と記憶がキーワードということで、全体のイメージは少し暗くて重厚感があります。照明はかなり豪華(吊られている灯体の量が多い)で、繊細なグラデーションや大胆かつ派手な演出を使い分けて、シンプルな抽象美術を自在に変化させます。
 前川さんの脚本は、必要なものだけをぎゅっと凝縮してムダ(およびそれほど重要でないもの)をそぎ落としていっている気がします。その密度と綿密な構成が刺激的です。※前川さんの過去作品のレビュー⇒
 一人が話す一回のセリフがとても長く、色んな分野の専門用語が出てきますので少々難しいです。しかも役者さんが早口気味に話します。だからついていくのにちょっと努力が必要ですが、その緊張感が心地よいです。なにしろ内容が面白いですから。
 
 役者さんは前作同様、やはり問題ない程度に上手いと思います。絶賛はできないですけど、サンモールスタジオで前売2500円の小劇場劇団のお芝居である点で見ればハイレベルです。

 作品全体のバランスとしては最後の「トロイメライ」がちょっと長過ぎましたね。他の短編との具体的なリンクも見えづらかったので、「トロイメライ」だけがぽっこり独立していた印象が残ったのは残念。でも私はビョービョー泣いてたんですけどね(笑)。

 ここからネタバレします。≪あらすじ≫はチラシから引用。(役者名)を追加。

■「図書館的人生」
 出演=緒方健児/野村修一/國重直也/宇井タカシ
 ≪気がつくと、私(=天野。緒方健児)は見知らぬ部屋で座っていた。目の前の男(野村修一)は図書館職員で、何故か私以上に私を知っている。そして彼は、私が会ったこともない私の兄(宇井タカシ)を、私に紹介する。≫
 
 図書館といっても死んだ人間の記憶(記録)を管理する図書館です。セリフでは「フォーマットセンター」とも言っていましたね。
 いきなり難解なSFでどっきりしました。でもこのインパクトがあったから次に備えられました。すっごく短かったですね。10分ぐらいしかなかったんじゃないかしら。
 

■「青の記憶」
 出演=筒井則行/浜田信也/長澤素子/池上ゆき/渡辺トオル/岩本幸子/野村修一
 ≪病院の一室で地震に襲われる五人。揺れが治まってみると、状況は一変していた。窓から見えた太陽は月に変わり、ドアの向こうには、永遠に続く廊下があった。≫

 医療、地震、輪廻、コンピュータなどに関する専門用語が早口で飛び交い、言葉が意味や心をともなわないで、段取りに沿って発せられていると感じられることがあり、ちょっと残念。でも中盤から盛り返しましたね。

 治験バイトに集まった4人の他人とビルディング・ドクターの天野(渡辺トオル)の合計5人は、前世に何度も関わりあっている因縁を持った人たちでした。地震がきっかけで世界がおかしくなったため、地震が起こる前までの数分間を何度も繰り返します。じわじわとじらしながら、終盤に加速度的に盛り上がっていくのが上手いなと思いました。
 月だと思っていた青くて丸い星が地球だったというのが良かったな~。宇宙に飛びましたね~。

 「図書館的人生」で登場した図書館職員(野村修一)がここでも医師の格好をして登場し、死(臨死)後の世界とリンクします。


 【休憩10分】
 休憩があることに驚きました。でも席を立って伸びをしておいて良かったです。
 ※初日は2作上演した後に休憩でしたが、変更されて4作上演後になったそうです。


■「輪廻TM」
 出演=森下創/筒井則行/宇井タカシ
 ≪ある寺の住職は、夜な夜な地下室で秘密の実験を繰り返していた。そして終に完成したその装置で、坊主は時空を超える。≫

 自分の前世・来世を見られるタイムマシーン(=TM。車イスなんだけど)に乗って旅をします。かなり軽いタッチで楽しめました。
 どうしても自分の来世が見たいという男(宇井タカシ)が最初に輪廻TMに乗り、自分の次の来世を見て絶叫します。「(オレの)来世超めんどくせーーーーーーーっ!!」。これサイコーに笑えました。
 ラストに56億7000万年先に行った坊主(筒井則行)は息絶えた様子で、仏教サイコホラー(?)な空気がかっこ良かったです。


■「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」
 出演=岩本幸子/緒方健児/盛隆二/宇井タカシ
 ≪投身自殺寸前の女・神崎恵(岩本幸子)の前に、二人の男が現れる。止めにきたわけではなさそうだ。男は言う。どうせ死ぬなら移植医療にご協力を。その体と、その記憶と、そして残った寿命を回収したい。≫

 まさに自殺をしようとしている女(岩本幸子)のところにやってきたのは“魂の情報化”担当の天野(緒方健児)と、“肉体の情報化”担当の桜井(盛隆二)でした。天野は「図書館的人生」で、生まれ変わることを選ばずに図書館職員(?)になった男なんですね。
 死が目前にあるのに、3人の会話がどんどん軽やかになっていくのが楽しいです。神崎役の岩本幸子さんが良かったですね。

 桜井が神崎の来世をシュミレーションします。「今自殺をすると来世はコートジボアールのコーヒー工場の息子、60歳まで生きたら・・・!!」神崎の来世はどうやらすごいものらしいということが判り、早く魂をリセットさせてポイントを稼ぎたい天野と、60歳まで生きて“すごい来世”を迎えて欲しいと思う桜井の間で対立が起こります。「NintendoDSのソフトを全部買ってやる」という条件で天野が折れたのが可笑しかったな(笑)。

 神崎は自分が殺した男の死体(宇井タカシ)に乗り移って生き残ることになりました。彼女は「輪廻TM」で“どうしても自分の来世が見たい男(宇井タカシ)”として登場するんですね。最後に彼女(彼)の来世が“初の女性天皇”だったということが判明。そりゃ「超めんどくせーーーーーーーっ!!」わね(笑)。タイトルの「神が女王を救う」にもつながります。


■「トロイメライ」
 出演=山本佳希/黒川深雪/若狭勝也/國重直也/盛隆二/野村修一/長澤素子/渡辺トオル/池上ゆき
 ≪意識不明のまま三年間を過ごし、自分の誕生日に息を引き取った女(黒川深雪)。葬式で夫(山本佳希)の前に現れたのは、妻の最後の三年間を共に過ごしたという男(若狭勝也)だった。≫

 若手演出家コンクールで拝見しました。演出は少々変わっており、役者さんの演技のクオリティがかなり上がっていました。泣いちゃったな~。曽我役が浜田信也さんから若狭勝也さん(KAKUTA)になりました。

 周司(山本佳希)が義弟(國重直也)に向かってしぼりだす「お前、すごいな・・・」というセリフがグっと刺さりました。悲しいよー。
 周司は雪枝(黒川深雪)を病院から連れ出して自宅介護を始めます。雪枝が楽しそうに「夢の中で私に話しかけて、私の面倒を見てくれる人がいるの」と曽我に話す度に、曽我の苛立ちは増して行きます。夢を見続ける雪枝を挟んで、周司と曽我が対極にいる関係性が鮮やかに伝わってきました。

 そしてラストの雪枝の葬式で、周司と曽我が出会うシーンで号泣ですよ、私! なんて悲しい、美しい三角関係!雪枝が周司の優しい言葉たちに導かれて、病院のベッドに戻ってきたことにも納得。「僕達の3年間は無駄じゃなかったんですよ」という曽我のセリフでまた泣けました。若狭勝也さんの演技がすごく良かったです。

 ただ、最後に「トロイメライ」が流れた時はちょっと・・・・やりすぎかな~という気がしました。うっとりできなかったですね。なぜだろう。音楽については全編を通して1つの曲が流れましたが、それもちょっとくどいかな~と思います。

 他の短編と有機的にリンクされていたのは図書館職員(野村修一)が葬儀屋として登場していたことでしょう。刑事の桜井(盛隆二)は「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」の“肉体の情報化”担当ですが、名前と役者さんが被ってるだけかもな~。


 今作の出演者は合計15人で、そのうち劇団員は8人です。たとえば「トロイメライ」だと主要人物3人全員が客演ですよね。前作の主役も絶対王様の有川マコトさんでした。これから劇団としてどういう方向に進んでいくのかな~と、興味が沸くところです。
 イキウメの次回公演は来年3月@吉祥寺シアターです。前川知大さんの脚本は6月にG-upで、10月に七里ガ浜オールスターズで上演されます。

生と死と記憶に関する五つの物語 「青の記憶」(改訂)/「図書館的人生」(私家版境界線変相・改訂)/「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」(新作)/「輪廻TM」(新作)/「トロイメライ」(新作)
出演=宇井タカシ/森下創/岩本幸子/緒方健児/池上ゆき/浜田信也/盛隆二/國重直也/黒川深雪(InnocentSphere)/筒井則行/長澤素子/野村修一/山本佳希(ハラホロシャングリラ)/若狭勝也(KAKUTA)/渡辺トオル(ファルスシアター)
脚本・演出=前川知大 舞台監督=小野八着(JET STREAM) 舞台美術=土岐研一 照明=松本大介 音響=鏑木知宏(KURSK.sound) 衣装=吉岡麻衣 楽曲提供=303 宣伝美術=高井真 制作=吉田直美
2/15発売 11ステージ 前売2500円 当日2800円(日時指定・全席自由・整理番号付)
公式=http://www10.plala.or.jp/ikiume/

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Posted by shinobu at 2006年03月16日 14:37 | TrackBack (0)