映画「ソイレント・グリーン(Soylent Green) 」と「ブギーナイツ(Boogie Nights) 」をもとにドイツ人のルネ・ポレシュさんが作・演出された作品です。これからご覧になる方は、この2作品の情報を頭に入れておく方がいいと思います。
強烈でした・・・入り口からすごく戸惑わされるし、首が痛くなるし(苦笑)。形式としては明らかに演劇ですが、演劇を観に行くつもりで劇場に行くと、裏切られること間違いなし(笑)。
好き嫌いは激しく分かれる作品です。でもこの2時間のことを、私はきっと一生忘れないと思います。舞台(?)を観ながら、私はただただ考えて、考えて、考えて・・・考えることを強いられ続けました。ポツドールを初めて観た時の感覚と、もしかしたら似てるかも。
前売り5250円っていうのは普段のtptよりも少し安い目だと思います。この作品ならリーズナブルです。4/16(日)まで。
※tptブログが充実しています。特にネットラジオはものすごい情報量!初日乾杯時のインタビュー長すぎ(笑)。でも聞く価値ありです。
↓2014年11/25にツイート追加。⇒中川安奈さんのお別れの会
◆舞台【皆に伝えよ!ソイレント・グリーンは人肉だと】(2006年) http://t.co/fwSai8hx5C
中川安奈 木内みどり 池田有希子 長谷川博己 pic.twitter.com/Jrcg4nD8tI
— omeme@12/19wowow平田! (@obaomeme) 2014, 11月 24
開演時刻の5分前から客席への誘導が開始されます。一歩劇場内に足を踏み入れた途端に私に起こった感情は「は、は、恥ずかしい!!」ってこと。自分の人生のダークサイドというか、表舞台にはあまり出したくないもの(出さない方が無難なもの)ばかりが並べ立てられていて、しかも私はその中に入らなければならなかったんです(客席に座らなきゃだめだから)。ものすごい居心地の悪さ、というかバツの悪さでした。
現代のあらゆるモノ・コトが並列に、同等に、そこに在りました。裏表、善悪、男女など二律背反するものが同居していることはよく見られる演出ですが、そういったものではありませんでした。セックス、資本主義、テレビ、愛、モラル、生態系、ゴミなどが等間隔に陳列されているというか・・・。でもカオスではなかったです。ひとつひとつが独立、自立しており、相互関係を持っているというよりは、しらっと他人行儀なたたずまいで、ただ、そこに在りました。
劇場は(私たちの生きる世界は)当然ながら三次元ですが、それがぺしゃっと縮んで限りなく二次元に近くなったような、ものすごい平ぺったさを感じました。無数の突起物が延々と広がっていくカラフル&ポップな平原のイメージ。そこに生身の俳優(=三次元の存在)がほけら~っと寝てたり、演技をしたりしなかったり、決まったルール(演出)どおりに動いていたりして、とてつもない違和感でした。
白い垂れ幕に書かれていたピンク色の文字の「Post Human(ポスト・ヒューマン)」ってすごい表現ですね。ライブドア事件が起こったことからもわかるように、今の日本は実質的には下克上な資本主義社会です。子供が売春し、若い上司と年寄りの部下が誕生し、同性愛者の結婚が認められ(世界の一部で)、子供のためのアニメは大人の快楽となり、愛の秘め事であったセックスは今やファッションです(数年前なら杉本彩さんのご活躍など考えられなかったことです)。
それを“差別からの開放”とか“モラルの低下”などと呼び、過去と今との変化を表す言葉として簡単に表現してきましたが、人類は階段を登るようにひとつのステップを上がったのではなく、過去とは不連続な、全く新しい地平にやってきてしまったのかもしれません。
ポルドール『夢の城』と似てると思ったのは、お芝居を観ている時に思考を強いられたことと、私が漠然と信じ、頼ってきた“愛”という神様のような存在について、疑わざるを得なくなったことです(演出方法も作品の意図も全く別のものなのですが)。
パンフレットは脚本が全編掲載されて1000円です。ルネ・ポレシュさんのインタビューも充実しており、お買い得だと思います。
ここからネタバレします。
いわばフリースペース形式の劇場空間でした。客席はL字型に設置され、それに挟まれた舞台の中央にあるのは小さな山小屋のような天蓋つきベッド。普段のプロセニアム形式時だと舞台になっている空間は、青いビニールシートが壁およびカーテンにとなって覆っており、その奥の部屋の中が見えない状態になっています。
その他、劇場の中に散在するのは、実物大の鹿の剥製を囲む白い柵スペース、L字型の客席の真ん中のお立ち台、萌え系アニメキャラの絵が貼り付けられた座布団。ピンク、緑などの節操のない色の蛍光灯照明。客席上方キャットウォークには「おかえりなさいませ」の文字。
俳優たちは見えない部屋の中で演技をし、その一部始終をデジタルビデオカメラを持った男が撮影します。撮影されている映像がオンタイム(生放送)で、部屋の外側(客席側)にある巨大スクリーンに映し出されるという仕組みです。俳優が部屋の外にはあまり出てこないので、お芝居が進行するのを目で見るなら、スクリーンを見続けなければなりません。最初は平気だったのですが、だんだんとカメラの揺れに酔って気持ち悪くなったり、俳優を見ることが重要だとは思わなくなってきたので、私は目の前の小屋(ベッド)やカーテン自体を見つめたり、目をつぶったりして、声と言葉に集中力を傾けるようにしました。
俳優はマイクを持って声を発さずに(息声で)ささやくようにセリフを話します。基本的に独白です。声を出すこともありますが、演技をしているというよりは“演技をする演技”をしています。またはただただ怒鳴りまくったり。ノリノリの音楽はおよそシーンに合ってはいないし、突然ブチっと切られます。俳優が火を点けるねずみ花火の乱暴な音も唐突です。プロンプターが居て、セリフを忘れた俳優にマイクで次のセリフを教えているのがスクリーンに映っていました(プロンプターもカメラマンもカーテンコールに出てきました)。
セリフから引用します。
「おカネは不滅でなければならない、なぜならおカネは、いつでも、どんなときでも、この世のあらゆる商品と等しい価値を、持ち続けるべき存在だから。おカネとはそもそも、存在しないものから、不滅のマテリアルからできてるに違いない。あなたと同じように。あなたも不滅のマテリアルからできてるに違いない。わたしはあなたを愛してる。あなたは傷つき破れてる、傷つき破れたお札は、銀行で取り替えてくれる。お札そのものに価値はない、価値があるのは、その上に表示されてることだけ。ソイレント・グリーンは人間だって、みんなに伝えて。」
「わたしたちがここで語るのは大まかなストーリーで、実際に起こることとはほとんど関係がない、このズレこそわたしたちの意識であり、ここではそれを、ポスト・ヒューマンと呼ぼう!」
「あなたを愛してる、そしてポルノでは愛なんてクリアな概念じゃない、それっていい!」
「お金で買えないものはない」とライブドア元CEOが言ったらしいってことは、私も聞いたことがありました。あの時は「ふーん」って聞き流してましたけど、実は「本当にそうかもしれない」って感じてました。私はそれを意図的に無視していたのでしょう。愛って何?親子って何?愛のあるセックスと愛のないセックスの違いって? 疑問につぐ疑問があふれかえって、この繋がりのないポルノのセットの前で、私はただただ考え続けました。答えはまだ出てません。でも漠然とですが何かの形にはなりかけています。
終盤近くのシーン→映画「ソイレント・グリーン」のエンドロール(だと思う)が何度も繰り返し映し出される巨大スクリーンの前で、緑色の紙ふぶき(=人工食物「ソイレント・グリーン」)を送風機で吹き散らしながら、ストロボ照明の中で俳優たちがコマ送りに踊り狂います。これもまた突然終わるんだけど。
どうやら私は体力的にも精神的にも、脳の中も飽和点に達してしまったらしく、この何もかもが一緒くたになった地獄のような、奇跡のようなシーンで、涙がぼろぼろ流れました。胸が焼けて、のどが熱くて、後頭部がじんじんして、上半身が固まってしまったような感覚。
パンフレットのインタビューより抜粋します。
ポレシュ「もしもこのテキストに引用された哲学自体について理解したければ、どうかフーコーの著書を買って読んでほしい。そこにすべて書いてあるから。」
ポレシュ「われわれがやろうとしているのは、フーコーの哲学を理解することではなく、彼の理論を、あくまでも利用するのが目的なんだ。それは要するに、舞台に立っている俳優と、演出家と、それを見に来ている観客とが、演劇という素材を、自分自身の生活にどう応用するかを考える、とういうこと。応用することを分かち合う場が、私の演劇なんだ。」
劇場ロビーの壁に貼ってあったミシェル・フーコーの言葉です。
「私が望んだのは、つねに実在する者に関わることだった。つまり、場所と日付を付与し得ること、もはや何も語らない氏名の背後、大体において誤認や虚偽、不当、誇張となりがちなそれらの敏速な語群の背後に、ともあれ確実にそれらの語群が示しているものの背後に、生き、死んでいった者たち、苦悩や悪意、嫉妬、怒号が存在したこと。それ故私は、空想や文学となりうるものを一切排除した。」
出演=池田有希子/木内みどり/中川安奈/長谷川博己 カメラ=河内崇 プロンプ=熊林弘高
作・演出=ルネ・ポレシュ 美術=ヤニーナ・アウディック 訳=本田雅也 日本語台本=木内宏昌 照明=笠原俊幸 音響=熊野大輔 ヘア&メイクアップ=鎌田直樹 衣装スーパーバイザー=原まさみ 美術アシスタント=松岡泉 通訳=岡本美枝 舞台監督=増田裕幸 主催・製作=TPT 共同主催=東京ドイツ文化センター
発売開始2月25日(土)から。17ステージ。(火)休演。全席指定5,250円 学生料金3,150円(TPTのみのお取り扱い)
公式=http://www.tpt.co.jp/
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