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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年04月16日

青空美人プロデュース『怪力』04/15-23吉祥寺シアター

 tptで多数の翻訳や演出をされて大活躍の木内宏昌さんが作・演出する青空美人プロデュース。私は初見です。ベテランの俳優やスタッフとよくお仕事をされている木内さんが、若手の俳優と一緒にいったい何をやらかしてくれるんだろう?と、とっても期待して初日に伺いました。

 公式サイトより「時も場所も異なるエピソード3話」ということで、3話のオムニバス形式です。「表現する力のやわらかなアドベンチャー」という言葉のとおり、私は脳内で波乱に富んだ豊かな旅をしました。その世界はとても不可思議で、そして広大でした。
 面白かった・・・(恍惚のため息)。吉祥寺シアターで初めて“吉祥寺シアターでないどこか”に連れて行ってもらえました。観終わった後になってまたじわじわと来ますね~。余韻の残り方が強いです。上演時間は約2時間です。

 レビュー⇒ほぼ観劇日記踊る芝居好きのダメ人間日記休むに似たり。

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 誰も近寄らない彼方の小国で水がしたたかに溢れている・・・。ポトン、ポトンと水が滴る深い洞窟のような、はたまたピラミッドの頂上のような舞台に、洞察力と機知に富んだ、知性あふれるセリフが注ぎ込まれ、tptっぽいスノッブなムードが劇場に満ちます。なのに突然その世界をひっくりかえし、さらに横に転がしちゃうぐらいに壊して、変質させてしまうのです。何度唖然とさせられたことか・・・!(笑)

 「これは何を意図しているんだろう?」とがんばって考えたり予想したりするのですが、すぐにそんな思考を超える何かが起こって、頭が真っ白になっちゃうのです。なので私は、言葉にひっかかって留まったり、考えたりすることをやんわり放棄して、大人の粋な遊び心にゆらりと身を任せて、美しい水、恐ろしい水で飽和状態の吉祥寺シアターを漂うことにしました。

 全く違う時代の違う場所での3つのエピソードはうっすらとリンクしています。形式としては確かに3つの短編集なのですが、その間に挟まれるシーンも多彩で個性が強く、全体の印象としては奇妙な調和の取れた異種格闘技のよう(笑)。出演者の年齢層の幅が比較的に広いことも、作品のデコボコ感を増しています。全部ひっくるめて『怪力』だと感じ取って良いのでしょう。

 前に見たかもしれない風景、聞いたことがあるかもしれない言葉を少しずつ頭の隅っこにキープしながら、普通に悲しんだり笑ったり、驚いたりして観劇を続けました。そして最後のシーンで「ああぁ~・・・そういうことだったのか~・・・」と作品の構造に気づき、終演後の座席で『怪力』の世界に浸りこみました。どこかで感じたことがあるこの感触は・・・白井晃さんが演出されたポール・オースターの世界に、少しだけ似てるのかも。

 吉祥寺シアターの広い空間を埋めることができない公演が多い中、今作は舞台上に俳優がたった一人で座っているだけでその空間を支配できていました。役者さんの演技というよりも、演出およびスタッフワークの勝利だと思います。劇場を知り尽くしている音響・照明さんがついているって凄いことなんですね。あの空間を前売り3500円で味えるのはお得な気がします。

 ここからネタバレします。続きをアップしました(2006/04/20)。

 各エピソードの⇒以下の一文は当日パンフレットより引用。
 セリフは完全に正確ではありません。

●第1のエピソード
 ⇒過去。タイガの国は、ヒガシの国の忘れられた植民地。降り続く雨のなか、水門番の屋敷にヒガシの国の軍人がやってくる。

 舞台は雨が降り続ける国。ものすごい湿気を感じました。「しっとり」ではなく不快感をともなうほどの湿度です。水によって外界とのつながりを遮断された辺境の地で、野蛮な水門番(木村健三)と、男として育てられたその娘(坪井美奈子)、そして彼らを捨てる美しい妻(金崎敬江)が一年に一度の再会を果たします。

 軍人の未亡人アンナ・カレーニナ(石橋けい)と通訳(鶴牧万里)とのアヴァンチュールで登場する「トラム・タム・タム」というセリフは、チェーホフの『三人姉妹』でマーシャとヴェルシーニンが交わす合言葉ですね。

 透明の巨大なビニール・シートによる転換は、死を呼ぶほどの大量の水とはかない夢のイメージが重なりました。ただ、初日だったからでしょうが、転換要員の役者さんの所作に戸惑いが見えたのは残念。
 物語の途中に挿入された踊り(若松智子)は「なぜここで踊りが?」と奇妙に思いましたが、流線型の女性の体が美しかったです。

 悲しいお話がひと段落したのかな・・・というところで、通訳の男(鶴牧万里)が舞台つら中央に立ち、マイクを持って説明を始めました。これが衝撃的!マイクってマイクロフォンですよ!?水に沈む異郷の切ない物語を詩情たっぷりに描ききったところで、マイク! イメージぶち壊し(笑)。そして次のエピソードではまったく違う世界になりました。※マイクで説明された内容は、この時は理解できませんでした。


●第2のエピソード
 ⇒現代。水門のある公園。羊のベンチは人気のスポット。さまざまな二人組が行き交う雨上がりの午後。なにかがおかしい。

 サーモンピンクと水色の羊と牛(?)のイス兼用オブジェが置かれています。それに座って話す、主婦2人、男女、そして水門番とニートの若者。語られる内容は第1のエピソードと部分的に重なります。
 主婦を男優さんが演じていることに驚きました。しかも女装がとても中途半端(笑)。演技についても言葉が少々女らしいぐらいで、本気で女性になろうとはしていません。主婦の娘役を沖田乱さんが演じてらっしゃることも考えると(この衣装がまた強烈!)、不特定多数の人間の集まり(=この世界)をあらわす奇抜な演出だったのでしょう。

 政治的・社会的・歴史的に挑発的な発言がどんどん出てきますが、ちょっとしゃれた音楽のように滞ることなく流れていきました。
 しゃべりすぎる理数系の女(金崎敬江)とただ待つ姿勢でいるずるい男(由地慶伍)の対話が面白かったです。

○歌とダンスの小景
 なんと、ここで歌とダンス!意味わかんない!でも楽しい!


●第3のエピソード
 ⇒現代。あるオーディションの風景。翻訳家が出席している。なにも始まっていないはずなのに、覚えのある人、モノ、言葉。

 ハンス・リー・シュメールという作家の、数ヶ国語の言語が使われている戯曲『怪力』を上演するにあたり、出演者のオーディションを行っています。いきなり「オーディション」の風景になる、この意外さ・・・ここまで来るともう「何でもかかって来い!」って気分でした(笑)。

 プロデューサー、演出家、翻訳家、キャスティング担当者、助手、主演女優に続いてスポンサー夫人が登場したところで、世界のヒエラルキー構造がはっきりします。オーディションを受けにやってくる俳優たちは、その世界にとっては異邦人です。

 他人、他人、他人・・・ちゃんと気遣いをするのは助手の若者(瀧川英次)だけ。誰もが自分の世界を崩すつもりも誰かに合わせるつもりも、無論、心を通じあわせるつもりもありません。でもひとつの目的を持った空間の中に複数の人間がいて、次々と知らない人が訪れる環境では、誰もが何かしらに反応しないわけにはいきいません。誰かが来る度、言葉を発する度、ポコっと何かが生まれているのです。それはまるで化学反応のように突発的で鮮やかな質的変化でした。それが人間のコミュニケーション風景なんじゃないかな。

 主演女優(石橋けい)の「この言葉、歌みたいね」という一言で、翻訳家(鶴牧万里)の脳裏にはタイガの国のビジョンが浮かびます。最後のシーンで翻訳家の空想世界として第1のエピソードのリプリーズ(reprise)が現れ、最初と最後がぐるりとつながって、『怪力』がひとつの世界になるのです。第1のエピソードは、第3のエピソードでオーディションが行われていた戯曲『怪力』の舞台そのものだったんですね。
 第1のエピソードで歌と音楽の生演奏が始まった時は妙な感じだったのですが、戯曲『怪力』のオープニングだったとわかって納得。スポンサーの依頼どおりミュージカルだったかもしれないんですから(笑)。

 ただ『怪力』が本当に舞台化されたとは限らないので、すべてが翻訳家の空想であったとも言えます。第2のエピソードは翻訳家の頭の中なんじゃないかしら。ハンス・リー・シュメールの世界にひたって翻訳をしている時によぎった、さまざまな言葉、意味、イメージの断片の集合だったような。

 最終的にストーリー・テラーとなった翻訳家であり通訳である男は、つまり木内さんご自身なんですよね。木内さんはロシアやドイツ、スウェーデン、アメリカの戯曲を翻訳されています。幻の作家ハンス・リー・シュメールも架空の人物で、翻訳家と同じく木内さんご自身でもあるのでしょう。第1、第2、第3のエピソードがところどころで重なっているのはそのためだと思います。

 劇中で何度も話題にのぼる創世記のノアの箱舟のお話について、当日パンフレットの木内さんの文章から引用します。
 「洪水伝説は差別と暴力を最初に正当化した歴史ではないか、そんなことを思って『怪力』を構想しました。洪水から逃れることができたの山頂は、じつは、「差別」と「争い」と「選び」の場所だった- そんな仮説が、3つのエピソードと舞台づくりの出発点です。」

出演=久松信美/石橋けい/木村健三/金崎敬江/沖田乱/坪井美奈子/瀧川英次/由地慶伍/片岡正二郎/鶴牧万里/若松智子(dance)/大森智治
作・演出=木内宏昌 美術=深瀬元喜 照明=増田隆芳 音響=藤田赤目 振付=若松智子 舞台監督=桑原淳 宣伝美術=森山真人 宣伝イラスト=深瀬元喜 音楽監修=片岡正二郎 衣装製作=砂田悠香里/萩野緑 小道具=栗山佳代子 装置協力=青木拓也/桑原勝行/富士川正美 制作=青空美人制作部・日原国子
発売開始 10ステージ 前売3,500円 当日3,800円(全席指定)
公式=http://www.din.or.jp/~azr-bjn/2006site/

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Posted by shinobu at 2006年04月16日 02:19 | TrackBack (0)