まずは初日の興奮冷めやらぬ写真つき速報をご覧ください♪
クラブ「斜陽」は『乱歩プレイ』を髣髴させる空間でした。こんなに嫌みなくスムーズに、でもちょっとイケないムードが漂う“大人のおもてなし”って、中々できることではありません。開場時間に何らかのイベントが催されることはよくありますが、ここまで完成度の高いものっていうと『コクーン歌舞伎』ぐらいしか思いつかないですね(センスの種類は違いますが)。
そして肝心の作品については・・・戸惑いまくりでした(苦笑)。でも最後にはストンと腑に落ちたというか・・・。戦後日本の男と女が何を感じながら生きて、そして死んできたのかが、詩のようにぽとり、ぽとりとこぼれました。廃校になった中学校の体育館で、これまでの50年の月日が体をすり抜けていくような感覚でした。
構成・演出の倉迫康史さんがOrt-d.dのBBSに「ここ三年の集大成です」と書かれています。クラブ「斜陽」と作品を観て、その意味がよくわかりました。
ここからネタバレします。読んでから観に行かれても大丈夫じゃないかと思います。あらすじや展開を知ってから観ても、あの空間の独特な雰囲気を味わうのに問題はないからです。
踊り子さんと女給さんのレビューから華やかに開幕します。これが最高に楽しい!開演前に舞台のソファに座って、自分がすでに会場に溶け込んでいたのもあると思います。
盛り上がりが最高潮に達して暗転し、次に明転した時には、空間全体が暗くて寂しいムードに変身していました。お酒が入っていたのもあると思いますが、一気に奈落の底に突き落とされたような気分でしたね・・・。頭から冷や水をぶっかけられた感覚といいますか、かなりショックでした(苦笑)。
「冬の花火」「春の枯葉」「おさん」の3作品からなるオムニバスです。途中に休憩はありません。「冬の花火」でショックを受け、「春の枯葉」で混乱し、「おさん」で納得、という風に私の気持ちは流れ着きました。
音楽はかなりの冒険をされていたと思います。録音と生演奏、レトロな音楽と金属的な効果音などの強烈なミクスチャーで、あまりに意外なので頭がクラっとするぐらいでした。そういえば空間全体も和洋折衷で、今と昔(50年前)とが乱暴に混ざり合っていましたね。
■「冬の花火」
(出演=女:市川梢/寺内亜矢子/三橋麻子 男=岡田宗介/山田宏平/村上哲也)
1人の人物を3人で演じます。いわゆるOrt-d.dらしい朗読の手法がよく見て取られる作風でした。舞台の下手端、中央、上手端に女優さんがいたので、首をすばやく左右に振りながら見なければいけない状態でした。体育館、広っ!!私はイス席の最前列だったのですが、もう一つ後ろの列ぐらいが良かったかもしれません。
ダメ男ばかりが勢ぞろいで、ちょっと切なくなりつつも笑えましたね(笑ってる人は少なかったですが)。大真面目にえらそぶってて、でも言ってることもやってることも、ただの子供っぽいわがままなんだよなって思いました。それを全て知っていながら強く生きようとする女が悲しく見えました。
■「春の枯葉」
(出演=先生:村上哲也/節子:寺内亜矢子/節子の母:三橋麻子/奥田先生=岡田宗介/菊代=市川梢)
誰が誰の妹で、妻なのかがわからなくなってしまい、混乱するうちに終わってしまいました・・・。
村上哲也さんの酔っ払い演技はコンテンポラリーダンスような動きと、色んな工夫が施されたセリフの話し方で、見ごたえがありました。
市川梢さんがすっごく可愛かったです。可愛いというより可憐ですね。小説「斜陽」に出てくる女のイメージとばっちり重なりました。
■「おさん」
(出演=妻:三橋麻子/夫:山田宏平)
3作目がもっとも普通の演劇に近いスタイルでした。おめおめと生き残ってしまい、生きる意味や気概をすっかり失ってしまった夫と、何もかもを受け入れて、子供と夫と一緒に這いつくばってでも生きていこうとする妻。夫が知らない女と入水自殺することにも、「男って馬鹿だ」と言う女にも納得でした。
三橋麻子さんと山田宏平さんの演技の密度が高く、一挙手一投足に集中して拝見できました。声も良かったです。
ク・ナウカの阿部一徳さん、ユニークポイントの山路誠さんがクラブの客としてゲスト出演されていました。阿部さんは『わが友ヒットラー』に、山路さんは『昏睡』(その他)で倉迫さんと組んでらっしゃいます。
照明器具は『四谷怪談』(←Bacchusに劇評を書かせていただきました)や『こゝろ』に登場していた可愛らしい子たちがたくさん居て、装置には『エレクトラ』で使われていた(ような)黒い格子もありました。踊り子さんや演奏家さん達には『サーカス物語』の出演者も居るそうです。その他にもOrt-d.dの過去作品を思わせる演出がたっぷり。まさに集大成ですね。
Ort-d.dは『昏睡』、『サーカス物語』に続き、今作で、にしすがも創造舎特設劇場での3回の舞台創作をしたことになります。1作ごとに体育館が成長し、場と共に演劇とそこに集まる人とのつながりが息づいてきているように感じます。
出演=市川梢/岡田宗介/寺内亜矢子(ク・ナウカ)/三橋麻子(Ort-d.d)/村上哲也/山田宏平(山の手事情社)
原作=太宰治 構成・演出=倉迫康史(Ort-d.d) 美術=伊藤雅子 照明=木藤歩 (balance,inc) サウンドデザイン=棚川寛子 衣裳・ヘアメイク=ROCCA WORKS 衣裳制作=梶山知子 野村佳世 宣伝美術=山本ゆうか(ten ade) ROCCA WORKS スチール=萩原靖 舞台監督=弘光哲也 主催=NPO法人アートネットワーク・ジャパン/Ort-d.d
クラブ「斜陽」演出=田丸こよみ
出演(女給・踊り子)=緒田果南/小田さやか/金子由菜/さとうまりこ/谷口直子/渡辺麻依/大川麻里江/佐藤茜/住吉梨紗
1月11日(水)発売 6ステージ 一般3,000円/学生2,000円(当日要学生証提示) 豊島区民割引 2,500円(TIFのみ取扱)
東京国際芸術祭(TIF)2006内=http://tif.anj.or.jp/program/dazai.html
Ort-d.d=http://www16.plala.or.jp/ort
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